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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 11歳 やりすぎ領地改革 
45/109

43 知らないところで意図せず上がった評価に興味はない。

辺境伯家のお話。

 さて、我らがハッサム村は村程度だが領地となる。曾祖父が武功を上げて叙勲し、国王から下賜された土地という名目で、辺境伯家から土地の管理と防衛を任されている。

 前世の感覚で言えば、父ちゃんが、村長というか、地方役場のトップ。リガード辺境伯様は都知事といったところだろう。そうは言っても、国境である山脈を含めた領土は王国の3分の1をほこりその規模は最大である。

 人口こそ王都の規模には及ばないが、各地の村や町で生産されている農作物や物資は王国の生活を支えている第一次産業の根幹をなす領であり、同時に厄介な2国からの嫌がらせを防ぐ防波堤な役割がある。

 辺境伯という言葉を聞くと、田舎とか僻地と勘違いしがちであるが、辺境伯というのは、独自の軍事力や、領土を広げる権力を持っている。そもそも王族との婚姻も定期的に行われているし、血筋的にも国の最高権力の一つである。

「はあ、また王都へ連絡をしなければならないか。」

 現、リガード辺境伯である、ストラーダは執務室で王城からの書状を見ながらため息をつく。

「旦那様、仮に王城からの懇願なんですから、そんな顔をしなくても。」

「だがな、この程度のことでいちいち呼びだされるのもなあ。」

 その様子にクスクスと笑う愛妻クレアに窘められて、本音が漏れる。

「中央軍の人事と訓練の視察。よほど自分たちの立場に自信がないらしい。」

 王都からの書状は、彼の手腕を期待した王都の軍隊とその人事への視察の依頼だった。

 過酷な自然や、気まぐれに襲い来る隣国の侵攻から国を守りづけている辺境伯家の力は強い。はっきりとした目的と分かりやすい脅威、それらに対処するために厳しい規律や訓練のおかげ高い結束力と実力がある。

 対して中央軍と言われる王都の守護兵たちは、数も多く装備の質も高い。だがその数の多さゆえに、緊張感に欠け、定期的な視察と引き締めが必要とされている。訓練への意識の低さや、一部の貴族による横やりなどによる人事の不正。そういったものを実力も立場もある辺境伯が視察する。という情けない慣習がある。

「半分は私たちへの媚び売りだ。なんとも情けない。」

 辺境と王都。それぞれの立場から助け合う関係といえば聞こえはいいが。辺境伯はそれだけで独立独歩に動ける力がある。それをしないのは、隣国との関係悪化への懸念や、人材の確保などの理由でこの関係が続いている。

「まあ、メイナの顔を見に行くついでと思えばいいか。」

「あら、そんなに過保護では嫌われてしまいますわよ。」

 立場的には対等、実力的には辺境伯の方が上である。ゆえに王都への呼び出しは要請や命令ではなく嘆願である。

「久しぶりの王都だ。クレアも楽しめばいい。」

「そうですね、改めてストラちゃんには感謝だわ。」

 すっかり健康を取り戻し、かつて快活さを取り戻した妻と共に王都へ旅行感覚で出発の準備をする辺境伯家は平和なものだった。


 さて、そんな風に穏やかな辺境伯家なのだが。

 ストラのゲームの記憶の中では、ストーリーのラスボス的な存在となっていた。

 母親の病気から、愛情不足によって歪んでしまい、わがままかつ残酷な性格になったメイナ。妻を失ったことで娘を溺愛してしまうストラーダと辺境伯家の関係者たち。スラート王子とのルートでは、メイナが婚約破棄されたことをきっかけに、闇落ちしてクーデターを起こし、他のシナリオではクレアという支柱を失った悲しみでポンコツになったところを隣国に付け込まれて傀儡となる。

「猿の件もそうだが、なかなかどうして忙しくなりそうだ。」

「幸いなことに、スラート王子もガルーダ王子も、優秀で、我が家にも理解があるから助かりますけど、平和ボケした連中も多そうですねー。」

 楽しそうに微笑む愛妻クレアに、ストラーダは苦笑いをする。彼女が病に伏せて以来数年ぶりの王都への視察である。彼女の存在を侮っていた貴族連中は震え上がることになる。そんな予感がしたのだ。

「隣国もきな臭い。まったく忙しいな。」

 そして、自分もまた久しぶりの憂いない旅行に血が騒ぐという事態に笑みを浮かべるのだった。


 ボタンの掛け違い、バタフライエフェクトと言えばいいのだろうか?

 本来ならば、メイナの皮肉に涙を我慢して黙り込むはずだったストラ。それがとった行動によって引き出されたメイナの本音。その後の展開は辺境伯家にとっては福音だったと言える。


「もしも、あの夜会でメイナと薬師殿が出会ってなかったら。」

 学生時代の親友だったとはいえ、身分の違いが大きすぎて本来ならば、その場にいるはずもないハッサム家。彼らの人柄を理解し、その娘に会いたいと思って無理を言って招待した。

 その判断が間違っていなかったこと。

 何より予想以上の傑物であるストラ・ハッサムという少女と出会えたことの幸運にストラーダは感謝していた。

「せめてもの礼だ。」

「ええそうね。」

 辺境伯夫婦は、ストラのことを高く評価し、その懸念も分かっていた。

「彼女が学園へ通う前に、王都の膿はきれいにしておこう。」

「ふふふ、いいですわねー。娘のためでもありますし。」

 実力も気力も充分。

 それに、貴族病の治療法や、食事療法。ドワーフの酒など手札も多い。

 数十年に一度行われる、王都の大掃除。

 辺境伯の実力もさることながら、その背景に1人の少女がいたこと。この時点でそれに気づいた人物は、まだ少数であった。 





 


ストラ「私、何もしてないよ。」

しでかしたことの大きさで、勝手に評価が上がっていくストラさん。

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