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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 10歳 辺境伯家編
26/109

25 王家の家庭事情なんて知りたくもありません。聞きたくないんだ。

 もう一人の王子様の話

 煙に巻く、いや煙に巻かれたのだろうか。少なくとも馬に蹴られたくはないので、そそくさと逃げ出した私たちだったけど、相手は王子である。この国のお偉いさんであるためそのままで終わるわけもない。

「薬師様、なんだこのクマ、すげえなあ。」

 そして、王子は1人ではない。

「これこれはガルーダ王子、御無沙汰しています。」

 辺境伯家近くの森。整備された観賞用の森なのだが、薬草もぼちぼちととれるので用がないときは、避難できるいい場所だ。だが、往診に一回ぐらいのタイミングでこの野生児に遭遇する。

「おっと、そうだった失礼、薬師様、今は時間大丈夫か?」

 そうだね、ここが森の中とはいえ、相手の予定を確認する程度のマナーは大事だ。なんども根気よく教え込んだおかげでやっと身についたようだけど。

「ええ、今は辺境伯家もなかなかににぎやかみたいなので。」

「ああ、スラートのやつがはっちゃけてたなー。」

 やっぱり忍び込んでいたな、そしてあの醜態を見ていたと。いたずら小僧というか、王子らしからぬわんぱくっぷり。何が楽しいのか私の往診のタイミングに合わせてこの周辺で遊んでいるらしい。

 このあたりはゲームと同じである。しかし、ゲームではメイナ様とスラート王子の仲は冷え切っており、その様子を見て義憤に駆られたガルーダ王子がメイナに思慕を募らせるという話だったが。

「よくわかんねーけど、あれってお似合いって言うんだよね。」

「そうもいますよねー。」

 ガルーダ王子にその気がなさすぎる。変にこじれて面倒な事になるよりはいいんだけど。

「ぐるるる(この子、なに?)」

「じじじじ(王子様らしいよ、人間たちの長の息子。)」

「ぐるる(俺らみたいの?)」

 たしかに、ハルちゃんやクマ吉からすると同じようなものか。いやそれにしてもガルーダ王子よ、クマ吉にビビらないのはいいけどあんまり刺激するなよ。

「なあなあ、それでこのクマはなんなんだ。今なんて言ったんだ。」

 うんめっちゃ純粋で無邪気な瞳ってお姉さん弱いわー。

「こちらはクマ吉と言います。ハッサム村周辺の山のヌシであるクマパパの息子で、私の友人です。」

「ぐるるる(よろしく、王子。)」

「ああ、なんかよくわかんねーけど、よろしくなクマ吉。」

 同じ王子でも反応が変わるものだ。ただ彼も王子だ。

「ガルーダさま、そんなに不用意に触っては失礼ですよ。」

 護衛というかお付きっぽい人がちゃんといる。そして大人は慌てるよねー、この光景。

「チヨさん、ダイジョブ、クマ吉は心が広いから。」

「ぐるるる(そっちの人は?」

「じじじ(王子の番。)」

 いや、番じゃなくて保護者だよハルちゃん。

 チヨさんはガルーダ王子付きのメイドでお目付け役の女性だ。ポニーテールでまとめた艶やかな髪にメリハリの体つきのメイドさん。年齢は10代後半から20代後半といった感じのクール系な美女なんだけど、さすがに顔が引きつっている。

「チヨ、大丈夫だって。こんなに賢そうだぞ。」

「だ、だからこそです。初対面の相手に、不用意に触るのはいかがなものかと。」

「でも、チヨは俺に不意に触るし、不意をつくと喜ぶよなー。」

「きゃああ、そういうのとは違うんです。」

 うんちょっと距離を置きたくなるなー。あれかピュアな少年に。

「ち、違います薬師様、これは訓練の話であって、私の不意をつけるほど成長されたガルーダ様の姿うれしいのであって、けしてやましい意味では。」

 何がやましいんだろう、ストラ、10歳だからわかんなーーい。


 とまあ、色々と戯れたところで、ガルーダ王子は満足してクマ吉から離れた。村のちびっ子たちと比べたらずいぶんと大人しいし、動物の扱いになれているようであった。

「すげえな、このクマ、めっちゃ強いだろ。」

「そうですね、少なくとも私にとっては友人ですよ。」

 アメとか食べ物で釣れるちょろいクマさんです。 

「ぐるるる(ほんとに兄弟?)」

「じじじ(似てないよねー。ただこっちの方が好印象)」

 くしくも同じ日に出会った二人の王子だが、うちの子の印象は真逆なものだ。

「うん、なんだ、何って言ってるんだ。」

「うーん、王子に二人と出会えたことに驚いているようです。」

 さすがにストレートには言いにくいが。

「俺ら似てないからなー。驚くよなー。」

 そんな言いにくいことを笑いながら言えちゃったよ、この子。なんだろう、どんな心境の変化があったのか。原作と変わったねーいい意味で。

「ガルーダ様、よかったらクマ吉に乗ってみますか。」

「いいのか。」

「ええ、いいよね、クマ吉」

「ぐるるる(アメくれるならいいよー。)」

 はいはい、ホント好きだねー。ぽいと口にアメを放り込んであげると嬉しそうに味わい頭を下げる。

「ありがとうな、クマ吉。」

 ひらりと首のあたりに飛び乗り、イケイケで乗り出すガルーダ王子。まるで金太郎だ。やばいよ、ダウナーで俺様系なガルーダ様のファンが見たら発狂するんじゃないか。

「ぐるるる(このまま行く?)」

「ガルーダ様、よろしければクマ吉のパトロールにご一緒されますか?」

「いいのか、いくいく、宜しく頼むぜ、クマ吉。」

「ぐるるる(あいあい。)」

 クマは自分の縄張りを散歩、もといパトロールする習性がある、クマパパやクマママがこの場に居ないのもハッサム村の縄張りに戻っているからだ。

 クマ吉は辺境伯家周辺の森をのんびりと回る。ガルーダ王子にはそれに付き合ってもらおう。本人たちも楽しそうだからよし。

 その隙にチヨさまにハチミツアメを渡し、御礼を受け取る。

「薬師様・・・ありがとうございます。」

「別に、私にとっては片手間で作れるものなので。」

 なんだかんだガルーダ王子には会うたびにハチミツアメをそれなりの数を渡している。気持ち的には子どもにアメちゃんを渡す大阪のおばちゃんなので、ガルーダ王子から御礼は受け取っていない。代わりにガルーダ王子には私の詳細を秘密してもらっている。ということになっている。

「ハチミツアメのおかげもあって城内でもガルーダ王子の評判が良くなりました。ガルーダ様も前より活発というか魅力的になりましたし。」

 2回目からはお付きのチヨさんがこっそり御礼をくれる。それも結構な額をだ。思わぬ誤算だけど。

「国王はどの王妃も愛し、王子たちそれぞれの才能を期待しおられます。ですが、城内では次期王にふさわしいのは誰かと口さがないものたちが多いのです。特に才能あふれるスラート様と年の近いガルーダ様はよく比較され、スラート派のバカどもに心無い言葉を掛けられたりしていたのです。純粋なのでその意味までは理解していなかったのですが、居心地の悪さを感じて、城を抜け出すことも多く。それがまた評判を下げてしまっていたのですが・・・。」

 いやいや、そういう王族の家庭事情とか聞きたくないんだけど、面倒ごとの気配しかないんだけど。 

「そんなわけで、一時期はわがままで周囲を困らせてばかりだったのですが、なんのことはなかったのです、ガルーダ王子は純粋で誰よりも平等に私たちを見てくださるのです。」

 純粋、平等? まあ確かに私やクマ吉に会っても動揺しないのはそう取れなくもない。

「薬師殿と出会い、このアメをいただいたことがきっかけでした。美味しいものを分けるというきっかけをもとに、私たちとガルーダ王子の仲は一層深まりました。」

 なるほどねー。

 今まではやんちゃで、要求だけしかできないお子ちゃまが、アメをきっかけに交流を持てるようなり、臣下との距離を近づけたと。

 うん、まあ王子ってのも大変なんだろうねー。

「あの純粋な瞳をキラキラと輝かせて私たちとお話をしてくれるようになったんです。あの愛らしさといったらもう。」

 うん?

「それに、真顔で「好き」って言ってくれるんですよー。私の髪がキレイとか。動きがかっこいいとか褒め殺しにされるんです。」

 ああ、この人もちょっとやばい人であったか。

 まあ、スラート王子もガルーダ王子も愛されて幸せそうで何よりだ。

 おばちゃんは遠くから見守っておくよ。


スラート「婚約者が可愛すぎてつらい。」

メイナ「スラート様がかっこよすぎてつらい。」

ストラ「知らんがな。」


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