155 ストラ、後始末に頭を抱える。
周辺は、枝と葉っぱで足の置き場がありません。
ガーデニング、草むしり、畑仕事、枝落とし、林業、植物をいじる行為には様々な名前があるが、共通して忘れてはいけないのは後片付けだ。
雑草を抜いたあとの土はある程度整えておかないと、穴ぼこだらけでカチカチな土壌になって同じような草しか育たなくなる。それを嫌がって根ごと引き抜くのではなく、見える部分だけを草刈りするなんてこともある。また、切り落とした枝や、抜いた草をそのまま放置すれば、場所を取る上にそれらを養分に虫が湧いたり雑草が生えたりする。
木材として使用するならばそれこそ時間との闘いだ。無駄な枝を落とし丸太にして、数か月は乾かさないといけない。
「じじじ(ストラ、これは?)」
「微妙だねー。」
と思っていたのだが、精霊王の枝は大きいだけで木材には向いていなかった。複数の枝が絡み合ってでいるので、サイズこそ大きいのだが、ところどころ捻じれているし、隙間も多い。精霊王から切り離した瞬間から頑丈も弱まり、落ちた衝撃で折れ曲がっている場所も多い。頑丈で軽い素材は魅力的だが、木材として使うには難易度が高い、ドワーフたちがいれば喜々して研究しただろうど、私は専門外だ。
薬効についても、要検証といったところだけど、精霊王自身もよくわからないらしい。
それでも貴重な世界樹の枝だ。確保できる分はと思ったけど、あたり一帯を埋め尽くした素材の山は、売っても捨ててもまだ余る量がある。
「コーン(我らの力のみせどころぞ。)」
「こーん(長年、この地を管理してきた我らの技術、今こそ見せるとき。)」
素材の加工は、チベットスナギツネたちが張り切ってくれた。もともと里の管理をしていた狐さん達は、林業関係者もびっくりな見事な手際で、落ちた枝を加工し、それをハルちゃん達が一か所にまとめていく。
「ふるるるる(おお、よく燃えるねー。)」
どうにもならない端材はサンちゃんが喜々して燃やして灰にしていく。地質の影響が怖いのでこれまた一か所に集めておく。あとでジャングルに撒いてしまおう。
「「ああ、精霊王の素材が灰に――――。」
正気を取り戻したロザートさんたちが、その光景を見て気絶したりもしたけど、私は元気です。
そして、伐採された精霊王様はといえば。
『ははは、身体に力がみなぎる。みなぎるぞー。』
さっぱりした頭を光り輝かせてご機嫌になられておいでです。
『賢き子よ、すごいな、何度聞いても理解はできないが、そなたの知恵は本物だ。』
ムダ毛?もといムダ枝を伐採したことで、精霊王はあっさりと力を取り戻した。
体内の何かの巡りが良くなったのだろうか、切り落とした部分はすぐに再生をはじめサイズは以前よりもはるかに小さいが、その顔のサイズに見合ったアフロヘアになっている。
山盛りの枝をみればわかるが、幹のサイズに対して明らかに無駄枝が多すぎた。自然の木は枝に応じて幹や根っこも成長するし、余分な分は自然と枯れる。だが精霊王はその力の強さゆえに歪に成長していたのだろう。だから、根本からバッサリ私の推測は間違っていなかった。
『これならば、以前のように大地に恵みを与えることも叶うだろう。』
「ああ、今はやめてくださいね、収拾がつかなくなりますから。」
『むう、ならば周辺の魔物を追い払う程度にしておくか。』
こちらが止める間もなく、精霊王は緑色の光を発し、僅かに振動した。数秒と満たない時間でそれは収まったが、直後にドーム全体に大きな振動が広がり、そのまま散っていく。
「ストラ様、魔物気配が遠ざかっていきます。」
外のジャングルを見張っていたロザートさんが慌てて報告してくれたけど、言われずともわかる。大量の生物が精霊王から逃げるように一斉に移動した結果ジャングルの木々が揺れ、嵐のような鳴き声と足音があたり一面に響いている。
『我らが庭を好き勝手に荒らしていた魔物たちを追い払う。それすらもできずにいたが・・・実に痛快だな。』
思った以上にわんぱくだな、精霊王。
「コーン(精霊王様が力を失って幾星霜)」
「こーん(幾たび煮え湯を飲まされたことか。)」
「くるるるる(精霊の里が復活した。)」
砂漠組が何度目かわからない感動の涙を流している。苦労してたんだなー。
「で、実際のところ、調子はいかがなんです?」
素材の加工は精霊さん達に任せ、私は改めて精霊王の診断を始めた。
『うむ、まるで500年は若返ったかのように身体が軽い。それでいて、力の巡りをはっきりと感じられる。枝葉の一つ一つや、根の先まで意識を回して存在を感じられるぞ。』
「切ったところに痛みは?」
『ないな、そもそも人の子のいう痛みという感覚が私にはよくわからん。切られる前は、引っ張られるような、吸い取られるような感覚があったが、今はなくすっきりしている。』
「栄養、力の大半が、広がりすぎた枝に持ってかれてたんでしょうね?」
『わからん、ただ、枝を落としてから意識がはっきりしたのは確かだ。』
会話をしながら幹や根っこを触ってみると、以前よりさらに血強い脈動が感じられた。植物でありながら、動物の心臓のような機関が内臓されているのかもしれない。まだ断定はできないけれど、散り際の空元気、燃え尽きる直前の蝋燭なんてことではなさそうで安心する。
「で、力が戻るとどんなことができるんですか?」
1000年の砂漠が消えるなんてことはないよねー。
『うむ、しばし時間はかかるが、新たな精霊が生まれるだろうし、私の力が大地に還元され、土地の生命力が昔のように戻るだろう。』
うん?
『ラジーバといったか、この周辺は私の力が衰えたことで土地の力を保てない砂となってしまった。だが、力が戻ればおのずと。』
「砂漠に緑が戻る?」
『うーむ。そうなるかもしれないし、そうではないかもしれん。土地に力が戻るだけで、失われた種までは戻らない。そこは人の子の役目だろ?』
そうなの?
いや、待て?
「砂漠で植物が育つようになると?」
『うむ、水と栄養が戻り、豊穣の地になるだろう。』
「マジかよ。」
必死に砂ダムとか土壌改善をしていた私って・・・。
というか、あれだ。ここまで効果がでるとは思いませんでした。影響が大きすぎるんですけど。
ストラ「うっかり、ラジーバを救ってました。」
精霊王「うっかり、死にかけてました。」
外科的な治療による救済となりましたが、もはや自分が聖女なムーブをしていることを認めたくないストラさんです。




