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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 10歳 辺境伯家編
35/95

33 餌付けするのも楽じゃない。知識チートなんていらんかった。

ストラがいかにして、動物たちを手懐けたのか。

 中世ファンタジーと言われるが、ガチ目の中世ではない。

 何か月も風呂に入らないなんてこともなければ、糞尿を窓から投げ捨てることもない。コルセットで身体をガチガチに固めたり、ズラを被ったりはしない。

 ただし、台所は薪ストーブに、甕にため込んだ水を使うことが多い。魔道具によるオール電化なキッチンというのは貴族でもかなり上流階級の人の家にしかない。

 ハッサム村の村長にして領主の館であるが、そんなすごい設備はない。だが、ドワーフたちを言葉巧みにそそのかして作られた薪オーブンとコンロはそこそこに優秀だ。

 火加減になれは必要だけど、フライパンを使った調理もいけるし、準備すればクッキーやケーキも焼けるオーブンがある。

「バターと卵を。気合を入れて混ぜまして―♪」

 ボールにバターと卵を入れて、泡だて器でともかく混ぜる。子どもの力では限界があるが、そこはハチさんたちに協力してもらう。

「じじじじ(キリキリ回しなさい。)」

「じじじ(了解。)」

 泡だて器の持ち手に設置された滑車、その中で短い脚を懸命に振り回して走るはたらきバチ。ドワーフに作らせた特製の泡だて器はテーブルに設置した大型のもので、ハムスターのおもちゃのような装置に入ったハチさんたちが、走ることで泡だて器が回転する仕組みだ。私はボールを適宜動かせばいい。

「ジジジ(これ、きつい。)」

「じじじじじ(がんばれ、おいしいクッキーのためだ。)」

 わりとハードな仕事らしいけど、希望者、ならぬ希望ハチが多いのはご褒美として焼き立てを食べられるからだ。

「そこに、ハチミツを混ぜて、適度に混ざったら小麦粉を。」

 ここから先は手作業だ。7歳の身体を必死に動かして小麦粉を混ぜる。少しずつ小麦粉を混ぜていくと、徐々に水気がなくなり、しっとりとした粘土のような質感になる。そこまでいったら綿棒で平たくのばして、厚みを整える。適当な厚みになったら包丁で切り分けて、鉄板に並べる。

「よし、焼くよ。」

 なんども繰り返してオーブンの加減は分かっている。前世の記憶というおぼろげな感覚でのクッキー作りだけど、ハチミツアメを作るよりは簡単でかつ量が用意できる。なんだかんだボンボン叩くのが楽しい。

「よし、お湯が沸いたね。」

 クッキーが焼きあがるまでに、沸かしておいたお湯に、辺境伯家からもらった砂糖を引くほどに入れて溶かす、甘い香りが漂う中にワインとブドウを入れて匂いと香りをつける。

「ふふふ、まさかこれがあるとは。」

 アルコールを飛ばし香りと甘味だけになったブドウの汁に、黄色っぽい粉をパラパラと入れていく。

 そう、ゼラチン、ゼラチンがこの世界にはあったんだ。コラーゲンがあったのよ。動物の骨とか皮とか作られるそれが。製法、知らん、普通に市場で売ってたのだ。

「鍋をかき混ぜて、その流れにそうように流し込む。」

 ゼリーを作るとき、ゼラチンの混ぜ方が一番大事だ。ほどほどの熱さの原料に流しいれる。へらや菜箸を使ってもいいが、解けきれないゼラチンがつくことがあるので、あらかじめかき混ぜておくことが大事だ。ほどほどに温めて混ぜたら冷やす。

 鍋から適当な器に入れて、蓋をする。粗熱の残る器を外にだす。ほんとは冷蔵庫が欲しいところだけど、この田舎にそんなものはない。冬の寒さを利用して固まるか微妙なところだけど、霜が降りる程度には冷え込むので大丈夫だろう。

「じじじ(これは?)」

「これは、ゼリー、冷やして固まったのを食べるから明日までまってね。」

「じじ(氷いる?)」

「いや、いいよ。ゆっくり冷やすのがおいしさの秘訣だから。」

 早く食べたくて冷凍庫にいれたら、シャーベットになってしまったのは、苦い思い出だ。

「ぐるるるる、(ストラ、できた?)」

「もうちょいまってね。ついでだから卵焼きも作ろうか。」

「ぐるるる(食べたい。)」

 ちょうど日暮れだ。使い切れていない卵を使い切るつもりでやってしまおう。

 調理場戻り、ハチさんたちにも協力してもらい、30個近い卵を次々に割っていく。うんなんだかんだ卵の安定供給ができているのは、前世日本人としてはありがたい。

「ハチさんドリル、セット。」

 ボールにたまった大量の卵に泡だて器、敬礼したハチさんたちが交代交代で動かしてかき混ぜる。

「塩に砂糖、アッマヨネーズも残ってる。」

 大量に作ったらあとは卵焼き機に次々流していく。

 ほどよく火が通ったら素早く菜箸を動かしてクルクルと巻く。以下それを繰り返す。

「ジジジ(クッキー焼けた?)」

「ああ、そんな感じだねー。」

 山盛りの卵焼きに、フライドポテト。クッキー生地を焼き尽くすまでの2時間程度で、山盛りにジャンキーな食べ物を量産してやりましたよ。ちなみにクッキーは3度入れ替えてます。

「よし、運んで―。」

「ジジジ(おおお。)」

「ぐるるるる(やったー。)」

 庭に集まっていたのは、非番のハチさんたちとクマ吉。そして

「ははは、やはりここなら酒のツマミに困らんのー。」

「お嬢、ついでに肉も焼くかー。」

 そして、風呂場で別れたはずのドワーフたちとケイ兄ちゃんと匂いにつられてやってきたちびっ子たち。

「そんなんだと思ったよ。」

 ご丁寧に配置されたテーブルに卵焼きとフライドポテトを置く。テーブルの近くにはバーベキューコンロがあり、肉や野菜がじゅーじゅーとイイ感じの音を立てている。

「フライドポテトはお嬢のが一番うまいからなー。」

「たりんぞ、もっと揚げてきてくれ。」

 次々と消えていくフライドポテト。ハチさんたちとクマ吉は味わうように卵焼きとクッキーを食べる。人間は塩味の聞いたフライドポテトや肉を、動物たちは甘味が好みらしい。

「ははは、いいわよ。これでもかって食べさせてやる。」

 使っていいジャガイモ、もといこのためにジャガイモを節約しだしている村人からもらった大量の芋をここぞとばかりに消費してやろう。

「よっしゃー、宴じゃ。」

 がはははと騒ぎ出す一同。

「ふるるるるる(ふむ、これは塩気が効いている。)」

「ふるるる(酒も美味だ。)」

 ちなみにホットオウルことフクロウ組の面々はドワーフ達のだす酒をちびちびと飲みながらポテトや肉を肴に酒盛りとしていた。

 うーんフクロウなのに、みためはヤのつく職業。

「ははは、組長は酒もいけるのか、こいつはいい。」

「ふるるるる(酒はめったに飲めぬが、これは今までにない美味な酒だ。)」

「おうおう、飲め、飲め、今日は歓迎会だ。」

 すっかりと出来上がっておられる。

 ともあれ、ドワーフたちとすっかり打ち解けている。あれか飲みにケーションってやつのか。

 関わらんとこ。

 私は10歳だ。精神は前世の分も含めてそれなりだが、身体は子どものそれだ。だからね、塩味とか甘いのとか、ケチャップ味とか食べたいんだよ。がっつり油で揚げたフライドポテトも唐揚げもトンカツも大好きだよ。ああ素晴らしいよね、油ものを食べても胃もたれしないんだぜ。 

 まあ、油は貴重なので、たまの大騒ぎでしかできないんだけどねー。


「ところでお嬢聞きたいんだが、」

 宴もたけなわ、これでもかと揚げたフライドポテトを私もみんなもたらふく食べて大満足。辺境伯家でのストレスとかあれこそを吹き飛ばすために色々作ったけど、私の本質はそれだ。

 でも私の心は大人だ。片付けもちゃんとやるぞ。

「お嬢、逃げるな、現実を見ろ。あの生き物はなんだ?」

 ケイ兄ちゃんひどい、どうして10歳の少女をこんなにも働かせるんだよ。

「いやいや、あれお嬢が用意してたやつじゃん。明日まで待てって釘さしていた。」

 ケイ兄ちゃん以下、宴会の場の半分ぐらいは見ている視線の先(半分は酔いつぶれてる)は、明日食べようと思ったゼリーが入った器だった。蓋をしてがっちり封印したそれはちょっとやそっとじゃ倒れないように固定してあるし、器も丈夫なものだ。

 うん、問題はそこじゃない。

「ぴゅーーーー。」

 その器に寄り添うように寝そべる2匹の小動物。サイズは子犬ほどだが、鼻が大きく突き出て、しっぽがクルクルと丸まっている。豚だ、小動物の豚。

 ただ、豚なのに、その肌が真っ青に染まっている。濃い目のブルーにつるつるした肌。なんとなく美味しくなさうな豚だが、それ以上になんか冷気を纏っている。

「ふるるるる(アイスピグとは珍しい)」

「ふるるる(食えたもんじゃないけどな、あの豚。)」

 フクロウ組はめっちゃ野性的だ。

「食うなよ、なんでまた希少生物がいるんだよ。」

 どの方面に突っ込みをいれればいいのかわからない。なんでまた、希少生物がひょっこりいるんだろうか?


 



 


美味しいご飯はみんなを繋ぐ。

そして、どんな時にも揚げ物と焼肉は強い。

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