20 便利さを追求した結果、仕事が増える。それは私の責任じゃない。
クマさんファミリーのその後
魔物や動物の素材を使うというのはファンタジーの定番である。そしてクマもハチもこの世界では魔物よりである。いやまものは魔物、怪獣だよねー。ガリバーもびっくりだよ。
というわけでブラッシングの抜け毛とはいえ、クマたちの毛の量は豊富だし貴重なものらしい。そのままでも商材になるけど、洗浄したものを紡いで紐にすれば金属もびっくりな強度としなやかさを持った糸が作れるし、それを織って布にすれば肌触りは微妙だけど丈夫な布になるらしい。
「ずいぶんと変わるねー。」
連日連夜、大鍋で煮込まれ現れた抜け毛の塊を触りながら私は嬉々して作業しているガンテツのおっちゃんたちを見ていた。処理することでふんわりとしたクマの毛は独特の弾力と手触りだった。あれだ前世のスポンジのみたいな感じ?
「ははは、さすがのお前さんも、クマの毛の使い道は思いつかないか。」
「いや、いくつかあるんだけどねー。」
この独特な手触りと話に聞く丈夫さ。生かそうと思えばいくらでも思いつくよー。絶対面倒なことになるから言わないけど。
「代わり言ってはあれだけど、こういうのは考えた。」
用意していたのはクマファミリー向けのとげ付きのフェンスの図案だ。金網のところどころに取っ掛かりを作っておき、身体をこすると抜け毛が落ちるそんなシンプルなものだ。
「なるほど、仕組みはわかった、だが手でやった方がいい素材が取れそうな気が。」
「「「やめてください、死んでしまいます。」」」
私の図案に歓喜し、ガンテツのおっちゃんの指摘に抵抗したのは、ブラッシングを担当していた若手ドワーフたちだった。うん、大変だったよねー。
「というか、あれだ、クマの手でも使える形状にすれば自分でいけるんじゃないか?」
「そうだ、手掴みじゃなくて腕に着けるタイプにすればいいんだ。」
「今すぐ、試作を。」
いや、その前に毛玉の処理を終わらせてねー。
「仕事をふやすんじゃねー。」
目の下に隈を飼いながら興奮するドワーフ一同にガンテツのおっちゃんの鉄拳が落ちる。
「というわけだから、これはしばらく封印な。」
「そだねー。だいぶ心地よくなったから、しばらくは必要ないし。」
換毛期とは季節の変わり目だ。これから暑くなる前に冬の毛から夏の毛に生え変わる。そのときの痒さでクマが暴れることがあるらしいけど、今年はその心配はなくなった。それだけで、母ちゃんと父ちゃんからはほめられたよ。
だから欲張らない。私もさすがに学んだ。
「計画と注文に早めにする。これ大事。」
「お前さんが学んでくれたようでなによりだ。」
ため息をつくガンテツのおっちゃん。うん村で一番疲れているのはきっとおっちゃんだからねー。
「というわけで、おっちゃん。新作。」
取り出したるは金属の水筒。コップ一杯サイズの卵型。あれです、シェイカーです。
「こいつはなんだ、ずいぶんと、ハチミツか?」
「そうだよ。」
用意した一つはブランデーとハチミツ、そこに生クリームを入れて冷やしながら混ぜたズーム・カクテルだ。蒸留酒とハチミツといったらこれだ。
「甘い、だが酒精は消えていない。女が喜びそうだ。」
だよねー、これはデザート向け、女性向けだからねー。これはカクテルの何たるかを説明するためのものだ。
「甘い系が多いんだけどねー、これもどうぞ。」
「これは、なんとフルーティーで爽やかな香り。今まで飲んでいた酒はなんだったんだ。」
2本目は、村で収穫した梅を漬け込んだフルーツブランデーだ。度数の高いブランデーにフルーツを数日漬け込んで作る、カクテルとは違うけど、飲みやすくておいしんだよねー。
ああ、飲みてー。
「梅酒とはまた違うな。こっちの方が酒精が強い。」
ちなみにだが、この世界には梅酒もあるし、梅干しもある。米もあるが、なぜか味噌とか醤油がない。おそらくは手間暇の問題だろう。みりんとか酢なら作れそう、というわけでマヨネーズもそのうち手をだす予定だ。
「はは、薬師様は、優秀な酒屋でもあったんだなー。じつにうまい。」
「親方、俺らにも。」
「お前らは自分の仕事終えてからにしろ。それに残ってないぞー。」
ブランデーってアルコール度数高くなかったけ? 割ってあるとはいえ、パカパカ飲むとはさすがドワーフである。
「ジジジ(匂い強い、苦手。)」
ちなみにハチさんたちにはお酒は不評らしく、ハチミツと生クリームだけを出したら喜んでいた。
「じゃあ、私は母ちゃんたちに報告があるから行くねー。」
クマの毛が無駄にならなそうと分かったので、私は工場を後にした。
「まて、残りも置いていけ。」
ちっ、試作カクテルに気づかれたか。
ちなみにだが三日後には、私の提案したブラッシングフェンスが森の一角に設置されていた。なんでも図案をみたドワーフの若手さんたちが張り切ってしまったらしい。
「だから、俺らにも酒を。」
いや、残ってないから。ガンテツのおっちゃんにレシピは教えてあるから。
「秘密にしやがったんだ、あのおっさん。」
「頼む、俺らにもあの酒を。」
「なんなら、このクマ用ブラシの試作品もつけるから。」
必死な様子に私はあっさりとカクテルのレシピを渡した。まあ、そこに私考案のくまの毛活グッズの図案が混ざってしまったのはわざとじゃないよー。
「ぐるぐるわ(快適。)」
「ぐるるは(自分でできるのはいいですねー。)」
ドワーフたちが置いていいたフェンスはクマパパに大好評だった。クマパパにとっては孫の手のようなものらしく背中をごしごしとこすり続けている。
クマママは、腕にブラシを固定してあげると丁寧に体毛をブラッシングしていた。うん女の子なら、身嗜みに気を付けたいよねー。
「ぐるるる。(ここ楽しい。)」
「ジジジ(騒ぎはだめよ。ルールは守れ。)」
「ぐるぐる(わかった。守る。)」
小熊ことクマ吉君(私が命名した。)は、ハルちゃんたちと話し込み。森でのルールや踏んではいけない草木を学んでいた。彼としてはハチミツアメやハチミツを分けてもらえれば満足なようだ。
「ジジジジジジジ(人間と私たちと同じ。食べるものと住むところじゃましなければ仲良くできる。)」
というのはハチ女王さまのお言葉だ。
こうして、フレンドリーなクマとハチさんたちに会える村。ハッサム村が誕生したのだった。
「いや、どういうことだ。」
父ちゃんにはめっちゃ怒られたけどねー。
クマパパ「ぐるるるわ(語尾がわです。家長です。)」
クマママ「ぐるるは(語尾はです。みれば違いが分かるわよ。)」」
クマ吉「ぐるる(お世話になります。」
ストラ「勘弁してください。」
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