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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 10歳 辺境伯家編

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31 実家が一番というのは、一番楽という意味と一番大変という意味でもある。

再びの領地改革 今度は何を企むのか・・・

 寝て起きたらついている、これがクマさん便のいいところ。

 快適すぎる移動手段をゲットしたことで、私の時間は前世の頃よりも快適かつせわしくなっているような気がする。正直、生活に不満はないけど、電車とか車の快適さを知っているとどうしても時間を気にしてしまう。移動時間をつぶせる娯楽もないからねー。

 まあ、のんびりとした今の生活が嫌いではないのは事実だし、なんだかんだ楽しんでいる自分もいる。

「お嬢、いい所に帰ってきた。大浴場に変なのがいるから、なんとかしてくれ。」

「ひき殺しなさいくま吉。」

「ぐるるるう(嫌だよ。)」

「ぶっそうだな、おい。クマ吉になんてことを言うんだ。」

 久しぶりの故郷はまだまだトラブルがあるらしい。辺境伯家に帰ろうかなー・・・


 帰宅早々、連れてこられたのは苦心して作った末に、一度も入ることなく出かけることになった大浴場だった。覗きと水漏れ防止のために作られた頑丈な策と脱衣所、見栄えと整備性を考慮して隔離されたパイプとボイラー。ハチの巣由来の素敵な燃料とか、いろんな売り上げのおかげで年中燃やされているボイラによって常に温かいお湯で満たされた湯船に、色々仕込んだろ過装置。

「って、よく見たらシャワーまでついてるじゃん、おっちゃんやるなー。」

 構想だけは伝えていたけど、パイプの配管で無理って言われた設備も追加されて、見た目は銭湯だ。男女の境はないし、大浴場だけのスーパーじゃないやつ。うん、これだよ、元日本人としてはこういうシンプルなお風呂が欲しかったんだ。うん日本人はやっぱりお風呂だよね、全身を伸ばせる湯舟で血行を良くしたあとで、冷たいフルーツ牛乳。コーヒー牛乳もいいが、汗をかいた後は、酸味のあるフルーツ牛乳が一番だ、異論は認める。

「おじょう、お嬢。もどってこい!」

 ケイ兄ちゃんにバタバタとゆすられて現実に引き戻される。おい、今は女湯だぞ、やろうはされ。

「だーかーらー、それどころじゃねえっての。何アレ?」

 がっちりと頭を押さえつけられて視線を固定される。

「見えない、何も見えない。私は見ていない。」

 全力で否定したい光景。見なかったことにして布団に帰りたい。そうだよ、私は辺境伯家でめっちゃ激務だったんだから、お風呂はあとにして。

「ふるるるるる(落ち着きなさいお嬢さん、風呂場で騒ぐとは何事ですか。)」

「あっすいません。」

 しまった返事をしてしまった。もう逃げられないじゃん。

「ケー兄ちゃん・・・。」

「なんだ。」

 うん、もう現実逃避はここまでにしよう。

「なんで梟がお風呂で寛いでいるのかな・・・。」

 本来ならば私が独り占めする予定だった大浴場。うん、製作者特権とか疲れているとか色々理由をでっちあげてでも成し遂げようとしていたその場所。そこでくつろいでいたのは、数匹のフクロウだった。燃えるような真っ赤な羽毛をしっとりと濡らし、羽を伸ばしてだらんとしている姿に野生の偉大さはない、ただ。

「ふるるるるる(何か用かね、お嬢さん、遠慮することなくいいたまえ。)」

 風呂から頭だけ出したその姿はなぜか言いようのないプレッシャーがあった。あれだ、銭湯とかにたまにいるヌシみたいな人。はしゃいで身体洗わない子どもとかを容赦なく怒鳴りつけるタイプのおばさん(あるいはおじさん)。羽毛なのに、風呂が全く汚れていない。こいつ、ただものじゃないな。

「なんで、ホットオウルが人里にいるのよ。」

 まあ、知っているんだけどね、山奥の洞窟に住んでいると言われるけだものだ。いや、知性が高いから精霊?

「ふるるるるるるるう(ふむ、素敵な気配を感じてな。こうして湯を貰っているのだ。)」

「さようでございますか。」

「ふるるるる(世話になっているわ。)」

「ふるるるる(湯を温かくし、それを維持する、素晴らしい。)」

 口々に風呂をほめたたえるホットオウル達。気に入ってくれているようだけど。

「なあ、まじホットオウルなのか、あれ。」

「そうみたいだよ、否定はされなかった。」

 ホットオウル。それはハチやクマと並んで危険な森の生き物と本に書いてある。梟特有の無音飛行と猛禽類特有の鋭いくちばしと爪、なにより炎の魔法を操る魔力と知性。他の生き物が住みづらい寒い場所に好んで巣を作り、群れで過ごす。あと特記することとして、その羽は耐熱性が非常に高く鍛冶などの素材になるだけでなく、1枚あるだけで冬の間は薪要らずと言われるくらい温かい。

 だからこそ、討伐を目指して無謀な冒険家や貴族がでるが、そのほとんどが失敗に終わると言われる幻の鳥だ。

「その幻の鳥が、なんでまた村の風呂でくつろいでいるんだ。」

 知らん、私に聞くな。

「ふるるるるるる(ふむ、どうやら私たちは騒がせてしまったようだな、申し訳ない。)」

「じじじ(まあ、ストラ以外は話が通じないから仕方ない。)」

「ふるるる(これは、ハチの姫君。この度は、我らを受け入れてくれて感謝する。)」

「じじじ(正確には私たちは手出しをしないというだけ、判断はこの子。)」

「ふるるるる(なるほど、お嬢さんが噂に聞く賢き子か、なればこのままでは失礼だな。)」

 対応に困っているとハルちゃんが近づいて会話をして、ホットオウル達は湯船から出て身体を振るわせる。すげえ羽とか汚れが飛ばないようにちゃんと気にしてるよ。これは初犯じゃねえな。

「ふるるるるるる(改めて賢き子よ。我はこの群れの長だ。)」

「はあ、これはご丁寧に、この村の領主の娘のストラと言います。」

「ふるるるる(なるほど、確かに我らの言葉を理解している。)」

 挨拶に挨拶を返すとホットオウル達が感心した様子で首をクルクルさせる。うん、動きは梟のそれだ。何とも言えない目力が怖い。

「で、ホットオウルさんたちはなにゆえ、ここに?」

 だが、この状況に対応できるのは、私しかいない。前世社畜な教師としては・・・逃げてええ。

「ふるるるる(そう怯えるな、クマとハチからそなたたちのことは聞いている。)」

「ふるるる(戦う気はないわ。)」

「ふるる(そもそも私たち平和主義)」

「ふるるるるる(野蛮なのは、サルだけ)」

 一斉に声を上げる梟。一部の人にはかわいいらしいけど、普通に怖いんだよねー君たち。

「じじじ(ストラ、大丈夫、彼らは敵じゃない。)」

 でないと困るよハルちゃん。

「ふるるるるる(今年の冬はとても寒い。故に山の巣では居心地が悪い。)」

「ふるるる(だから、冬の間過ごす場所を探していた。)」

「ふるるる(クマに相談したら、紹介された。)」

 いや、なにしてくれちゃってんのハルちゃん達。

「じじじ(梟、基本温和、それに役に立つ。)」

「うん、まあ羽の一本でももらえたら大助かりだよ、実際。」

 気づいているよー、ビビりながらもドワーフたちがわずかに落ちたホットオウルたちの抜け落ちた羽をねらっていることに。お前ら、あとで覚えてろ。

「ふるるるる(抜け落ちた羽でよければいくらでも差し出す。)」

「ふるるる(他にもできることがあれば手伝う。)」

「ふるる(だから、我らにもここを使わせて欲しい。)」

 OK、わかった。なるほど状況はわかったよ。

「つまり、冬を超えるまで村に滞在したいと、それと風呂も使いたいってことだね。うん多分大丈夫、むしろ羽をゆずってくれるなら大歓迎だよ。」

「ふるるる(なんと、器の大きい子供だ)」

「じじじ(ストラは特別。それに賢い。)」

「ふるるる(なるほど、女王の言っていたことは真であったか。)」

 うん、まて、女王様よ。一体どんなことを話したんだ。

「じじじ(女王も風呂気に入っている。だから、彼らも受け入れた。)」

「まじで、女王様も風呂に入るの?」

 ハチって濡れると飛べなくなるって聞いたけど、大丈夫なの?いや、まあハチさんたちならなんでもありか。

「お嬢、でどんな感じなんだ。見たところ交渉はうまくいったみたいだけど。」

 ああ、もうめんどくさい。 

 

 あとになって聞けば、村人たちもホットオウルたちの目的をなんとなく察していたらしい。しかし完全な意思疎通が図れず私の帰りまちだったということだ。

「万が一があったばあい、村が火の海になっていたかもしれんからな。」

「クマさんたちと縄張り争いになんてなったら、村どころか、この辺り一帯が滅びかねない。」

 うん、我ながらなんて危ない橋を渡っていたんだろう。

 ともあれ、ホットオウルというレアなお友達がハッサム村に加わった。動物に囲まれた愉快で快適なスローライフに近づいたともいえる。

 ただ私は見誤っていた。

 風呂の力を、私の生み出したあれやこれの面白い効果を・・・。


村の仲間が増えました!

クマにハチに、フクロウ。ハッサム村は今日も平和です。

次回、まだまだ増えます。

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