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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 10歳 辺境伯家編
23/110

22 移動の快適さよ速さの前にはあらゆることが些事となる。

 いろいろ発展中のハッサム村から逃亡しようの回

 半年もの工事をへて開業したハッサムの湯、いやクマがいるからクマの湯、それともはちが作ったハチの湯?はとても好評だった。

 温かい湯舟は即座に村のご婦人たちの心をつかみ、彼女たち主導で配管が増設され男女の仕切りや壁までが急ピッチで行われて、大浴場が完成してしまった。

「し、死ぬ。死んでしまう。」

「ぐるるる(おばさんたち怖い。)」

 その影でズタボロになっていたドワーフたちやクマ吉がいたけどね。やばいよね、あれが欲しい、これが欲しいって提案した上に、ドワーフやクマ吉たちに一歩も引かずに指示だしてたからねー。

「ストラちゃん、石鹸の準備は?」

「へーーい、作ってあるよ。」

 うん、私も図案を書いたり、石鹸とか入浴剤を作ったりにこき使われたよ。やばいよねー泡立ちとか匂いとかにまで注文をつけてくるんだから怖い。

「ふふふ、お風呂入ると肌がつやつやになるのよ。」

「石鹸ってのもいいね、髪がすっきりするよ。」

 田舎のおばちゃんだった人達が、ちょっぴり美人になった。男ども?臭くはなくなったよ。

 惜しむらくは、完成とほぼ同時に辺境伯家からのお迎えが来てしまったせいで、私自身がお風呂を堪能できなかったことだろう。いやまあ、あの修羅場から逃げられるならそれでいいけどね、ドワーフたちの恨めしい目がやばかったよ。ははは、ざまあ。


 ちなみにだが、今回の往診からものすごいレベルアップが発生した。

「あの、薬師殿、本当にこれで行くんですか。」

「うん、本人たち乗り気だから。」

 いつものように馬車で迎えに来た辺境伯家の人間はびびりまくっていた。そりゃそうだよね、野生のクマファミリーを引き連れる美少女って、コメディじゃなくてホラーだよね。

「ぐるるる(任せろ。)」

「ぐるるるわ(わたしなら、すぐにつく。)」

「ぐるるるは(旅行なんて初めてでドキドキするわ。)」

 なんと、クマファミリーが道中を送ってくれることになったのだ。

「なかなかのイケクマだと思いません?」

 そう、かつての野性味あふれるワイルドなクマさんたちは、もういない。

 ブラッシングやデンタルケアー、そして友好的なコミュニケーションによりクマファミリーの見た目は結構いい感じなった。モフモフのぬいぐるみみたいに見えなくもない。意外とかしこく、紳士的で働き者なクマ吉に、そこらの魔物がはだしで逃げ出す最強のクマパパに、おしゃれなクマママ。すっかり村に馴染んだクマファミリーは私が辺境伯家に出かけることに同行すると言ってくれたのだ。

「だ、大丈夫なんですよねー。」

「たっ、たしかに知性的ではありますが。」 

 だがびびりまくっている従者さんたちの姿に我に返る。

 うん、私たちは慣れきってしまったけど、クマって出会ったら死ぬ生き物だったね。


 それでも快適で速い。ちょっとしたプレゼンで従者さん達はクマファミリーの魅力の虜になり、誰が馬車を持ち帰るかで揉めにもめた。

「じゃあ、行きますよー。」

「おお、これはすごい景色だ。」

 クマパパに乗り込み、感動した声を上げる馭者さんとそれを恨めしそうに見る残り二人。なんか気の毒なので、護衛兼付き合い役としてクマ吉を派遣した。馬車と並走してのんびり来てもらおう。

 

 4足歩行で背中に乗った私たちや地面を傷つけないように加減してのんびりと歩く。そこには確かな知性とファンタジーを感じる。

「ぐぐぐわ(これくらいはたやすい。)」

「ぐるるは(痕跡を残すのは未熟な証拠なのよ。)」

 それでも家並みに大きなクマなので速度は馬車よりも速い。イメージは観光地とかにある2階建てバスだ、吹き曝しになっているから風とかめっちゃ冷たいし、雨が降ったら対策が必要だけど、冬の入口の今の季節なら厚着をしていればそれほど気になることではない。

 何より速いからね。

「もしも、クマ殿たちが協力してくれたら、生活が一変してしまいますな。」

「ああ、それはそれで難しいですねー。辺境伯家まで限定ということで。」

 便利だが、クマは危険な生き物だ。そして縄張り意識もプライドも高い。私たちが偶然、たまたま仲良くなれたからだけど、他のクマが同じように交渉できるとは限らない。

「なるほど、しかしそれならばハッサム村への道の整備、本格的に進言すべきですなー。」

 いや、それも待とうね

 領地の端っこ、国の端っこのド田舎であるハッサム村にまで粗末なものとはいえ、道があることがおかしいのだ。理由は単純、じいちゃんの調合する薬を求めて貴族やら商人が細々とやってくるからだ。ほぼ自給自足が成立している田舎の村なのに、ひっそりと交流があるのはじいちゃんの薬師としての活躍のおかげだ。

 いくら辺境伯と懇意であっても、道の整備は特別扱いな依怙贔屓でしかない。ほかの貴族からにらまれることは間違いない。

 そして、ハチさんたちやクマさん、ドワーフたちの面白グッズが更に注目され・・・ 

 ブラックな気配が私のところまで届いてしまったらどうするんだ。それにいくらのんびりした両親でもそこまでやったら、色々お金を誤魔化していることが流石にばれる。

「今ぐらいがちょうどいいんですよ。」

「なるほど、薬師殿たちは謙虚というか、思慮深いのですなー。」

「まあ、環境が変わりすぎると調剤にも影響がでちゃうので。」

 はい、嘘です。これ以上仕事が増えるのは嫌なだけです。

 ほどほどに健康で、のんびり楽しく過ごせたらそれで満足なんです。

 だったら、クマさんを乗り回すな?

 いやー、前世日本人としては、車は手放せないよ。3日かかるところが1日で済むうえに、荷物もたくさん運べる。

 この便利さは手放せないよ。例え行く先々で説明を求められたり、兵隊さんに囲まれたりしてもね。


 

 

クマさん特急 速度に対して安全性は保証されない。

それでも軽トラとワゴン車並みに快適。

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