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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 10歳 辺境伯家編
30/108

29 大いなる自然には、大いなる化け物が存在する。1

 お猿さん狩りが始まる?

 シルバーモンキー、それは生まれながらの強者ではない、数あるグレイモンキーの中で機転の利く個体が幸運に恵まれたことによって存在が進化した個体だ。

 だからこそ、シルバーモンキーは自分のことを驕ることはない。自然界で生き残るのは臆病な個体だ。だから強い存在の気配には近づかず、弱い相手にも、逃げ道を確保した上で必ず複数で当たるように指示をだしてきていた。広大な森の中心を縄張りと定め、大グマやオオカミといったほかの強者との縄張りに近づくことなく縄張りを広げていった。

 気づけば数百という同胞がシルバーモンキーのもと集まり、彼らはこの世の春を迎えようとしていた。

「ぎぎゃぎゃぎゃ。(オヤカタ、なんか集まってる。)」

「ぎゃぎゃぎゃ(ご飯一杯。)」

 偵察していた部下の言葉にシルバーモンキーは、頭を捻る。いささか大きくなり過ぎた群れは慢心していた、特に前線に立つ実行部隊は、数の暴力とシルバーモンキーの指示によって勝利を重ねており敵を甘く見る傾向があった。

「ぎゃ?(何が集まっている?)」

「ぎゃぎゃぎゃ。(ケナシども)」

「ぎゃぎゃぎゃ、(棒ない、石もない。楽勝)」

「ぎゃ(黙れ)」

 ケナシというのは森の外に縄張りを持つ連中だ。力はないが知恵があり、武器や罠を使って戦うので厄介だ。半面、不意をつくと脆く彼らが蓄えている餌はうまい。侮ってはいけないが、数が少ないところを襲えばいいので美味しい獲物である。

「ぎゃ(どれくらいいた?)」

「ぎゃぎゃぎゃ(俺たちの方が多い。)」

 グレイモンキーの知能は高いと言われているが視野は狭い。自分たちよりも多いか少ないか程度の判断力に、棒などの簡易的な道具や投石などの戦法、シルバーモンキーの命令に従う忠誠心。

「ぎゃ(どうしたものか?)」

 結果として、今の群れの勢力はシルバーモンキーの指揮と判断のおかげであり、彼のもつ臆病な勘によるものだ。

 その勘が告げている。この集まりは無視できない。逃げるにしろ、襲うにしろ、静観してはいけない。

 真に臆病なものは、安全に引きこもるだけではいけない。逃げることと縮こまることは違うのだ。

「ぐるるるわ!」

 遠くから聞こえる雄たけびに、騒ぎ出す同胞たちに手をかざして静かにさせる。無知ゆえに彼らはこの状況を理解できない、だからこそ長であるシルバーモンキーの指示には絶対従う。

「ぎゃ?(進め、アッチだ。)」

 偵察からの報告と、今までの経験、そして雄たけびの方向、それらを加味して一番安全と思われる方向へと指示をだす。

「ぎゃぎゃぎゃ(ケナシがたくさんいるほうだ。)」

「ぎゃぎゃぎゃぎゃ(棒ない、弱い。)」

 愚かな同胞たちは、長の言葉と考えを勝手に理解して駆け出していく。あの雄たけびに向かうのはさすがにためらいがあるが、ケナシはおいしい獲物である。数が多少多くても、数はこちらの方が多い。

「ぎゃ(ケナシどもを抜けて、先の土地へ行く。)」

「ぎゃぎゃぎゃ(なるほど。)」

 そこにきて長の言葉にグレイモンキーたちは色めきだった。

 森の中は食べ物も多く快適だが、あの雄たけびの本体が近づいてきたら危うい、何よりこれ以上群れが増えれば森は手狭になる。ならばケナシを蹴散らして新天地を目指すというのは、納得ができることだった。

「ぎゃ(奪え。)」

 同胞が自分の考えを理解したのを感じ取ったシルバーモンキーはにんまりと笑い、自分もまたケナシの群れの方向へと歩を進める。露払いは同胞に、おいしい獲物は自分が奪う。

 いつもの狩りだ。

 賢きも臆病な獣は、しょせんは獣の考えだった。


 一匹では臆病なグレイモンキーだが、数が増えると調子にのる。数百とまで膨れ上がった群れともなれば、嬉々して周囲を攻撃する。

「ぎゃぎゃぎゃ(一番のり―)」

「ぎゅぎゅあ(抜け駆けすんな―。)」

 群れの先頭を行くのは年若い個体たちだ。若さと食欲に溢れる彼らは嬉々として森を抜けて平原に躍り出る。そこには、10にも満たないケナシどもがいた。獲物だ。

「来たぞー、準備しろー。」

 おかしいと若い個体の一部が足を止めた。

 ケナシどもは、臆病で自分たちを見ると逃げ出すか、動きを止める。だというのに、平原にいたケナシどもは横に広がってまるで待ち構えるように立っていた。

「槍を拾え、弓兵の間合いまでひきつけろ。」

 言葉の意味は分からない。長からの指示もない。だからグレイモンキーたちは警戒して足を緩めるものと、嬉々として獲物に突撃するものに分かれた。

 結果として正しかったのは前者だった。

「ぎゃぎゃ?」

 4本の脚で地を駆ける。森の中で生活するグレイモンキーは平原での移動は苦手だ。それでもケナシ相手なら充分すぎる速度で平原を駆ける。いや駆けていた。

 不意に襲った浮遊感。何が起こったか理解する間もなく、先行していたモンキーたちの意識は闇に飲まれた。


「ははは、サルどもが、次々に落とし穴に落ちていきますぞ。」

「獲物を前にした獣の視野が狭くなる、薬師殿の言葉はいつもながら見事ですなー。」

 辺境伯家の兵士達は、目の前の光景にほほが緩むのを必死にこらえながら、油断せずに状況を見据えていた。

 例年以上に増えていたグレイモンキー。本来ならば森に分け入って少しずつ間引くしかない害獣。だが今回は自分たちから森の外へ飛び出し、簡易的な落とし穴に次々と落ちていく。

「巨大なクマにのって現れたときは、命の危機を感じましたが、あれがこの状況を。」

「クマ吉殿ですぞ。あれでなかなかに紳士的だ。礼儀をわきまえれば非常に頼りになる。」

 その落とし穴を仕掛けたのは、辺境伯家にとっては恩人とも言える若き薬師であった。

 巨大なクマとハチを使役し、グレイモンキーたちの動向を正確に把握し、安全な平原に誘導する作戦を提案し、更にはクマに指示をだして各所に堀を兼ねた落とし穴を作ってくれた。

「草むらに武器と兵士を隠しているだけで、こんな簡単につり出せるとは。」

 薬師の言葉を彼らの主である辺境伯は全面的に信頼し、戦時ともとれる緊張感をもって準備を命令した。薬師を信頼している辺境伯兵たちですら戸惑いを覚える作戦と急展開であったが、結果は上々だ。

「こちらに来た半数が落とし穴に落ちたようです。残った個体も穴を警戒しているようですが、逃げ出す気配はないようです。」

 偵察の言葉に、この場の指揮を任された兵長はどう猛に顔をゆがめる。

「サルどもめ、よほどに死にたいらしい。」

 繰り返すがグレイモンキーは害獣である。森や畑の作物を食い荒らし、ときに人間にも牙を剥く。それでいて素材にならないから、積極的に狩ろうとするものもいない。

「いいか、これだけお膳立てしてもらったんだ、ぬかるなよ。」

 しかし、彼らは兵士だ。兵士の仕事はこの土地の安寧を守ること。

「「おお!!」」

 だから、彼らは雄たけびを上げて武器をとる。草木に隠れ、気配を隠す。獣を相手に戦う前から泥に塗れる、それでもそれが必要であり、有効であると信じていたから彼らはその屈辱に耐えた。

「根絶やしだー。」

 その鬱憤を晴らすように彼らもまたサルたちに駆け出していく。人間の知恵、あらかじめ用意された安全な道を通り、サルたちに殺到していく。

「ぎゃぎゃぎゃ(なんで?)」

 初めて遭遇するケナシどもの行動。その異様な圧力と長からの命令、そして何よりあの雄たけび。それらの情報が一気に集まった猿たちの頭は、即座に許容範囲を超え、その場に棒立ちとなる。


 先行する若きグレイモンキーたち、その中にシルバーモンキーに至る知恵と幸運に恵まれた個体は存在しなかった。



ストラ「計画通り!」

クマ吉「ぐるるるう(私が掘りました。)」

クマパパ「ぐるるるわ(めっちゃ働いた。)」

スラート ガルーダー「まだ何もしてない。」

 壮絶にまだハジマラナイ。

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