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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ13歳 ラジーバ改革編

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154 薬師 荒ぶる

 精霊王すら治療する?

 さらっと重要なことをことなげに言うんじゃない。

『これも運命だ。最期にまた賢き子に会えた。』

 いやまて、落ち着けストラ・ハッサム、まだ慌てるような時間じゃない。事情の確認が先だ。

「どういうことですか、このくそジジイ。」

 話を聞こうじゃないか。

「こ、コーン。【やばい、怖い。)」

 そんなわけで、事情を聴きだすと、何百年も前から精霊王の身体である樹木は成長の限界を迎え、以後は少しずつ力が失われていったそうだ。

『まずは新しい精霊が生まれなくなった。そして、私の恵みがなくなった大地は干上がり、砂漠となった。』

 それ、何百年じゃきかなくない?ラジーバは1000年前から砂漠って伝説ぞ。

『最初は精霊たちや人の子たちも私の衰退を止めようとした。しかし、原因がついぞつかめなず、私の力はゆるやかに衰えていった。だから私は、子どもたちにこの地を去る様に諭した。それで精霊たちは世界中に散っていった。かつては精霊の生まれる地として栄えたこの場所も今ではわずかに名残を残すばかりで、私の力も当時の幾分もない。』

「そんな歴史が。」

「コーン(我らは父の最後を見届けるためにこの地に残りました。)」

「くるるるる(われらは砂漠を住処とし、たまに帰ってます。)」

 なんというか年老いて田舎に引き込む大旦那みたいなことしてんなー。

『人の子に対して、この力が発現してしまうのも衰弱の影響だろう。力の制御が難しく垂れ流しになっているのだろう。最近は寝ていることも多くてな、こうして長く話すのも久しぶりだ。』

「くるるるる(もしかして、ここに来るまで魔物が騒がしかったのも?)」

「コーン(精霊王の加護が薄れて魔物が活性化しているのではないかと。)」

 老衰?

 話を聞く限り、真っ先にそんな疑問が浮かぶ。植物はいつまでも生きるものと思われがちだが、寿命がある。例えば桜の木の寿命は60年ほどで、戦後に各地の小学校に植えられた全国の桜の木が激減したなんてこともあった。その前後は用務員さんが必死になって枝落としをしたり、悪戯に枝を折る馬鹿者を懲らしめたりと何かと忙しそうだった。

 おっと、行けない、今は前世の苦い思い出に浸っている場合ではない・・・。

「衰弱の原因はわからないんですか?」

 ワタシごとき小娘がと思わなくもない。だが、薬師にとって植物はメシのタネ、衰弱し、消えると言うならばその原因には興味がある。

『ふむ、人の信仰が減ったとか、世界の寿命、魔物の毒など様々な色々なことが言われいてる。だが、長き時を生き過ぎて、己の身体のこともよくわからなくなっているんだ。』

 まあたしかに、どこぞの島の杉の木が子供に見えるくらいご立派なんだけど。

『そうだ、私の枝や木を持っていくといい。我ら精霊にとってはただのモノだが、人間にとっては貴重な品なんだろう。』

 まあ、そうなんだけど。しゃべる木の枝を折るのはちょっと・・・。

「うん、ちなみになんだけど、木のや葉っぱは自然と落ちたり、折れたりします?」

『ないな、我は木であると同時に精霊だ。自然には朽ちず、許可を与えた人の子が何度か切り落とすことはあったが、それ以外では魔物の攻撃でも傷一つつかぬ。』

 痛覚はないってことだろう。となると精霊王は、自然のまま大きくなったわけだ。


 あれ?もしかして?


「ちょっと失礼しますよ。」

 まさか、1000年以上も時間があったのに、思いつかなかった?

『構わん。どのみち朽ちる身であるし、久しぶりの客人だ。多少乱暴にしても構わんよ、賢き子よ。」

「ああーはいはい。」

 許可が取れたので遠慮なくべたべたと木の幹や根っこを観察していく。樹齢1000年越えの木、それを知ったうえで観察すると、改めてその存在感に圧倒される。

 大きく膨らんだ根っこは鉄のようにカチカチでありながら脈動している。というか、どこからが幹でどこからが根っこ分からないぐらい大きい。そのサイズ感を無視すれば、幹の太さに見合わない細い枝が無数に生えて、無精ひげのようにみも見える。

 実家の木とか何年も放置したら、こんな感じになってたなあ。

 コンコン、こーん。

 乱暴にしてもいいということで、船から棒きれを持ってきて木の幹を叩いて回ると、ところどころ密度が違う。何なら空洞があるんじゃないだろうかと思って樹皮を掴んだらベロンとはがれた。

「おお、これは。」

 はがれた樹皮そのものはトタンや鉄板のように固いのに、ある程度のラインでべリべりはがれる。うん、これ知ってる。古い木の皮がはがれるやつだ。

「たしか、器官脱離ってやつだっけ?」

 植物は、樹皮は死んだ細胞が固くなったものだ。落ち葉も役目を終えて朽ちた葉っぱだ。そういったものは一定の期間を経て植物からはがれる。動物で言えば髪や爪のようなものだ。これがうまくできていないと、キノコや他の植物が入り込んで栄養を吸ってしまったり、そこから歪んで木が変な形に成長してしまったりするらしい。

「キノコや、カビは、さすがにないか。」

 表面に浮いている苔らしきものをとって確認するけれど、内部まで根を張っている様子はない。あくまで朽ちた表面に生えているだけだ。

「クマ吉、ちょっと上までお願い。」

 さらに確認するために、クマ吉を読んでその背中にしがみ付いて巨木を登っていく。

 高さにして20メートル。縄文杉と呼ばれる日本最大樹木よりは小さい木でありながら、そこから伸びている枝が異様に多く太かった。

『ははは、私の上に誰かが載るなんて、いつ以来だろうか?昔は子供たちがよく木の上で遊んでいたものだ。』

 木の上といってもあまりに鬱蒼としているせいで、樹上の様子はわからない。びっしりと伸びた枝は互いに絡み合い、緑の天井となっている。これがこのドーム全体に広がっているということは恐ろしいな。

 人間でいえば、何かめっちゃ盛ってる感じ?あれで首とか肩を痛めった人もいるらしいんだよねー。

 って、まさかねー。そんなわけないか。

「精霊王、不調を感じた時って、もうこんな感じにご立派だったの?」

『どうだったかな、ただ、成長が止まった時から大きさはあまり変わってないはずだ。』

 それじゃね?いや、絶対それだろ。

「よし、クマ吉、伐採だ。頭の上の木をすべて切り落としてしまえ。」

「グルるる(さすがに不味くない?)」

「大丈夫、だめでもともと、というか、なんか見てたらイライラしてきた。」

 なんというか、手入れのされていない木って見ているようで、気持ち悪いのだ。林業が盛んな山にある木ってさあ、枝落としが徹底しているから、めっちゃきれいに木が並んでるじゃないですか、私、あれが好きだ。素人が適当に切ってぼさぼさな木とか最悪だと思う。届くところを適当に切るから、木が歪に育つだんだよ。大きく長生きさせるにはそれなりのコツがいるってのに、適当に切ってどやる。そして落とした枝は放置ってのがさあ。

『構いません、痛覚はありませんし、その程度で私の寿命は大して変わらないでしょう。根元から切るのは怖いのでやめてほしいですが。」

「そっちは様子見で。」

 必要があればまるごと切り捨てる。、いや根っこ付近のケアーも必要になってくるだろうな。

「とりあえず、この辺だ、手伝うから、根本からずっぱりいってみよう。」

「ぐるるるる(知らないよ。)」

 手近に見えた枝の一本を指さすとクマ吉は不満そうに爪を当てる。枝といっても根本付近のそれは、一般的な木の幹ぐらい不徳、ほかの枝とからんでいて鬱蒼としている。

「ぐるるるる(いくよ。)」

 クマ吉の合図とともに私も風の刃を発生させて枝を切りつける。鉄のごとき硬さの枝にはわずかな傷をつけることしかできないが、そこをクマ吉の斬撃が走り半ばほどまで切り裂かれる。

「ぐるるる(一発で切れなかった。悔しい。)」

「まあまあ、ハッサムの山木のようにはいかないって。」

 地味に落ち込むクマ吉をなだめつつ、爪と魔法で切りつけること数度、枝の付け根はずたずたに引き裂かれ枝は完全に切り離された。

「落ちるぞー。」

 支えがなくなり、太く長い枝が、ぶらんと垂れる。そのサイズと勢いがすさまじく精霊王が傾きかけたので慌てて反対側の枝も切り落としてバランスを取る。

「ジジジ「解体する?)」

「お願い、燃やすにはちょっともったいないから、材木向けで。」

「じじじ(了解.」、」

 クマ吉にしがみ付きながら次々に枝を落とし、落とした枝はハチさんたちに枝落としをしてもらう。サイズ感が麻痺しそうな光景だけど、伐採から木材への加工はハッサム村でもやっていたことなので、気にせず、次つぎと落としていく。

「コーン(やめてください。)」

「こーん(なんてことを。)」

 チベットスナキツネたちが広義の声をあげるが、精霊王が制する。

『いずれ朽ちる身、なれば、好みを大地の糧に。』

 なんか覚悟決まった感じだったので、説明はせずに枝を次々に切り落としていく。

「なんか楽しくなってきた。」

「ぐるるる(次は一発で折る)」

 断っておくが、精霊王を木材に加工しようとしているわけじゃない。これは延命のための処置だ。植木や花って枯れたり痛んだ場所をいつまでも残しておくと痛むじゃないですか。まっすぐ伸ばすために余計な枝葉を落とすのは割と大事だ。庭のポプラの木とかなんて、ちゃんと処理しないと縦横無尽に生えて大変なことになるんだ。定期的に枝をおとしていれば、高く立派な木になるけど、数か月後放置しただけでフェンスや金網にからんで成長して手がつけられなくなり、最後はバランスを崩して倒木してしまう。それを園芸屋さんに頼むと、諭吉が10人単位で吹っ飛ぶのだ。

『むう、なんだかさっぱりして身体が軽い。』

 半分ぐらい枝を落とすと、不意に精霊王の声の調子が変わった。先ほどまでの穏やかながら弱弱しかった声に、力と高さが加わった気がする。

「クマ吉、印をつけた枝が全部落としちゃって。」

「ぐるるるる『了解)」

 めぼしい枝に印をつけて、枝落としは任せて、口笛を吹いてサンちゃんを呼ぶ。

「ふるるるる(出番か、葉でも燃やすぜ。)」

「ちょっとまってね、その前に砂上船までお願い。」

 と言いながら、その足を掴み運んでもらう。梟なので私を乗せて飛ぶことはできないけどゆっくりとかックすることはできる。

「ふるるる(ってことは、製薬か?)」

「そうだよ、薬というより傷薬だけど。」

 砂上船につくや、調剤道具の一つである大鍋を用意して、魔法で水を張る。

「ふるるるる(火加減は?)」

「最初は沸騰、あとはお風呂ぐらいで。」

 サンちゃんに加熱してもらい水を沸騰させ、そこに蜜蝋をポイポイ放り込んで煮溶かす。どろっとしたそれをかき混ぜながらハチミツと精霊エキスを混ぜ込んでいく。水分が減ってきたら椿油をドバドバと流し込んでさらに混ぜる。ほんとは油に蜜蝋を混ぜた方がいいのだが、ハチミツや精霊エキスを混ぜるためには水で一度に溶かす必要がある。

 煮込むこと数十分。特性の蜜蝋ワックスが完成したころにはクマ吉によって精霊王の枝の大半は落とされて、枯れ木よりも憐れな状態になっていた。

「よし、サンちゃん鍋をお願い。かかると面倒だから気を付けてね。」

「ふるるるる(木の上か?)」

「そうだよ。」

 そういって、精霊王へと近づくけれど、辺り一面におちた枝の所為で中々に歩きにくい。

「くるるるる(お乗りください、運びますよ。)」

 と思っていたら白熊さんがきて、あっさり木の上へと運んでくれた。

『賢き子よ、何をしたんだ。かつてないほど、身体が軽いんだけど。」

「ああ、ちょっとまってください、大丈夫だと思うんですけど、念のためにね。」

 今は時間が惜しい。

 木々の成長のために余計な枝葉を落とすのが大事だ。だが、タイミングや切り方、アフタケア―はとても大事だ。切りすぎてしまえば木の寿命を縮めてしまうし、切り方を間違えるとバランスを崩して木が痛む。何より、切った場所は傷口である、そこから雑菌などが入れば腐る。その前に傷口をケアーしないといけない。庭木程度なら必要ないけど、この規模の伐採となれば植物癒合剤で断面をケアーしないとすぐに腐る。

 薬師修行の一環で、爺ちゃんから木の扱いについて学んでおいてよかった。

「芸は身を助けるってやつだねー。」

 これでうまくいくかはわからない。けれどなんか上手くいく気がする。

 そんなのんきな気持ちで、私は切った断面に刷毛でワックスを塗っていく。これが一番の重労働だが、他に任せることはできない。

 こういうところは、我ながらそんな性分だと思う。


ストラ「放置した庭木ってこうなるんだよねー。」

精霊王「ガーデニング感覚で治療されました。」

 果たして精霊王の運命は?

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