44 フラグの有無とか関係なく、学校とは厄介な人間関係の縮図である。
学園いいとこ、みんなおいで
メイナ・リガードは才女である。
王家の親戚筋であり、国の根幹を支える辺境伯家の長女にして嫡子。その上、婚約者は次期王とも期待される第二王子であるスラート王子で、その関係も良好で次期王妃との可能性もある。将来性も含めて地位や重要性は王家にも継ぐ、VIPである。
数年前、彼女の母であるクレアが病に伏したことをきっかけに、横着で横暴なふるまいが目立っていたが、一年前にスラート王子との婚約が決まってから、彼女の状況と評価は変わった。
地位や立場を笠に着た横柄なふるまいはなりを潜め、相手の欠点を捜して嫌味を言うばかりで努力を怠る傲慢さは消え去った。子どものころから培った素養は、話相手の家や出身などについて理解を深め、相手の会話から興味を引き出す多彩さを発揮した。目端の利く視界は、些細な変化に気づき相手の所作を褒め、不調に気づいてケアをする優しさとなった。
なにより、母親と過ごすことで棘が取れただけでなく、彼女の容姿や衣服が年相応に調和のとれたものとなった。背伸びをして豪華な物を好んで使っていたちょっと痛い感じのコスチュームから清楚系にジョブチェンジ。もうねほほ笑むだけで美少女なんだよ、同姓だって惚れちゃうんだよ。
「うーん、でもあれだろ、お嬢と友達なんだろ。」
「そうだよー、恐れ多くもそう言ってくれてるんだよ。」
「だったら、きっとなんかあるんだろうなって。」
よし、やれくま吉。
「やめろ、ニコニコ笑いながらクマを嗾けるな。」
と理解のないケー兄ちゃんに分からせるべく、メイナ様の魅力を語ってみるが、このざまである。まあ、領主様の娘で貴族様だ。普通に考えれば健康で美少女なのは当然だし、ケイ兄ちゃんたちにとっては雲の上の存在である。
一番身近なのが腹グロ11歳な私なことも影響しているかもしれない。
ともあれ、メイナ様は美少女だ。ヒロインである。闇落ちするフラグの悉くを私がへし折った結果、正統お嬢様になったことは喜ばしい。
ホントゲームでのメイナ様の悪役令嬢っぷりといったら理不尽の権化だったからねー。ヒロインが入学する前に、数人の平民出身の生徒を退学に追い込んだとかシナリオで語られていたような。
「まあ、今のメイナ様なら逆にかばってそうだな。」
遠く学園で過ごす彼女が健やかであるように、私としては祈らずにいられなかった。
(メイナ視点)
スラート王子は愛が重い。私の親友にしてもっとも尊敬する彼女はスラート様のことをそういっていた。言われたときは、よくわからなかったけど。
「きさま、よくもメイナに。」
学園に入学して、2か月。私はその言葉をうんざりするほど理解していた。理解できてしまった。
「スラート様、あまり。」
「だ、大丈夫だ。メイナ、この不届き者は私が成敗。」
「落ち着けって言ってるでしょ。」
暴走した男の頭をはたくのは女の甲斐性。ストラの助言に従ってわりと遠慮なく叩くとやっとスラート様は落ち着いてくれた。
「す、すまない。とりみだした。」
「いえ、私を思ってのことですから、感謝しています。」
「当然だ。メイナを守るのは俺の役目で喜びだ。」
うれしいけど、この状況で言われると恥ずかしい。そしてこの思いゆえの暴走も慣れたものなのがちょっと。
「で、そこのあなた。スラート様が言っていることは事実なんですか。」
「は、はひ。」
改めて私は、スラート様が引きずり出し、なおかつ衆目の場でボコボコにしようとした女性徒だった。
「ええっと、タラントさんでしたっけ?」
「えっ、私の名前。」
「絵画の授業で、ご一緒だったじゃないですか。」
この学園、生徒の人数は非常に多い。そして出自や身分の関係もない実力主義。彼女も優れた絵の才能をもっていて、絵画の授業でご一緒した人だった。青色の色使いが素敵だったので名前を憶えていた。
「こ、こうえいです、まさかメイナ様に名前を憶えていてくださるなんて。」
名前を知られていた。その事実を前にしてタラントさんは目を輝かせて、立ち上がった。
「光栄です。まさか、まさか、私のような平民のことを覚えていてくださるなんて。」
ランランと危ない輝きをする瞳にちょっとだけ怖くなると、スラート王子が間に入ってくれた。
「身分云々は問わないが、急に詰め寄るな、メイナが驚いているだろうが。」
上からの高圧的な態度。だけどそれは頼もしかった。
「で、あなたが私のペンを。」
まずはそれを確認しよう。
事の始まりは、わずかな違和感だった。授業の後や休憩時間で持ちモノを確認すると、何かが足りない。最初はメモ帳として使っていた紙が数枚、気のせいかと思ったけど、もう使えないなと思った消しゴムやペンまで気づいたら無くなっていた。実害はほぼないモノだったけど、気味が悪くなりスラート王子に相談したら、彼女を引きずれてきた。
曰く、彼女が数日にわたって私の持ち物を持ち去る現場を王子や御つきの人達が目撃したそうだ。
「はい、すみません。」
そして、先ほどのやり取りである。ショックを受ける前にスラート様が色々とびっくりなことをしてくれたので、恐怖よりも驚きが勝ってしまい、私は冷静に彼女を見ることができた。
「どうしても、欲しくて。」
「そうなの?」
貴族である私の学用品は、一流の品である。だがたかが学用品であり、平民でも手がでるものだ。ましてペンや消しゴムは捨てる直前のものだった。
「い、いえ、そうではなく。」
首をかしげる私に、タラントさんは気まずそうに視線を逸らす。なんだろう、もしかして嫌がらせ?それこそ、ほとんど関わりはないけど、私は妬まれる立場で
「ち、違うんです、メイナ様の持ち物をもって、メイナ様のような淑女になりたくて。」
「ええ?」
まるで意味が分からない。
「なるほど、そういうことか。メイナも罪な女だな?」
スラート様はわかるの?
ストラ「青春うぜえー。」
メイナ「楽しいですよー。」
信者が増えて、時々持ち物がなくなるけど。
さて、ちょっと危ないファンに出会ってしまったメイナ様はいかなる返しをするのか、次回。解決編