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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 11歳 やりすぎ領地改革 

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45 メイナ・リガードは穏やかに行きたい。

学園は平和です。

 引き続きメイナ・リガードです。

 恍惚とした顔で祈るように手を組んで跪くタラントさんに、訳知り顔で頷くスラート王子。まるで意味が分からず、私はそんな2人を交互に見比べる。

 なんか解決した、そんな空気を感じる。このままニコニコと笑って流してしまえばいいんだろうけど。

「つまり、窃盗犯はアナタということですね。」

 ここで流されてはいけない。私はリガードの娘で、将来の国母となるかもしれないのだ。

「え、いや、そ、そうなんですが。その。メイナ様に憧れていて、私、少しでもメイナ様に近づきたくて。」

「憧れたなら、無断で相手の持ち物を盗んでいい。アナタはそうおっしゃりたいのですね。」

「ご、ごめんなさい。魔が差してしまったんです。すべて大事に保管しているので。」

「今すぐ、すべて捨てなさい。」

 捨てる寸前だったとはいえ、気持ち悪い。

「えっそれは。」

「はっきりいって、不快です。」

 ここはばっさりと言っておく。曖昧な優しさで見逃して、悩み続けたり怯え続けたりする義理はない。

『いいですか、メイナ様。例え相手が、スラート王子や王様であっても、嫌だと思うこと、間違っていると思うことはきっちり伝えたほうがいいですよ。』

 私の友人にして、一番尊敬するあの子はかつてそういった。

「憧れてもらうのは光栄です。アナタにこれ以上、何かする気はありません。ですが、普通に気持ち悪いですから。わかりますか、気づいたら自分の持ち物がじわじわとなくなっていくんです。怖かったんですよ。イライラしましたよ。」

 腕を組みにらみつける。怒っていますという意思を全身で表現するとそれなりに迫力があるらしい。

「あ、ああ、あわわああ。」

 タラントさんが目に見えて怯え、スラート王子も若干引いている。

「・・・スラート様。」

 ついでに、スラート様にも言っておくことがあった。

「今回の件、非常に助かりました。ですが、捜査と称した殿下とお付きの方の振る舞いは目に余ります。威圧的な言動で他の生徒さんたちや先生たちを威圧し、犯人がわかったら、このように衆目にさらすような行為。これではこの国が乱暴者と思われてしょうがないのでは?」

「ぐっ、確かに。だが。」

「私を守ろうとしてくれたこと、それは非常にうれしいです。」

 正直、ちょっとキュンとしました。なんだかんだ私を守ってくれるスラート様は素敵です。

「ですが、スラート様は国を背負い、国を象徴する王子様なのです。もっと振る舞いには気を付けてくださいと、常日頃、お伝えしていたはずです。」

 少々思い込みが強く、「正義」と思ったら突っ走る傾向があるのが玉に瑕だ。

「捜査はともかく、証拠がそろったなら、学校の警備担当の人にお任せしてもよかったのでは、あるいは、せめて人目のないところでお話をすべきでした。違いますか。」

 かばうべきなのは、タラントさんだけでなく、スラート様の評判もだ。

「ぐぐ、そうだな。我ながら頭に血が上っていた。」

「わかっていただき、ありがとうございます。」

 なんだかんだ、反省してくれる。その時の子犬のような雰囲気がまた・・・。おっと今はそこじゃない。

「タラントさん、場所を変えて話しましょう。あなたのしたことは窃盗です。ですが事情を聞かせてください。大人も交えて。」

 その手を取ることに少しためらいがあった。でもタラントさん自体は悪い人じゃない。そんな気がした。

「め、メイナ様?」

「行き違いがあったなら、そこを正しましょう。その上で、アナタの思いも罪もはっきりさせたいんです。」

「で、でも私は。」

「いいから。ひどいようにはしません。」

 安心させるためにほほえむ。するとスラート様だけでなく、周囲も息をのむような気配があった。


 のちに「メイナ事案」と言われる窃盗事件は、表向きはこのように和解して解決した。


 生活指導の先生とカウンセラーも立ち会った別室での対談で、タラントさんは、私に憧れて私と仲良くなりたい一心での行動だったと告白した。その上で誠心誠意謝罪し、先生とスラート様立ち合いの場で、盗んだ小物を提出し、処分してくれた。

 その後は、私に遠慮して話しかけることは減ったけれど、絵画教室では世間話をするようになった。

「そうですね、私はまず全体の構図を考えるところから始めます。手をこうして囲いを作ってですね。キャンパスをイメージするんです。」

 彼女の絵画の才能は本物だった。特に人物画に関しては造形が深く、お詫びということで、私とスラート様が並び立つ絵をお詫びにとプレゼントしてくれた。

「お二人を含めた空気感とか背景を一緒にとらえるんです。」

 共に昼食をとる私たちを描いた絵はよくできていた。にこやかに意見交換をしながら食事を楽しむ私たちはとても楽しそうで、本物?と疑うほどでした。

「タラント女史の才能は面白いな。このような視点での絵画はめずらしい。」

「ええ、他の人にはこのように見えているのでしょうか?」

 スラート様にも好評だった。

 たしかに、王国の絵画の多くは正装してポーズをとったものを正面から描くスタイルが多い。けれど、食事風景をこのようにとらえた絵画はめずらしく、それでいて温かった。

 描く前にちゃんと、お断りをした上に、モデルになる時間がなかったというのもポイントが大きい。

「わたし、記憶力はいいんです。だから、見て覚えたものを絵で再現したくて、勉強していたんです。」

 会うたびに、申し訳なさそうな顔をしながら、タラントさんは色んな絵をみせてくれるようになった。ぐんぐんと上達していく絵に驚きながら。きちんと主張したことが誇らしい。

 あのまま流していれば、タラントさんはもっと致命的なことをしていたかもしれない。

 スラート様に任せきりだったとしたら、タラントさんは退学か、もっとひどい目にあって絵の才能を無為なものにしていたかもしれない。

「難しいな、人を見極めるのは。」

 タラントさんの絵を見るたびに、スラート様はそっとそうつぶやく。

 おそらくは、ストラとの出会いにまでさかのぼって反省しているのだろう。

「難しいです、だからこそ、私とともに考えてくれるスラート様をお慕いしていますわ。」

「そ、そうか。」

 ときどき行き過ぎることがあるけど、それでも私や周囲の人の話を聞こうと努力してくれる。そんなスラート様だからこそ、私は安心して恋をすることができるのかもしれない。

 惚れた弱みだ。

 ストラならそう言って苦笑いをするだろう。だけど、私の一番の友人である彼女にもスラート様を理解してほしいと思う。いやもう少し優しく当たってくれたらと思う。

 来年、彼女が学園へ来たとき、タラントさんを含めた素敵な友人増えたと自慢できるのが今から楽しみでしかない。きっと彼女も驚くだろう。

 そんなことを手紙に書きつつ、私は遠くに住む友人に、今回の件をどのように伝えるか頭を悩ませるのだった。


(ストラ視点)

 学園にいるメイナ様からの手紙を読んで、私は空を仰いだ。

「タラント・・・、タラントって。」

 ピンポイントで記憶にある名前だった。

 流浪の絵描きタラント。ゲームでは名前と作品だけ登場するなぞの絵描きだ。主人公が学園へ入学するまえに、悪役令嬢であるメイナによって学園を追放された天才絵描きと紹介された人物は、各地に日記、もといアーカイブを残している。メイナの遍歴や王国の闇の部分、そういったことを執念深く調査したかの人物のアーカイブは、スチールも含めてゲームのやりこみ要素であったが。

「なるほど、こういう展開か。」

 ストーリーを補完するカバーストーリーなのだが、その執念と憎しみから動画投稿サイトなどで、切り抜き画像や二次創作が作られるほどの人気コンテンツだったけど。まさかメイナ様の信望者になっているとは、思わなかった。

「まあ、とりあえず、絵本を送って、再現でもしてもらうかなー。」

 添付された絵画の完成度の高さ。それを思って私は子どもたちと作った絵本を送り付けて意見を求めることにした。もはや跡形もないシナリオよりも今は実益だ。


 まあ、そんな軽率な考えによって、王国で絵本が大流行りするという事態が起こるが、それはまた別の話。



ストラ「援軍、送っておくか。」

女王バチ「じじじじ(サーチアンドデストロイ)」

クマファミリー「ぐるるる(なら部下のアライグマたちを。)」

フクロウ組「ふるるるる(面白そうさだから、俺も)」

 やめて、学園が・・・。

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