157 王子が意外なガッツを見せました。
急いで帰りたい、でもそういう時に限って色々あるわけで
思い付きで旅をするものではない。何事も計画的にかつ慎重に旅行をするべきだ。行き当たりばったりで何かをするとろくなことにならない。私はそういう宿命のもとにいるらしい。
そんな自覚を得ただけ、精霊の里を訪れた価値はあったかもしれない。いや、そう思わないとやってられない。
「ラジーバの砂漠は何時だって広いねー。」
爆走する砂上船からみる砂漠を見ながら私はそんなことをつぶやく。すると隣にいたロザードさんたちが苦笑していた。
「この砂漠がいずれは・・・。」
「なくなると思うと少し寂しい。」
そうだねー、生まれたときから見慣れた光景がなくなるのは寂しいだろうし、信じられないよねー。私も精霊王を対面していなかったら絶対信じないもん。
精霊王の容態が安定し、本格的に力を取り戻すことが確定した直後、私は急いで精霊の里を後にし、アクアラーズへの道を急いでいた。アクアラーズを経由して、最終目的地は王都であるオアシス、ラジーバで起こりうる事態をマルクス王子や獣王に伝えるために私達は旅路を急いでいた。伝える義理はないし、マルクス王子やロザードさんに伝言を頼むだけでもいいが、今回の一件は当事者として報告しないと流石にまずい。
なお、報連相は大事なので、兵隊ハチさんに頼み、メイナ様に、ことの顛末と私の懸念事項を書いた手紙を送ってもらった。距離や手間を考えても一月も立たずに王国の首脳陣にもラジーバの未来は周知されることだろう。それまでには帰国しないと絶対に怒られるだろうなー。
私に残された時間は少ないのだ。一分一秒も無駄にできないので、砂上船も最高速度で走らせているわけだ。目印は見えているし、曳いて困るものもないので、遠慮をする必要がない。
「ストラ様ー前方にのろしらしきものが、遭難者だと思われます。」
「どこのバカだー。」
ここって目印も何もない砂漠のど真ん中ですよねー。冒険家とか逃亡中の犯罪者とかじゃないの?
スルーしたいけど、砂漠では助け合いが基本で、のろしを無視することは、大変外聞がよろしくない。しかたなく、砂上船を減速させて観察すると、のろしは行きに私達が作った目印の近くから上がっていた。数名の集団と同数のラクダ、荷物は最低限しかない。
「無謀な、この装備で砂漠をここまできたのか?」
「戻るタイミングを見余ったな。」
ざっと見える情報からプロお二人が厳しい判定が下されるが、実際ラクダさんも人間達もしゃがみ込んでボロボロでありかばいようがない。
「装備はしっかりしたものですから、おそらくは、魔物から逃げた隊商か、道にまよった旅人ではないかと。まよった挙句、ストラ様の目印をみつけたのではないかと。」
それは運がいいのか、悪いのか。
そんなことを思いながら、砂上船で近づくが、旅人たちはうつむいたまま動く気配がなかった。もしかして死んでるとも思ったけど、近づけばわずかに肩が上下しているのでたぶん間に合うだろう。というかあれだ、めっちゃ見覚えがある姿じゃないかあれ?
「あれ、ストラ嬢?ははは、そうか、私は死んだのか。」
遭難し、しなびてミイラみたいになっていたのはラジーバの王子とその側近たちでした。
「何やってんのー。」
思わず、水玉を作り出してぶっかけてしまったのは許して欲しい。
脱水症状や飢餓状態になっている相手に、急に水や食料を与えるのは危険です。喉や消化器官に深刻なダメージが入る場合があります。熱中症などの場合もまずは身体を冷やし、水分が呑めるようならゆっくりと飲ませる、飲めそうにない場合は生理的食塩水を点滴しましょう。
「とりあえず、船に運んで、ラクダは。」
「ラクダは、私が、ジレンは王子たちを。」
「じじじ(急げー、運べ―)」
「ぴゅーー(冷やす?冷やす?)」
精霊さん達も総動員して、王子と側近たちを介抱し、ラクダさんたちにも餌と水を与えた。
「ラクダたちは大丈夫そうです。繋いで起きました。」
「野営の準備する?」
「ありがとう、でも野営は待ってね。」
ファルちゃんにキンキンに冷やしてもらいながら、薄めた栄養ドリンクを流し込む。幸いなことにゆっくりなら飲む力は残っているようで、身体を冷やしたことで王子達の状態は落ち着き、朦朧した意識は、安心したように眠りに落ちた。
「王子達は・・・。」
「寝てるだけ、脈拍とかは安定してるから、大丈夫じゃないかな?」
水分を取れるなら大丈夫だろう。獣人は頑丈だし、見た限り症状も重くなさそう。
「とりあえず、ラクダは開放してあげて、先を急ごう。」
ラジーバのラクダは賢いので、鞍を外して命令すれば、自力で人里に帰るという。残りの距離を考えれば少し休んでから勝手に帰ってくれるだろう。ごめんね。
看病と仮眠を交代で行いながら、砂上船を爆走させること半日、夜になっても疲れ知らずのクマ吉だよりの旅路を強行していたら、マルクス王子は意識を取り戻した。
「面目ない、ホントに助かった。」
「いいから、何があったか教えてもらえます?たしかアクアラーズにいたはずでは?」
意識を取り戻し私の姿を目にするなり飛び上がって土下座しようとする王子をやんわりと押さえつけつつ、私はニコニコと事情を尋ねた。元気そうなので体調を心配する必要はもうないだろう。
「う、うむ。実はな。アクアラーズについたときには、ストラ嬢は旅立った後だった。」
「そうですねー。」
色々めんどくさかったので逃げるように精霊の里へ旅立ったわけだし。
「アクアラーズから旅をするならば、王都以外ありえない。だというのに我々とすれ違わなかったことが不思議でな、街長から事情を聞いたんだ。そしたら、精霊に案内されて、砂漠の彼方へと旅立ったと聞いてな。居てもたってもいられず、最低限の準備をして追いかけたんだ。」
「ああ。」
旅をするとも伝えたし、見送りも結構と伝えた。目的地はぼかしていたけど、精霊も一緒だから心配ないよとも伝えておいたんだけど。
「ストラ嬢の強さは知っている。だが、ラジーバの砂漠は危険だ。道しるべなしに旅をするのは精霊がいても危険だと思ったのだ。」
「うん、なんかごめん。」
完全に善意で追いかけていたと、いやでも普通諦めないかな。
「大まかな方向は街の人達から聞いていた。砂上船の軌跡もわずかに残っていたからな。ダメならすぐに引き返すつもりだったのだが・・・あれだ、ストラ嬢が作ってくれた目印を見つけてしまってな。」
なるほど、これ完全に私が悪いなー。それでも目印ってクマ吉感覚だから、たどるのも難しいはずなんだけど、途中までとはいえ、よく生きてたなマルクス。
「無理して追ってこなくても。」
「そうはいかん。」
呆れてそういったら、両肩をがっしり掴まれた。
「ストラ嬢、君は自分の価値を分かっていない。万が一にも君を失うことが、この世界にとってどれだけの損失なるか、もっと考えてくれ。」
「は、はい?」
「知るべなき砂漠を進むことは君にとっては容易い事かもしれない。だが、万が一だってこともある、王国の力をそぐことを目的に、君を害する者がいないとも限らない。魔物の群れに襲われたり、未知の病にかかることだってあるかもしれなかったんだぞ。」
「まあ、そうですね。」
ここで、精霊さんがいるから大丈夫だよというのは野暮だよねー、流石に。
「せめて目的地をちゃんと話しておいてくれ。君が、君が遠くへ行ってそのまま帰ってこないんじゃないかと思ったら、俺は、俺は。」
言いながら、マルクス王子の瞳からは涙が流れ落ちていた。
えっなんで泣いてるのこの人?男泣きする要素あった?
「君が。無事でよかった。」
そう言ってマルクス王子は再び気絶した。極度の疲労とストレス、それから解放された安心感により再び意識が落ちたのだろう。それだけ限界まで砂漠を駆けていたんだろうし、今だってやっとの思いで起きあがったのだろう。
ほんとおバカなワンコである。側近さん達まで巻き込んで、何をやっているのだろうか?一国の王子としての自覚が足りないのではないだろうか?
「っち、それはこっちのセリフだっての。」
寝落ちする王子の頭に濡れタオルを叩きつけながら、私はそんなセリフを吐き捨てるのだった。
詳しい事情は起きたときにすればいいかな。私も少し休もう。
ストラ「何やってんのーーー。」
マルクス「まじで、すいません。」
なんだかんだ、マルクス王子が自分を追いかけてきてくれたことが嬉しいけど、それどころじゃないストラさんです。




