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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 10歳 辺境伯家編
25/109

24 男の嫉妬がみっともない、それは美少年でも王子でも変わらない。

王子様がきたー。

何気にスラート王子と話すのは初めてなのです。

 スラート王子。この国の第二王子であり、眉目秀麗、才色兼備で次期王にもっともふさわしいともてはやされるイケイケな美少年美少年である。

 現在12歳、2年後のゲーム開始時には14歳となりスラっとした美青年に成長する。年上の甘やかし系王子様で、自分に媚びなかった主人公をデロデロに甘やかすという謎の奇行に走る攻略対象だったはずだ。なんで覚えてるかって、CMとかプロモーションの歯の浮くようなセリフが素敵だったんだよ。

「恋の魔法で僕を縛る、君は魔女だったんだね。」

 はい、キモイ。恋する乙女はどうかしらんけど、中身アロフォーの私は思い出すだけで鳥肌がたつ気持ち悪さだった。

「おのれ、魔女め、辺境伯家の人間だけでなくメイナまでたぶらかすか、許さんぞ。」

 そして、今世になっても同じような事を言われた。なんとも感慨深いものだ。

「スラート様!!」

 だがその言葉にメイナ様はめっちゃショックを受けていた。クマ吉から離れてスラート王子に近づいて抗議するようににらみつける。うんいい子だ。だけどスラート王子はその抗議に気づかずその手を引っ張って片手で抱きしめる。やっていることは王子様のそれと思えるほど優雅なものだけど、現状では話を聞かない系のパワフル系な彼氏ムーブでしかない。

「スラート様、今のはさすがに失礼です、初対面の女性に向かって魔女だなんて、それに精霊様を魔物扱いしないでください。」

「ぐっ、だが、どう見ても。それにま、あの女だって反論してないじゃないか。」

 おお、言い返したよ。メイナ様かっけー。

「それは、殿下を前にして礼儀をわきまえているからですわ。」

 メイナ様の言葉に合わせて、私はそっと膝をついた。クマ吉も会釈するように頭を下げる。やや芝居がかったタイミングだけど、メイナ様と私、クマ吉の振る舞いは理性的なそれだ。周囲の兵士さんたちにはメイサ様が巨大なクマと心を通わせているように見えたはずだ。

「スラート殿下、これだけ理性的な行動をなさっているのです、メイナ様の言う通り精霊様なのでは。」「ぐっ、だがこのように巨大な精霊が人前に姿を現すものなのか。」

 お付きの兵士にまで説得され始めるスラート様だけど、まだ疑っている。まあ無理もない。

 この世界において魔物と精霊は同一の存在だ。魔力を持ち人間並みに高い知性を持つ生物、それらの中で人間に友好的な存在を精霊、野生のままにいき有害な存在を魔物という。もっとも自然に近い地方では総じて精霊と呼ぶ精霊信仰なるものがあるので基本的に魔物とは呼ばない、畜生と呼ぶ。

「しかし、クマと言えば魔物では?」

 王子の言葉がもっともというのは、宗教的な問題だ。都市部や貴族たちの間ではこの世界を創った創成神と呼ばれる神様を信仰する創生教というものが存在する。その中でクマやハチなどの人でないのに知性を持つ存在は、かつて神に逆らった罪で姿を変えられたものというとんでもない考えがある。盲目的にそれを信じる者はいないが、クマやハチといった賢い存在に好き好んで関わろうとする人は少数派だ。

 ちなみにこれ全くのでたらめである。ゲームのスラートルートではそういうことを吹き込んだおバカな司祭様をざまあするというストーリーが存在するのだ。

「なるほど、毒されてますねーこの坊や。」

「ぐるるる(どういうこと?)」

「うん、あれバカってことだよ。」

「なっ?」

 小声でクマ吉と話していたら、スラートは目ざとく反応した。

「おのれ、言いたいことがあるならば、はっきりと言え。」

 剣先を突きつけてお怒りの様子の王子だが、なんというかまだまだ子どもである。剣は確かに怖いけど、こちらにはクマ吉もハチ達もいる。むしろ周囲の兵たちの方が青ざめている。

「それは、直答を許すということでよろしいですか?」 

 それでもこの世界において身分制度は絶対だ。例えば、明らかに身分が上っぽい人には自分から名乗ってはいけない。私の立場では話しかけることも本来なら許されない。

「許す、バカと呼んだ理由を聞かせてもらおうか。」

 勢いで会話は許された。まあ、今後の事もあるし、言いたいことは言っておこう。

「では、スラート王子。チーズやヨーグルトはお好きですか。」

「はあ、特に好きでも嫌いでもない、身体にいいからとよく食卓にはあがるが。」

「では、その製法、ご存じではないと。」

「ああ。」

 この状況で、直接的な表現でバカにするのはよくない。クマ吉たちのおかげでこの場はどうとでもできるけれど、私のせいでメイナ様とスラート王子の仲がこじれるのは問題だ。少なくとも私が分かりやすく話をしているというスタンスなことを周囲には理解させる必要がある。

「細かい手順は省きますが、チーズもヨーグルトも元は牛の乳を使っております。特殊な素材を混ぜて、一定の温度で放置、腐れらせることであの味と栄養をだすのです。」

「腐らせる、だと、ふざけるな。ヨーグルトもチーズも教会が健康的な食材として広めているものだぞ。」

「いいえ、始まりはしまい忘れた牛の乳をなんとか食べれないかと工夫したものがきっかけです。パンなどもそうですが、放置すれば硬くなったりかびたりしますよね。ヨーグルトも同じようにしてできたものだなのです。」

「な、なんだと。」

「そうなのですが、ストラ、私たちは腐ったものをありがたく食べていると?」

 これにはメイナ様もびっくりだったらしい。

「いえ、腐らせるというのは違いますね。熟成なんて言葉を使います。獣の肉なんかもそうですが、狩ったばかりの肉よりも血抜きをしてしばらく寝かせたもののほうがおいしいでしょ。ワインなんかも何年も寝かせたものが高値で取引されています。」

「確かに、狩ったばかりの肉は臭みが強いし固い。だからこそ血抜きや処理をする専門の職人がいるな。」

 おっ狩りの話の方が食いつきがいいかな。そうえいばゲームでも狩りとかしちゃうタイプだったねー。

「問題は処理の仕方でございます。ただ牛の乳を放置しただけでは腐って食べれなくなりますが、しかるべき手段をとればおいしくもなるということです。」

「たしかに、ずたずたに追い回した獲物よりも一撃で仕留めた獲物の方が肉の味はいい。初めて狩りをしたときのあの鳥にはずいぶんと申し訳ないと思ったがまずかった。」

「スラート様、狩りもされるんですか?ちなみにその鳥というのは、」

「あ、ああ。血生臭い話になるとメイナには話していなかったが、月に何度か狩りに行くんだ。初めて狩ったのはグラブバードだった。矢を何度も外してしまったし、とどめをためらって時間をかけてしまったから肉が硬くなってしまってなあ。」

「そうだったんですねー、グラブバードは一撃で仕留めから、首を切り落として血抜きをしないといけないから大変なんですよねー。うちの料理人もよくぼやいています。」

「なんと、メイナ。君が見たことがあるのかい。」

「はい、スラート様が肉料理をお好きということだったので、勉強しましたの、そのときに解体の現場も見ましたわ。」

 ええ、メイナ様アクティブだなー。普通は勉強こそしても解体現場は見ないでしょ、私も嫌だぞ。

「すごいな、怖くなかったのか。」

「怖かったですけど、自分が口にするものですから、きちんと学ぶべきだと思ったんです。」

「立派だ。さすがメイナだ。」

 うーん、おかしいなー、なんか二人の世界になってない?「発酵」と「腐敗」を例えにして精霊と魔物の違いを説教してやるつもりだったんだけど。

「ちなみに、最近はボアを狩ったんだ。弓で目を狙い、喉を斬った。」

「まあ、すごいですわ。ボアは狂暴な上に足が速いので、大の大人でも近づけないと聞いていましたが。」

「そこはあれだ、ボアの動きを読んで有利な場所に誘導するんだ。」

 うん、あれだ。なんか完全に二人の世界になっている。

「・・・申し訳ございません。ああなってしまうとしばらく帰ってきません。」

 呆れていたらお付きの1人がそっと私たちに近づいてきてそっと教えてくれた。

「メイナ様は非常に聡明な上に、なんというかあれなんですスラート様の琴線と言いますかツボを押さえた魅力の持ち主でしてね。あんな感じに話が盛り上がると。」

「二人の世界になってしまうと。」

 すげえな目の前のクマよりもお互いのことに夢中って愛ってすごいなー。

「スラート様も狩りを好まれる関係で、精霊様への理解はあるのですが、どうも自分よりもクマに夢中なご様子だったので嫉妬してしまったようなんです。」

「ああ、なんかそれはわかってましたよ。お疲れ様です。」

 すごく疲れた顔をしているお付きの人達。おそらくだけどこの手の暴走は初めてじゃないんだろう。うん、とりあえずハチミツアメを配ってもらおう。ちょっとは元気になるよ。

「ははは、ありがとうございます。薬師様。なにぶん、今日はメイナ様にプレゼントと馬をお持ちになっていたものですから。」

 うわータイミングも最悪じゃん。

「とりあえず、私たちはこの場から離れたほうがいいですね。」

「はい、重ねがさね申し訳ありません。普段はもっと聡明で慈悲深い人なんですけど、なぜかメイナ様が関わると人が変わると言いますか。子どもらしい反応で我々としてはうれしいのですが。」

「将来の夫婦仲は良さそうでいいんじゃないですか。」

「そうなんですよ。聞いてください、この前は。」

 そっと中庭から離れる私たちに、なぜかその人はついてきて色々と教えてくれた。

 真面目などうでもいい感がありすぎて聞き流していていたけど、なぜか王子のお付きの人たちにはめっちゃ感謝された。

 アメちゃんの効果は偉大だねー。

ちなみに

第一王子 アルバ  のんびりまったりな癒し系お兄ちゃん

第二王子 スラート 眉目秀麗、才色兼備 キラキラ王子

第三王子 ガルダ― 湿度高めの俺様系王子

 が色々変わっていきます。元のゲームストーリー、EX回もそのうちはさんでいこうかなー

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