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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 10歳 辺境伯家編
36/96

34 よくよく考えたら4大属性?

 新しい子をお迎えしよう。

 アイスピグ。ホットオウルと同じく山奥に住んでいるとされる珍獣。いやもう精霊って言っちゃおう。知性があり、人に害意がない存在。もとい人間様が勝手に格付けしただけのアレ。

 低い体温と氷の魔法を操り、その生息地周辺は年中氷と雪に包まれているとされている。臆病な性格で、クマやはち、フクロウと違いこちらから手を出さない限りは何もしてこない。ただし一度手を出すと襲撃者は氷漬けになると記録されている。

「ふるるるるる(安心しろ、害意はなさそうだ。)」

「じじじ(何かあれば撃退)」

「ぐるるる(この豚は、おいしくない。)」

 うん、安全面が大丈夫そうだ。

「ふむ、長い事生きているが、まさかアイスピグまで目にすることになるとは、いや、これはもしかして夢か。」

 ガンテツのおっちゃん、しみじみと言うなら、酒のジョッキを置いてからこい。

「この程度では飲んだうちにもはいらん。しかし、ホットオウルの羽は見たことがあるが、アイスピグの実物を見るのは初めてだな。いや本当にアイスピグなのか?」

「ふるるるるる(それは間違いない。)」

 フクロウたちの中の長っぽい個体、「組長」が鷹揚にうなづく。右目に刀傷のような模様があり、まるで本物のそれのように威厳があるのでそう命名した。

「ふるるるう(あいつらと俺らは生息地がかぶる)」

「ふるる(お互いに不可侵ってことになってるけどな。)」

「なるほど、住み分けをしているってことかな?」

「ふるるる(さよう。お互い近くに住むことで快適になる。)」

 ホットとアイスが一緒にいるってエアコンかな?

「なるほど、組長たちが村にいるから、それにつられてこの子たちも?」

「ふるるる(かもしれん、だがこやつらがここまでリラックスしているのは珍しい。)」

 わりと注目して騒いでいるというのに、2匹のアイスピグはグーグー寝ている。なんなら四肢を投げ出してへそ天をしている。

「ぴゅーーーー。」 

 野生のオーラ―がゼロだ。飼い犬だってもう少し警戒心があるぞ。

「ふるるるる(おそらくは我らと同じだろう。今年は寒いからな。)」

「じじじ(そういえば、母様もそんなこと言ってた。)」

 ちょっと気になる情報だけど、今はそれよりも

「これ、起こして大丈夫?」

 事情を聞いてみないことにはどうしようもない。ただじいちゃんのところにあった書物どおりならちょっと怖い。

「ふるるるる(ならば我に任せよ。事情を聞いてみよう。)」

 組長、頼りになるな―。


 組長はげしげしとアイスピグを蹴り起こして、素早く事情を聞く。その様子は酔いつぶれた客を問い詰めるあの職種の人のようだだった。


「ぴゅーー(お世話になります。)」

「ぴいーー(冷やすのは得意です。)」

 

 どのような会話が繰り広げられたかは知らない、私は見ていない。ただ恐縮した様子のアイスピグたちのことはある程度わかった。

「ぴゅーーー(今年は寒いのです。)」

「ぴーーー(あとうるさい)」

 姉妹たちも、今年の寒さの気配を察知して新天地を求めて移動していたらしい。まあ彼女たちの場合は、ホットオウル達の気配を追ってきたようだが村にたどり着いたタイミングで宴の気配に近づき、なぜかゼリーの器の近くが居心地が良くて眠ってしまったそうだ。

「ああ、すげえ完成してる。」

「ぴゅーー(美味しそうな気配)」

「ぴーー(守らないとと思いました。)」

 どうやらゼリーの気配に反応したらしく、切り分けたゼリーに興味津々の様子だった。

「ふるるる(刺激をしなければ温厚だ。)」

 組長のお墨付きもあり、ゼリーを振る舞うことに。うん、すぐに懐いたよ。ちょろかわいい。


 ちょうどいいと話し合いをした結果。アイスピグたちはホットオウルたちと共に、家畜小屋の一棟を間借りすることに決まった。豚や鳥たちが怯えるかと思ったが、思った以上に普通に受け入れられた。

「さすがにまずいだろ。」

 とのことでドワーフ達が突貫で新しい小屋を作ったのも大きいかもしれない。


 そんなこんなで、ハッサム村にも冬が来た。

 例年以上の冷え込みの気配に冬支度にバタバタしている中、動物たちはすぐに村に馴染んだ。

 

 まずは、ハルちゃんたち、ハチさんたち。養蜂箱をきっかけに村に馴染んだ彼らは続々とハチミツを作り出し、その勢力範囲を広げていき、村のどこでも見かけるようになった。小さいながらに賢く力も強い。なので野菜の選別や運搬などを手伝ってくれるし、子どもたちとも遊んでくれる。なにかあったときの情報網も欠かせないモノだ。

 次に、クマさんファミリー。土木工事的な事はしていないが、クマパパのおかげで周囲の安全は確保されているし、冬毛に生え変わるタイミングとなり大量の抜け毛が提供された。ブラシの量産が勧められ、トムソンがホクホク顔だった。ちなみに毛繕い用の金属フェンスやブラシの開発が日々続いている。

 フクロウ組の人々は、組長を筆頭に風呂でくつろいでいることが多い。だが、その羽は燃料にもなるし、加工素材としても優秀であるため文句をいうものはいない。なんなら火魔法で各家庭の竃に火を提供したり、炉の温度を調整したりしてくれる。あと単純に彼らがいるだけで周囲が温かいので重宝されている。

 そして、アイスピグの姉妹。彼女たちの扱いは微妙に困った。もともとの体温が低いので夏場はともかく、冬場はちょっと距離を置きたい。身体も小さいので力仕事を任せるわけにもいかず、普段はグーグー寝ている。そんな姿が可愛らしいと子どもたちが愛でる以外、特別なことはしていない。

 が、ある意味で彼女たちの存在は一番文化的だった。

「ぴゅーー(はい。)」

「ぴーー(冷えたよ)」

 例えば火事場。常に炉が燃えるこの場所は非常に暑い。一方で強い鉄を作るには打った鉄を冷ます必要がある。そのために大量の水を使っていたが、彼女たちが冷やしくれるので水と時間の節約となる。おかげで仕事の効率が上がり、ドワーフ達がさらにワーカホリックになった。

 例えば料理。食材の保管庫には木組みの棚が新たに設置され、巨大な氷が置かれた。そう氷室である。巨大な業務用冷蔵庫ができたことで、食材の鮮度が保たれるようになっただけでなく、組長たちと協力して、絶妙な温度による肉の熟成蔵や発酵蔵も開発された。発酵蔵いいよねー、来年は自前の味噌や醤油が手に入る。

「お嬢。本当にこれで酒がうまくなるんだな。」

「さあ、色々試す必要があるけどね。」

 一番力が入っているのは、酒の保管庫だろう。ワインの適温は13度から15度。直射日光の当たらないカビの生えそな場所がいいらしい。というのは前世で読んだ漫画の知識だ。ガンテツのおっちゃん、ドワーフにも酒をうまいまま保管する条件あるらしい程度の知識はあったらしいが、自然に任せたものばかりだった。だが、温度調整が容易になったおかげでそれを試行錯誤するという発想が生まれたのだ。

「作ったら傍から飲みきってしまうからな。これからは倍作って、寝かせてみるわい。」

「飲み過ぎないでよ、寝かせたらおいしくなるのもあるらしいから。」

 ワインとかって何十年も寝かせたものが高級品になってたし、日本酒とかも古酒なんてものがあった。ついぞ手が出なかったけど私が成人するころにはきっとおいしいお酒ができていることだろう。


 こうして動物さんたちのおかげでハッサム村の生活は充実したわけだ。

「ジジジ(ストラ、アイス食べたい。)」

「ぐるるる(俺はソフトクリーム)」

「ぴーー(ゼリーを)」

 対価として私が料理に勤しむ時間が増えたのは悲しい話だ。おかしい便利になればなるほど、仕事が増えている気がする・・・。

 御礼、貢物? 寒い中でさらに氷菓子を求める動物さんたちに振る舞いながらそんな日々に振り回されていた私。

 だから気づいてなかった。

 風のハチに、土のクマ、炎のフクロウに、水の豚さん。ゲームの中にでてくる4大属性の精霊がそろってしまったという事実がどれほど異常なのか。

 そして、その現象が起こるくらいに今年の冬が寒いこと。それがほかの領地ではどの影響を受けて、我がハッサム村がどれほど悪目立ちしてしまうのか。

 うん、冬明けから、めっちゃ忙しくなるんだよ。こんちくしょう。

 




ハルちゃん「じじじ(ハチです、風魔法が使えます。)」

クマ吉  「ぐるるる(クマです。土木工事ならお任せ)」

組長   「ふるるるる(フクロウです。頼りになるぞ。)」

豚姉妹 「ぴゅー――(意外と仕事が多い)」「ぴーーー(活躍しないと思ってたのに)」

 ますます 〇エイカーの森に近づきつつあるハッサム村

 次回から、新しい展開が

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