156 めでたしめでたしでは終われない。
偉業の後には、苦行が待っている。ストラさんの思考回です。
数百年に渡り精霊たちを悩ませていた精霊王の病。もとい衰弱は、1人の薬師のひらめきと大胆な治療によって癒された。長らく淀んでいた精霊王の力は正しき流れを取り戻し、その偉大な力と恵みは大地を潤し、死の大地とも言われた砂漠は、かつて姿を取り戻し、地上には喜びが満ち溢れた。
「いやいやいや、どうしてこうなる。なんでこう極端なのかなー。」
物語ならば、そんなハッピーエンドかもしれないが、現実は物語のようにはいかない。
さて、この大陸に5つの国家があることを覚えているだろうか?
もっとも古い歴史を誇る大帝国にして、武双国家「クラント」
多くの人口と豊かな水源をもつエセ宗教国家「ローレシア」
厳しい砂漠を古代遺跡の名残りと獣人たちの強靭さで生き抜く獣人国家「ラジーバ」
議会制度によって臨機応変にトップと方針を変えることで力を増し続ける自由国家「スベン」
大陸の中心に位置し、豊かな自然と魔法技術を駆使して5国の中心となっている 王国
大陸が今の形になって100年以上、国境線が多少ずれることはあっても、5国のパワーバランスは維持され、大きな争いは起こっていない。
そこには様々理由はあるけど、その一つにラジーバの砂漠の存在がある。
えっ砂漠にそんな意味があるかって?あるのだわ、これが。
一番大きいのは、地形的な防壁としての役割だ。
踏破困難な砂漠が広がっているおかげで、帝国や各国は大規模な侵攻ができない。砂漠で生きるのが大変なのに敵も味方もないからね。
あと、ロザートさん達の前でこんなことを言うのはあれなんだけど、砂漠って支配しても旨味がないのよね。作物は育たないし、魔物も多い。侵略や貿易の橋頭保として維持するのもコストがかかる。だから、この広大な砂漠が、ラジーバの領土になっていても、誰も文句を言わないし、わざわざ侵略しようとも思わないってわけ。アクアラーズは優秀な港町でありながら、外資系の商人に経済侵略されていないのはそう言う事情もある。
地理的な防壁と旨味のなさ、この二つによってラジーバが他国から侵略されることはなく、緩衝材としての役割を果たすことで各国のバランスは保たれているわけだ。
この二つってさあ、砂漠が砂漠だからこそ成立してるよね?
で、精霊王が力を取り戻されて、砂漠が緑化し、人が住みやすい土地になったらどうなると思う?
緑が戻って作物が育つ土地となれば、土としての価値が跳ね上がり、広大な土地そのものを奪いあう争いがラジーバ内で起こるだろう。そして、獣王やビアンカの首脳陣たちがそれらを統制することは困難だろ。彼らは優秀であるが、長く続いた砂漠の安寧に中で生きてきた彼らには、経験が不足している。
いっそ精霊の里周辺のようなジャングルが広がってくれるな、困難の種類が変わるだけで、ラジーバの人達が成長する時間が稼げたかもしれない。安易に人を送り込めるうえに、種を植えて好きに開墾できる土地というのはそれだけ魅力的なのだ。ラジーバの情勢が落ち着くまで各国が我慢できるわけもなく、領土を切り取っていくだろう。
そうなると国力拡大のための開拓競争になる、バランスを維持するために王国だって動かないと行けなくなる。植民地をめぐる争いは苛烈なものとなるだろう。
私の悲観的な妄想であるならばいいんだけど、ここで、楽観はできない。
前世でも今世でも、人々は豊かな土地と水を求めて人は争っていた。
原住民が育ってきた土地を、海外から入植してきた人々が脅かし、開拓民が切り開いた土地をよその人間が奪い取る。奪い取った土地の利権争いが世界大戦のきっかけとなった。そして、残念なことに大陸にもそんな歴史がたくさんあるのだ。
「土地の価値が跳ね上がるよ。それも喉から手が出るほどにね。」
精霊王がマジになったとして、どれくらいの速度で緑が戻ってくるのかは未知数だ。だが、あれだけのファンタジーな力があるなら、人知の及ばない速度なのは間違いないだろう。その速度にラジーバの人達の成長が間に合わなければ、待っているのは周辺国からの様々な形の侵略だ。
ストラ「気づきたくなかった、知りたくなかった。」
ハルちゃん「じじじ(ドンマイ)」
なんだかんだ、自分の緑化活動で色々考えていたのに、台無しにされてしまい、パニックになっているストラさんの今後はどうなる?




