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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 10歳 辺境伯家編
32/109

30 大いなる自然には、大いなる化け物と魔女が存在する。

なんだかんだ、あった猿狩りも一区切りです。

 いつものようには行かない、

 シルバーモンキーは最初からそう思っていた。臆病者故の勘の良さ、そして経験からくる知恵。それがあるからこそ、いつもよりも群れの前の方を移動していた。

 そして、その勘は大当たりだった。

「ぎゃ(罠か・・・。)」

 獲物を前に興奮して駆け出していく同胞が視界から消えた瞬間に、彼はただ1人方向を変えた。

「ぎゃ(あれは、まずい)。」

 得体のしれない状況に、得体のしれない動きをするケナシ達。普通なら仲間に撤退なりなんなりの指示を出すところだが、それをせず、自分以外の同胞すべてを囮にして逃げるのがもっとも生き残る可能性が高い。

 そう判断したのは、ケナシたちの動きが洗練されていたからか、それともどこかに強者の気配を感じ取ったからなのか、ややパニックになっていた彼はそれに気づけなかった。

「ぎゃ(逃げないと)」

 群れの長としての義務や責任、そういったものはもともとない。獣として一端のプライドも、生き残るという目的の前には無意味だ。自分を慕う同胞たちが次々とケナシの罠に突っ込んでいく中、シルバーモンキーはただの一匹、来た道を引き返した。

 ある意味で、それは正解である。

 獣の世界では勇敢で強いものが目立ち、モテル。しかし最後に生き残るのは臆病で賢いものだ。賢いものは自分の存在を大きく見せることはせず、安全に日々の糧を得る手段を考える。

 それでもこの時、シルバーモンキーは群れとともに、ケナシの罠に突っ込むべきであった。

「ぎゃ?」

 ブーン、

 不吉を告げる羽音に足を止める。未知の脅威に対して足を止める愚策を侵してでもその音は無視できない、いな、無視してはいけないものだった。

「ぎゃぎゃ(なんで・・・)」

 仲間意識も家族意識もないグレイモンキーたち、それでも不文律として親から子に伝えられる禁忌。

「ぎゃぎゃぎゃ(クマとハチには近づくな。)」

 それを教えてくれたのは今はなき先代の群れの長だった。だが知っていると経験は、違う

「ジジ(やれ)」

 どこからともなく聞こえた鳴き声。その刹那シルバーモンキーを襲ったのは全身に走る痛みであった。

「ぎゃあああああああああああああああああ。」

 痛みであがる、叫び声。だが叫び声が上がるということはまだ生きているということだ。

「ジジジ(第二陣)」

 冷静な声の主は更なる指示を出す。そして、次の痛みに耐える生命力と精神をシルバモンキーは持ち合わせていなかった。


 状況終了

 そんな雰囲気とともに敬礼をするハチさん(働きハチ)に私は黙って敬礼を返す。

「じじじ(鎧袖一触 たわいない。)」

 ハルちゃん、キャラが変わってるよ。まあ、それだけのことをしているんだけどねー

 私が直接何かしたわけじゃない。

 クマ吉にお願いして落とし穴兼、防御用の堀を準備して、ハチさんたちの協力のもと包囲網を展開しただけだ。薬師だなんだと言われているけど、私はか弱い乙女、剣や槍を片手に大立ち回りをしたり、攻撃魔法で敵を殲滅したりなんてことは出来ない。

「そういえば、ゲームだとヒロインは光魔法とかいうのを使えるんだっけ?」

 この世界が私の記憶にあるゲームの世界なら、私にはそれなりに魔法の才能があるらしい。だけど、才能があるからといって必ずしも成功するわけがない。

 才能と境遇に恵まれた一部の幸運な人間が使えるのが攻撃魔法。神に選ばれた「聖女」が使えるというのが光魔法というのが定説らしい。が、それは一部の宗教が権威を高めるために広げた嘘。というのがゲーム内で発覚することになる。そして、主人公は隣国の宗教国家との争いに巻き込まれる、もとい戦争に赴くという戦争エンドというのがあった。うん、くそゲー。

「じじじ(ストラ、どうかした?)」

「ううん、なんでもないよ、みんなお疲れ様。帰ったら、ケーキでもクッキーでも好きなだけ作ってあげる。」

「ジジジ(やった――。)」

「ぐるるる(お風呂もはいるー。)」

 欲望に正直な愉快な仲間たちと共に、私は森を後にした。ことの成否に関わらず自分の領地の安全を確認するという名目のもと、辺境伯様からは帰宅の許可を得ている。

「メイナ様にはちょっと悪い事をしたかな。」

 王子たちが来るということで遠慮なく巻き込んだけど、婚約者は戦場に立つということで心労をおかけしたかもしれない。まあそのあたりのケアーはイケメン王子に任せればいい。

 そう、自己弁護しつつ、私は久しぶりのハッサム村へ向けてクマ吉を走らせるのだった


 といったところで、私がなぜこんなにも猿を殲滅することに熱心だったかという話だが、

「じじじ(ストラ、これでなくなる?)」

「うん、これでジアゴ熱はなくなるよ。」

 グレイモンキーがとんでもなく面倒な病原菌のキャリアーになるというルートがゲームにあるからだ。

 

 さて、ゲーム内、歴史的には数年後に起こっていたが、グレイモンキーやスラッシュラビットなど害獣が大量発生するイベントが存在した。主人公ストラの故郷であるハッサム村や、辺境伯領、自然豊かなこの地域で、近年でも最大規模の獣害が発生し、主人公は好感度が一番高い攻略対象と共にその対策に帰省することになる。

 タイミングはランダムだがストーリー中のどこかで発生するこのイベントは、その時点での主人公のパラメータや好感度などによって、成功確率が変わり、駆除成功の場合は資金にボーナスがはいり、失敗した場合はステータスにボーナスが入るというボーナスイベントだ。

 成功すれば領地の収益が増える。失敗した場合はそれを機に特訓して主人公の能力が覚醒するというストーリー。

 そうこの覚醒ストーリーというのが問題なのだ。

 失敗したとき、獣害の被害は作物や土地への汚染、あとは直接の被害による負傷。そこに更に「ジアゴ熱」という厄介な病気が発生するのだ。大人は発熱程度で済むが子どもや老人、病人や負傷者などにはは命に係わる病気である。

 まあ、薬師として言えば、正しい処方と健康な生活ができればなんとでもなるわけだけど。

 ゲーム中のヒロインは何をとち狂ったのか、光魔法でその病気の治療を試みるという暴挙にでる。結果として魔法のステータスが上がり、民を助けることで知名度や信頼度が上がる。

 そして、バットエンドともいえる「戦争エンド」となる。

 

 うん、そんなイベント起こす以前に叩き潰すべきだよね。しかもあれなんだ。このイベントの原因が数年前の狩りで取り逃したグレイモンキーがきっかけだった。とヒロインが堂々と言ってたんだよ。

 

 ならば殲滅するしかない。ドンナテヲツカッテモ。

 私の安寧と、領地の平和のために

 

 ゲームではテキスト数行で表現されただけだが、結構な人数の人死もでる。

 

 この世界がゲームの世界と共通しているかはわからない。似て非なる世界なのか、それとも・・・。

 適度に領地を発展させ、適当にダラダラと生きる。ゲームの舞台となる学園なんてものに行く気はないし、攻略対象に近づく気はない。

 だが、目の前に見えてしまったとんでもないフラグを無視できなかった。

 結果として、自分でも引くレベルで強権とチート的な仲間たちの存在を表してしまった。

「うん、ハルちゃんたちが予想以上に強いのが想定外だった。」

 うん、引くよー。テンション高めに色々やったけど、ドン引きだよー。やりすぎたー。

「ジジジ(どうしたの?)」

「うん、何でもないよ、疲れただけ。」

 

 まあ、便利、もとい友好的な友だちなんだから、よしとしよう。目立ってしまったが、今更、この子たちのいない生活も考えられないしね。

「帰ったら、お風呂だねー、あとは。」

 完成と同時にお預けになったお風呂に、食品開発。贅沢なスローライフの実現に手は抜けない。

 私の領地改革はまだ、数パーセントも達成できていない。

 


ストラ「平和のための致し方ない犠牲よ。」

クマ吉「ぐるるる(容赦ない)」

ハル「ジジジ(猿ってあんまり美味しくない。)」

 

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