28 害獣駆除をするなら、徹底的にしよう という話。
ストラさんは逃げ出した、
しかし回り込まれてしまった。
はーい、私はストラ・ハッサム。ハッサム村に住んでいる10歳のぴちぴちガールだよ。特技は薬の調合とそれっぽく話を煙に巻くこと。今一番の希望は、さっさと帰ってお風呂に入ること。
「シルバーモンキーですか、それはまた。」
「そうなのです、薬師様、そういう事情ですので滞在を少し伸ばしていただけると助かります。」
嫌です。と言い切れたらどんなに楽だったろうか。
ただね、頭を下げている相手は辺境伯閣下、うちのダディーの上司なのよ、そんな辺境伯閣下のお願いを断った。そんな風評だけで吹っ飛ぶような田舎の木端貴族なんだよねー。
「グレイモンキーの数が増えるのは例年のことなんですが、まさか亜種のシルバーモンキーが確認されるとは、薬師様にはクマ様やハチ様たちがついているといはいえ、安全の確保が・・・。」
「いや、分かってますから大丈夫ですよ。シルバーモンキーがいる時点で、イレギュラーはさけたいですよねー。」
シルバーモンキー、長く生きたグレイモンキーが突然変異を起こして生まれた大型の猿である。本でしか知らないけれど、馬車サイズでクマ吉サイズ。小さいじゃんと思うけどそれが二足歩行をして大量のグレイモンキーを使役しているのだ、普通にやばいよねー、異世界怖い(ガクブル)
グレイモンキーが増えるだけなら、季節の風物詩と言ってもいい。田舎の人ってねー強いんだよ、村とかの単位でも対処は可能なんだよー。たくましいよねー。
ただ統率のとれたグレイモンキーはマジで厄介、初動を誤れば村や街が飲み込まれるなんてこともあるらしい。
何で知ってるか? ゲームでイベントがあるんだよー。
「幸いなことに、王家からスラート王子とガルーダ王子のお二人が、近衛の手勢を引き連れて応援にきてくれることになっており、手は足りているのですが・・・。」
うん、これも知ってた。いやいやいや、このイベントってもっと後だよねー。しかも攻略対象が援軍にくるやーつでは?学生の身で初陣を飾るとかいう名目で参戦してくるやーつ。
それまで育てた主人公のパラメーターと好感度、それによって成否が発生するが、本筋には影響がない、そんなイベントだったはず。
(やべえええ。)
「だ、大丈夫です。辺境伯家の兵士たちは優秀ですし、近衛の手勢も魔物狩りの経験者が揃っているとのことです。それにグレイモンキーたちの縄張りは把握できています。一週間もかからずに。」
「辺境伯様!!」
並べられるフラグに耐え切れず私は声を遮った。めっちゃ不敬だけどそんなこと言っている場合じゃない。
「やるからには徹底的にです。それだけの戦力があるなら、グレイモンキーなんて害獣は殲滅すべきです。生半可にいつも通りの間引きとか、シルバーモンキーを狩るだけじゃだめです。」
マジでヤバイ。ここにいたって、、目立つのが嫌とか、合理性とかストーリーとか考えている場合じゃない。
「し、しかし、動物を根絶やしというのは。」
「サルは他所でもいます。可及的速やかに場所を把握して包囲しましょう。私も協力します。」
「はっ」
「ハルちゃん、緊急連絡、手の空いてるハチさんたちで偵察をして、ついでにクマパパとクマママにも。」
「じじじ(了解。)」
呆ける辺境伯様を待つことなく、肩にのせていたハルちゃんに指示をだす。
見るがいい、辺境伯領全体にまで影響力を持つ、ハチさんたちのネットワークとクマファミリーの機動力を。
辺境伯が呆ける中、わたしはどさくさに紛れて、辺境伯からも情報を引き出し、地図上にグレイモンキーたちの勢力図を完璧に表し、王子様達が到着したときには作戦を立て終えていた。
「こ、これはどういうことだ。」
「シャラップ、今は時間が惜しいのです。この地とメイナ様の平和のために。」
「うん、何でも行ってくれ薬師殿。」
一番何か言ってきそうなスラート王子は魔法の言葉で黙らせて、集まる隊長たちに私は堂々と発言する。
「サルたちは、現在この森を中心に縄張りを広げようとしているタイミングです。ハチさんたちの監視とクマパパたちの威嚇で、赤い線の範囲にとどまっているのが現状です。」
「まじかよ、袋のネズミじゃん。」
「ガルーダ様、サルとはいえ、シルバーモンキーがいるならその規模は油断できません、くれぐれも。」
「わかってるって、チヨ。」
いちゃつくなそこ。
「ですので、森の南端を辺境伯軍で、西側から北にかけてを王子様たちは担当していただき、サルたちを半包囲したいと思います。」
仲が悪いというわけじゃない。いや、辺境伯家の兵士と王城の兵士の仲は微妙だ。どちらも強いし、治安維持への意識も高い立派な人達だ。だが根本として守るべき主が違うし、戦い方も違う。だからこそ無理に共闘して禍根を残すくらいなら範囲で分けた方がいい。
「北と東側はどうするんだ?そちらに集落はあるだろ。」
「そちらは、うちのハチさんたちとクマパパさんたちに対処してもらいます。威圧して南西にサルたちを追い込んでもらう予定です。」
「じじじ(こっちは準備OK!)」
ハチさんたちの不思議なネットワークで連絡を受けた女王バチさまたちとクマパパさんたちは協力を快諾。なんなら彼らだけで殲滅できそうな勢いだけど、万が一にも取りこぼしが怖い。
「追い込む。そんなことが。」
「まあ、薬師様だしな。それにあのクマを見ただろ。ヌシクラスが動いたとなったら、サルじゃどうにもならないよ。」
「それを操る薬師様って、いったい。」
辺境伯側がひそひそとうるさい。
「馬鹿を言うな、小娘が戦場にしゃしゃりでるな。」
「サルごとき、われらだけで。」
そして王城の兵士サイドは私の主張への抵抗が強い。わかるよー、わかるんだー。こんな小娘がいきなり何を言っているんだってなるよねー。
「いいや、この作戦は合理的だ。」
「そうだな、仮にクマがいなくても北と東側の集落は少ない。すぐに避難させればなんとでもなるはずだ。」
そこはきっちりとスラート王子とガルーダ王子にしめてもらえばいい。
「それにお前たちも、外のクマを見ただろあの理知的なふるまい、協力的なのは確かだ。」
スラート王子、そんな子に剣を抜いてましたよねー。言わないけど。
「シルバーモンキーが出た以上、民の被害を防ぐには拙速が大事だ。今はこの作戦に乗りたいと思う。」
とどめは辺境伯様。うん、これまで積み上げてきた信頼のおかげよねー。
「そうだ、民を守らずして何が、王族か、兵士であるか。」
「日頃の訓練は何のためにある。」
おおおお、と盛り上がる両陣営の兵士さんたち。
「よし、すぐに準備しろ。」
スラート王子の号令のもと、兵士たちがあわただしく準備をしていく。
「ぐるるる(単純すぎない?)」
「じじじ(人間はそういうものよ。)」
うん、一番冷静なのが、動物さんというのは気になるが、これで一先ずは何とかなりそうだ。
サルたちには気の毒だが、あいつらはマジで害悪でしかないからな。それに万が一、ゲームのような展開になったらまずい。
命が関わる状況で出し惜しみはしてられない。
クマとハチはいいのに、サルはだめ?
ガルーダ「猿は食えないし、害獣から。」
スラート「メイサの敵は滅ぼす。」
辺境伯兵士「まあ、薬師さまのいうことだから。」
ちょろいわ。