23 害獣か益獣かそれが問題だ。
王子様とファーストインパクト(笑)
普段なら3日かかる道のりがほぼ1日、しかも道中は寝ていても何も言われない。横になって寝返りをうっても落ちない大きなフラットシート。寝台特急もびっくりな快適さだ。
「と、とまれ。ここをどこだと思っている。」
うん、これも予想通りだよ、びっくりしてないよ。
「ぐるるわ(どうする?)」
「うん、わかってる、私が話すよ。」
完全に寝落ちしている従者さんを起こすのも忍びなく、私は辺境伯家の門番さんに事情を説明するのであった。
まあ、大丈夫だったよ。色々ごり押したけど。
なにより。
「うわー、フワフワですわ。素敵です。」
クマママの素敵な毛並みがメイナ様にめっちゃうけた。
「ぐるるは(この子、すごい、手つきがプロよ。)」
クマママよ、プロとはいったい。辺境伯家に到着したとたん、門番以下、それなりの数の兵士に囲まれた私たちに向かって突撃してきたメイナ様は、呼び止める兵士たちの間をすり抜けてクマママに抱き着き、その毛並みを堪能。
「こちらはストラの御連れなのですね。」
「は、はい。」
「ならば、全員、武器を降ろしなさい。当家の恩人に対してなんたる無礼ですか。」
凛とした佇まいに、よく通る声。そんな無駄に高貴なるカリスマを発揮してその場を制圧、私たちを辺境伯家の中庭に案内してくれたのだった。
「はあ、堪能しました。で、この人達はいったい。」
「ぐるるわ。(クマパパです。)」
「ぐるるるは(クマママです、よろしくです、尊き子よ。)」
うん、尊き子?尊き子ってなに?
「まあ、クマパパ様に、クマママ様なんですね。私はメイナ・リガードと言います。歓迎いたしますわ、偉大な精霊様?」
えっ精霊?まって私の常識キャパシティーが持たない。
「そうなんだ、うん、メイナ様の見識の高さに驚きです。」
とりあえず聞かなかったことにしよう。クマさんファミリーが無事に辺境伯家に迎えられたのでよし。
と思っていた時期が私にもありました。
「化け物め、メイナから離れろ。」
「わーテンプレだあ。」
「ぐるるるる(テンプレって?)」
「さあ?」
遅れてきたクマ吉に抱き着いてそのモフモフな毛皮を堪能していたメイナ様、そこに現れたスラート王子が剣を抜き、さけび声を上げる。
やんごとなき人が、大声を上げる瞬間を初めて見てしまった。いや、メイナ様との出会いもあれだったから2回目か。
それは辺境伯家について3日目のことだ。いつもの諸々を片付けて中庭でのんびりしていたらメイナ様がクマ吉に突撃していた。
「ああ、素晴らしい毛並みです。さすが精霊様。」
「ぐるるるる(尊き子、こんちわー。)」
クマ吉、初見で懐いたよ。私がアメやいろんなもので懐柔したのに、メイナ様はモフるだけで仲良しになった。なんでも昔から動物に好かれる体質らしい。うわーヒロイン力が高い。
とか思ってたら、抜刀したスラート王子が中庭に躍り出たというわけだ。
「あら、スラート様。こんにちは。」
「な、なんじゃこりゃああ。」
おっ、王子様が王子様じゃない顔になっとる。そしてメイナ様、なんか雑。
ということがあった。私の往診と王子様の来訪のタイミングわずかにずれてすれ違う予定だったのだったはずなんだけど。クマファミリーの所為でいろいろずれたっぽいなこれは。。
「スラート様、化け物呼ばわりは失礼ですわ。こちらはクマ吉さんですわ。」
「ぐるるる(よろしく。)」
「いやいや、メイナ何を言っているんだ、こいつは魔物だろう。」
うん、クマ吉を前に剣を構える度胸は認めるけどさあ。足が震えているぞ王子。護衛の兵士さん達も腰が抜けてるし、これってやばくね?
「クマ吉、お座り。噛んじゃだめよ。」
「ぐるるる(犬じゃないんだから。そんなことしないよ。)」
「クマ吉様、こちら、スラート様、我が国の第二王子さまですわ。」
「ぐるるる(王子、理解。)」
うん、クマは賢いなあ。
「ジジジ(ストラ、話が進まない。)」
「あっ、ありがとう、君たちもかしこいよねー。」
うんうん、クマさんたちのインパクトで影がうすくなってたけど、ハチさんたちが訪れたときもひと悶着あったよねー。
「ハザードベアーに、レギオンビー!なんで辺境伯家の中に魔物がいるんだ。」
なにそれ、かっこいい。
「だーかーらー、スラート様。精霊様ですよ。」
「いや、魔物だろこれは。」
よくわからんがメンドクサイな、状況が落ち着くまで引っ込んでいるか。
「そうか、貴様だな、貴様が魔女か。」
ああ、もうメンドクサイな王子様。
それは、それ、あれはあれの精神って大事。
ちなみにクマファミリ―的に
ストラ=小さい子
メイナ=尊き子
ケイ兄ちゃん=勇敢な子
村の奥様=恐ろしい
スラート王子=騒がしい子