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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 11歳 やりすぎ領地改革 
40/110

38 今更ながら国家情勢に詳しい10歳児ってどうなのよ。

今更ながら世界観を説明

 さて、なんだかんだ忙しい私だが、やることの線引きはきっちりしている。

 最優先はじいちゃんから引き継いだ薬師の腕を磨くこと。これは今世のストラ・ハッサムとしての自覚の現れだ。

 次点はゲームのシナリオに関らない範囲で優雅な生活を実現すること。甘味にお風呂、元日本人としてこのあたりは外せないし、お酒、酒の美味しくない未来はなんとしても避けたい、ついでにツマミもな。

 あとはわりとどうでもいい。ケセラセラ、なるようになれの精神で行きたい。成人したら、適当な人材に仕事をふって、のん兵衛な人生を送るんだー。

「というわけで、君には期待しているんだよ、リットン君。」

「は、はあ。よくわかりませんが頑張ります。」

 なので、この授業も私の将来のためだ。けして絆されたとか罪悪感とかじゃないよ。トムソンをちょっとブラックな環境に放り込みすぎてるから、予防線を張ろうとしたとかでもない。

「リットン君は、トムソンの息子だから、ある程度は領のことを聞いているんだよね。」

「は、はい。税金の管理とか特産物の収益を記録するのが一番の仕事だって、そのために算術の勉強だけはしなさいって。」

 うん、よく教育している。後ろ黒いところをまだ教えていないところがぐっとだ。

「そうだねだからこそ、この授業は君ぐらいの教養がないと理解できないんだ。だから特別。そこんとこ忘れないように。」

「は、はいありがとうございます。」

 リットン君は、トムソンさんの一人息子で9歳、私より一つ年下だ。ゲーム本編では私のお付きとして学園へ通うことになり、攻略していくと彼とともにトムソンの悪事とそれに連なるハッサム村の乗っ取りを企む貴族の企みを叩き潰すというストーリーとなる。

 まあそんなことはない。仮にゲームのストーリーとなると叩き潰されるのは私だ。横領とか脱税しまくってるし、酒の密造とか密売もしているからねー、現状。

「さてさて、まあ今回は私も不確かなところがあるからねー、知ってたり、思ったりしたことは素直に言ってちょうだい。」

 言いながら私が広げたのは簡易的な世界地図だ。小さな丸と大きな丸。縮尺とか高度とかもない単なる位置関係を描いただけのそれ、製作者は私だ。

「まず、この小さな丸、これが私たちの住んでいるハッサム村。規模で言うともっと小さくて地図にも乗らないくらいだけど、気にしないで。」

「はい。」

「で、周囲の緑がハチさんたちのテリトリーである森で右側、東側に連なっているのが山脈だね。大陸を縦断しているこの山の一部がクマさんファミリーとかフクロウ組の縄張りってことになってる。」

「広いですね。」

「まあ、村の何倍もあるからねー。」

 実際の規模はわからない。ただハッサム村の周辺の森と山脈、そこから更に広がる辺境伯領の半分はそういう人類未踏の地域である。

「というのが、辺境伯家で見せてもらった地図から分かること。」

「すごいですねー。こんなの歩くだけでも何か月もかかりそう。」

「そのあたりは歴史の積み重ねだねー。ハッサム村の始まりも初代様に開拓と地質調査が命じられたことがきっかけらしいし。」

「それは父から聞いたことがあります。だからここは、国の果てで最前線だって。」

「まあ、どん詰まりのド田舎だけどねー。」

 物は言いようである。初代様、ひいおじい様が何をしたのかは知らない。期待なのか、左遷なのか知らないが、こうして田舎の中の田舎、ワールドエンドな果ての村であるのは確かである。

「で、唯一のつながりは辺境伯家の領都とつながった街道という名の獣道。」

 グニャグニャと書かれた線は文字通りの生命線。塩や本などの文化的なサムシングは領都からくる行商人便り。道中に村や町はあれど、最果てのハッサム村まで来てくれる商人たちは貴重である。だからこそ適度に旨味を持たせたうえで鎖をしっかり握っておく必要がある。まあ、そのあたりはじいちゃんの薬という切り札のおかげでなんとでもなる。

「なぜ、まっすぐな道にしないんですか?」

「ふふふ、いい質問だね。それは森の安全地帯を縫っているからだよ。」

 森を縦断するクマ吉特急があれば辺境伯家までは半日と掛からない。だが、森の生き物は狂暴だし、自然は強いので管理を怠ればすぐに道がつぶれてしまう。

「森の生き物を刺激しないルートを選んで少しずつ森を開発、その都度できた拠点が今の村や町。それらを繋ぐように道が整備されているから、結果としてグニャグニャな道になってしまうんだ。」

 ちなみに私が辺境伯家に通っている当初に使った馬の特急便はそういった事情を無視して突き進むが。道というのは血管と同じである。

「それぞれの村や町で作られた農作物や特産品、行商人はそれらを回収しつつ、求められる物資を降ろす。そうやって人々の生活は維持されているのよ。」

「うーん。」

「うちで言えば塩とか、金属。あとは布系だねー。」

 鉱山なんてものはないし、海もない。だから塩分は外部からの輸入に頼っているし、ドワーフ達の要望で金属系の買い付けはバカにならない。

「そういうのがそろっている場所に村を作れないんですか?」

「うーん、まさにそれが王都とか領都なのかな。」

 リットン君の言葉に私は、村から西に流れた領都を指さす。

「辺境伯領、私たちが住んでいる場所は、さっき言った道の端っこ、だから領内の生産物は集まる様になっている。大きな川も近いから海からの海産物や塩も届くし、金属も豊富みたい。」

「へえ。」

「そんな便利な場所はもう満杯。そもそも人が安全に生活できる場所が限られてるんだよ。」

 このあたりはまさにファンタジー。というか自然がたくましすぎて人間様が住めるの場所が限られまくっているわけですよ。

「安全に住める場所は、長い事多くの人が住んでるからねー農業こそできるけど、金属とか自然な物資が限られている。だからこそ辺境伯領や家みたいな村が重宝されているのよ。」

 その典型が王都である。完全なコンクリート都市なその場所は、物資の大半を輸入に頼っているので持久力はほぼ皆無だ。

 何で知ってるかって? ゲームで干上がりかけることがあるからだよ。他国の策謀で地域との関係が悪化した結果、王都に物資が送られないという緊急事態が。

「ほえー、なんというか歪ですねー、なんでみんな食べ物があるとこに住まないんだろう。」

「まあ、それはね、リットン君。この村が安全だからそう思えるんだよ。」

 ゲームの設定ですと言いたいところだが、この世界、人間様よりも強い存在が馬鹿みたいにいる。さらっと世界を滅ぼせる威力の魔法を使う魔法使いとか、一騎当千の戦士。そんな主要キャラクターをワンパンで潰せるようなモンスター。

「ああ、クマさんとかハチさん強いですもんね。」

「じじじ(いい子だからいじめないよ。)」

 うん、ファンキーな隣人たちのおかげで私たち麻痺しているよねー。

 強すぎる魔物とか精霊様、破壊されてもわりとすぐに回復する自然。ゲーム的には無限にポップして経験値とか資金稼ぎの対象でしかなかったけど、現実世界では、人類の開拓速度が間に合っていない。というのが現状だ。

「だから安全の担保された国の中心、王都から人や物の動きを操作して国が運営されてるってわけ。うちも他との交流がないと、つらいところがあるのよ。」

 物資的な問題もあるが、万が一の逃げ道とか援軍だ。害獣退治や山賊などの不届き者。あとは。

「隣国からの侵略への対処、そのための兵力とか物資を安全に管理して、万が一のときは国を守るために戦う、それが王家とか王都の役割なんだよ。」

 これは、日本でいえば武士の存在に似ている。生産職が安心して生活できるように兵隊や王族がいて、なんだかんだあってかみ合った結果がこれである。

 民主主義だなんだといって、選挙やらなにやらで権力が推移している間に隣国に付け込まれるならまだしも、判断を間違えば、村や町が干上がって自然に帰ってしまう。

 普通に生きる分にはイージーモードなのに、悪さに対する天罰がひどすぎる。

「すごい話ですねー。」

「まあ、王国はそれでまとまってるよ。なんだかんだ、王様達は優秀だし、変に差別的な人もいない。」

 そう、ゲームの舞台となる王国は基本平和なのだ。王族が色ボケに走ってもすぐには瓦解しない程度にはシステムが成熟しており、勤勉な人間が多い。

 うちの両親などその典型である。

 

 では、問題とはなにか?

 何をもって波乱万丈なシミュレーション系乙女ゲームとなりえるのか。前世でゲームをしていたころは、そういうものと思っていたことだが、生まれ変わって10年、特にこの一年で見聞きして得た知識によって私は一つの確信と仮説を得ていた。

「問題は隣国との関係なんだよ。」

「隣国?」

 そう村に住んでいる田舎娘では思い付きもしない。

 ゲームで俯瞰しているだけでは、そんなもんと片付けてしまう問題。

 それに気づいた私が、リットン君相手に、それが伝わるか、試す意味も兼ねてこの授業をすることにしたのだ。






無限にわき続けるモンスターを現実的に考えると脅威ですよねー

次回は諸外国との関係についてダラダラと語ります。

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