15 似てないと言われてもどこかで似てくるの兄弟というものです。
もうちょっとだけ王子様達の話。
考えなしにすぐ動かない、母上はいつもそういう。だが俺はどうにも衝動的に動いてしまうらしい。面白そうなことがあればすぐに試すし、すごいと思ったことは、できるかどうかの前に真似してしたくなってしまう。
「おい、見ろよーガルーダ王子だ。相変わらずスラート王子と比べて野暮ったいな。」
「今日も朝から城を抜け出していたとか、スラート王子と比べてあれではお相手が。」
自室につながる廊下を歩いているタイミングでこちらを見て何やら話している、貴族が二人、どんな仕事をしているのかわからないが、城をうろうろしてはよくあんな風にコソコソと話している。
あいつらが俺をのぞき見をして、こそこそと話している内容。それが悪口であることは分かっていた。なんとなく馬鹿にされているということも。
だからあいつらは嫌いだった。いつもなら避けて通るところだけれど。
薬師と名乗ったあの女なら、きっとあんなバレバレののぞき見は指摘しているだろう。
「なあ。何を話しているんだ。」
いつもなら避けて通るところを、ずかずかと近づいて俺は声をかけた。
「こ、これはガルーダ王子、ゴキゲンうるわしゅう。」
「いや、いや大した話ではありませんよ、世間話というやつです。」
俺がいきなり話しかけたことに目に見えておどおどする貴族。なるほど、あのときの俺はきっとこう見えたようだ。そう考えると嫌な気持ちとか苛立ちよりも面白さが勝る。
「俺は知りたい。お前たちが俺にどんな不満を持っているか。俺が直さないといけないことがなんなのか。」
「そ、それは、ですねー。」
しどろもどろになる貴族。それは母上や父上に叱られる俺のようにおどおどしていた。なんだ大人といっても大したことはない。
「何をしているのですか。ガルーダ。」
このまま追い詰めてやろうと思っていたら、運の悪いことに母上に見つかってしまった。いや、ぬけだしていたのだから、部屋の近くで待ち伏せていたのだろう。
「それに、アナタたちは確かスラート派の。ガルーダに何かようですか?」
「い、いえ、王妃様。それは。」
「いや、別に大したことでは。」
「「おい、見ろよーガルーダ王子だ。相変わらずスラート王子と比べて野暮ったいな。」「今日も朝から城を抜け出していたとか、スラート王子と比べてあれではお相手が。」って言ってたよな。」
「「なっ。」」
あれだけでかい声で話していて聞こえてないと思わなかったのかお前たちは。
「言葉の意味がよくわからず、詳しく聞いていたところです。」
「な、なな。」
俺の言葉に、母上の鋭い視線がさらに鋭くなる。母上は美人な上に強く賢い、だからこそ3人いる王妃の中でも一番父と過ごす時間が多い。そしてめっちゃ厳しい。
「ガルーダ、末の子とはいえあなたがいつまでもふらふらしているからこそ、このような輩に舐められるのですよ。アナタたちも言葉も意味も、聞いている相手がいることも理解して口を開きなさい。わかっているなら、今すぐここから消えなさい。」
「は、はいいい。」
「し、しつれします。」
普通に話しているだけなのに、この気迫。先ほどまでニヤニヤと俺を見ていた貴族たちが真っ青になり逃げるように去っていく。
「ゴミはゴミらしく日陰にいればいいものを。」
おお、かっこいい。いつか使おう。
「さて、ガルーダは今日はどこにいたのですか?」
「い、いや、母上。今日は勉強も訓練もお休みだったはずですよ。」
俺だってもう10歳だ。さすがに勉強や訓練をさぼってまで遊んだりはしない。
「そんなことは当然です。例え休みでも、自分の居場所ぐらい侍女に伝えておきなさい。」
「いや、だってそうなると。」
「だってもこうもありません。」
すっかりお説教モードになってしまった母上。いつもならもう少し穏やかなのに、今日は機嫌が悪いらしい。
一度、こうなっているときの母上は怖い。此方の話を聞いてくれない。
けれど今日は秘密兵器がある。
「母上、まずはこれをお召し上がりください。」
ガミガミが始まりそうな口に、ハチミツアメをぽいと投げ込む。うん我ながらナイスコントロールだ。
「むぐ、な。あれ?」
うん驚くよねー、めっちゃうまいからこれ。
「ハチミツアメというそうです。栄養が高く、疲れがとれるんです。」
「あら、アメなんて久しぶり。甘いわね。」
「はい。」
甘さに顔を綻ばせる母上。その姿に追加のアメを食べたくなるけど、鼻血は出したくないので明日まで我慢だ。
「ガルーダ、これをどこで。」
「ええっと。」
辺境伯家で薬師にもらいました。そういえば俺がスラートのお見合いをのぞき見していたことがばれてしまう。かといって街で買いましたと言っても。
「アメリアにガルーダ。こんなところで何をしているんだ。」
困っていたら、なぜか父上が廊下を歩いていた。
「陛下(父上)、どうしてこんなところに。」
母子で声をそろえて尋ねると父上は笑う。
「ここは俺の城だ。どこにいようと俺の勝手だ。まあ、正直に言うと何やらいい匂いを漂わせるヤツがいてな、問い詰めところ、ガルーダ、何か面白いものをもっているらしいな。」
さすが父上、城に帰ってアメを配ってからまだ1時間も経っていないのに俺のところにたどり着くとは。
「はい、父上。ハチミツアメなるものをもらったのです。よかったら父上も。」
父上は国王である。だから母上のように口に放り込むわけにはいかない。
「なんだ、父には投げ入れてくれないのか。」
「陛下!!。」
おどける父上に赤面する母上。どこから見ていたのか全く分からないけど父上はのぞき見もすごい。
「で、では。」
あーんと口を開ける父上に、ハチミツアメを投げ込む。すると母上と同じように甘さに顔を綻ばせる。
「ハチミツの甘味でありながらなんという味の深み。それでいて時折感じ刺激的な味。いつまでもなめていたいな。実にうまい。」
「でしょう。俺もあっという間に舐めてしまったんです。」
父上が興味を持ってくれたことがうれしかった。厳しくも強い父上だがこうして砕けた顔を俺たち王子や母上たちには時折見せてくれる。それを引き出せたというのはちょっと
「はあ、これでは叱れないではないですか。」
「落ち着け、ガルーダは別に悪い事はしていないだろ。」
やれやれと首を振る母上に微笑み抱える父上、どちらもほっぺたが丸く膨らんでいるのが面白い。
「だがガルーダよ、城外にでるときは誰かに声をかけてからにしなさい。無事と分かっていても心配するものがいるのだ。それも上に立つ人間の義務と知れ。」
「はい、気を付けます。」
城外へ行っていた、おそらくは辺境伯家へに行っていたことも父上は把握されているのだろう。
「それにしても良き縁を持てたようだな。ガルーダ―、そのアメもそうだが、そのアメをくれた人とは仲良くしなさい。くれぐれも失礼のないようにな。」
「陛下、心当たりが。」
「さあな、それはあとでな。」
父上がどこまで知っているのか、興味はあった。だけど、少なくとも分かることして、あの女、いや薬師様は相当すごいやつっぽいということだろう。
「はい、尊敬しつつ、仲良くさせていただきます。」
「ふふふ、やはり俺の子だな。」
その日はともかく濃密な一日だった。
薬師との出会いにハチミツアメ。そしてハチミツアメが見せてくれた従僕たちや、父上の意外な表情。これがまた面白いと思えた。
まあ、変な女だったけどな。
メイナ様の視点は、スラート王子の話はまた後日に
次回は、村に帰ったストラちゃんの話です。