153 精霊王は規格外でした。
精霊王様とご対面?
精霊王、あるいは世界樹と呼ばれる存在は、伝説だ。その樹になる実からは精霊たちが生まれ、葉っぱは朽ちた一枚ですら1年分の肥料になるほど栄養がある
『よく来たねー、賢き子よ。』
その実態は喋る樹木だ。直系20メートルはありそうな巨大な幹、そこに浮かんだのはお爺さんともおばあさんともとれる穏やかな顔。眼球も口もすべて木製なのに、どこか人間味があり眉毛と髭の代わりに苔とツタがびっしりと伸びている。
「こんにちは、精霊王。会えて光栄だわ。」
その巨体を前で怯まずにいられるのは、幼い時から精霊さんたちと仲良く過ごしてきたからだろう。圧倒される存在感と強さを持ちながら、魔物から感じる問答無用の生理的欲求や悪意と言ったもの感じない。なんなら、激おこの両親の方が怖い。会話より先にげんこつが落ちてくる上に、大体のことをごり押しで解決するノウキン思考なんだよね、あの人。
『大したもてなしもできないが歓迎しよう。』
それにしてもここは、ハッサム村と似ている。草木の緑がに多く魔力が濃いからか匂いが似ている。
土にまみれで過ごすから、気を抜けばいつだって泥だらけになるし、住人もそれを気にしない。だから作った大浴場のおかげ衛生面は問題ないけど、根本的に田舎なので緑の匂いが濃い村だった。
あとは、酒と隅の匂い。父ちゃんを含めて吞兵衛ばかりだから、私の作った酒を狙ってそこら中を探すのだから、困ったものだ。まあ、酒を対価に無茶ブリもしていたから、どっちもどっちだけど。
酒といえば、前世で飲み損ねた地酒セットはどうなったんだろう。忙しさの反動からお取り寄せとか物産展で買い込んだ酒のコレクション。明日も早いからと酒を楽しむ時間がなく、正月休みになったらまとめて飲むぞと思っていたっけ?
いや、正月は、一月の研修に向けての資料作りと採点で出勤予定だったっけ?さんざん文句を言った結果、留守番電話や、タイムカードが導入されて数年、月の残業時間が多すぎると社長に怒られたのちに、先輩から、タイムカードは定時で押しておくだよってキチガイなアドバイスをもらって以来、コツコツと労働時間を記録していたデーターを労基に持っていこうと何度も思った。
あとは、正月明けの行事の準備か、校長と地域のジジババのこだわりで行われる餅つき大会、事前準備として七輪とかウスを倉庫からだして整備しておくのも自分たちの仕事だ。
そうなると、明日も始発で・・・・。
「はっ、いかんいかん。」
パンパンとほほを叩き、意識を保つ。ここは、故郷じゃないし、私はストラ・ハッサム。今は私は1人だ。笑顔でサビ残しているのに感謝されず無能扱いする教育現場なんてものは、もうないんだ。やりたいことをやって、好きに旅行をする。それが私だ。
『ふむ、心の強さは本物のようだ、賢き子よ。悪気はないんだが、すまないね。私の力は人の身には毒の様なものらしい。』
「まあ、この居心地の良さは、あれですねー。」
近くで呆然としているロザートさんとジレンさんを横目に私は、気合いを入れ直す。すると強い風邪薬を飲んだあとのような眠気はすぐに収まり、なつかしくも忌まわしい記憶もすぐに消えた。
ある種のバフ効果? それとも精神攻撃なんだろうか。あまりのの心地よさで意識が飛びかけた。
「くるるる(流石です、精霊王の癒しを得て正気を保った人間は初めてです。)」
「コーン(流石です)」
おいこら、そういうことは先に言えや、そういうとこだぞ。
「じじじ(何があったの?)」
「うーん、ホームシックにかかった感じ?ハッサム村が恋しくなった。」
「ふるるるう(それほど離れてないだろ?)」
「だよねー。」
状況が把握できていない我が家の精霊さん達の様子を見る限り、効果があるのは人間だけなんだろうか?何とも言えない心地よさ、実家のような安心感、そこから連想ゲームのように思考が飲まれかけた。一週間の砂漠の旅の疲れがどこかへ消えて、意識ははっきりしているから、回復はしてるっぽいけど。
『私の癒しの力は万物を癒す。だが、精霊以外の心ある存在はその心地よさから眠ってしまうらしい。』
「らしいって、そんな適当な。」
『私も大昔に人の子から聞いて知ったことでな。あと、そこの2人も一度起こしてあげた方がいい。我らが起こしてもいいが、仲間がいるなら、仲間が起こしたほうがいい。』
「まじ、ふざけんな、この害獣。」
そういうことは、先に言え。私は慌ててロザートさんたちのもとへと走り、きつけ薬を飲ませてたたき起こす。
「はっ、ここは。私は竜と対面したはず。」
「フカフカベット、手足を広げても落ちないベットが。」
うん、ベットの方はどうにかしてあげよう。
起こされて正気を取り戻した二人だけど、思った以上にダメージがあったらしく、砂上船に戻って休んでもらった。ここまで来るのもハードな道のりだったからしょうがないね。
『すまないねー、次からは効果はないらしいから、2人も会話ができるだろう。』
「コーン(われらも久しぶりの客人で失念しておりました。)」
精霊王とチベットスナギツネたちからの謝罪を受け入れ改めて対峙する。やっぱりでかいな、精霊王。よくよく観察すると複数の木が絡み合ってグニャグニャな巨木で根っこだけもクマ吉がくつろげるほど大きい。まあ、その根っこもほっそ枝が生えていてチクチクしているので居心地は悪そうだ。
「それって制御とかできないんですか?」
『制御?ウーム考えたことはないな。私はここに在るだけで、勝手に生えてくるんだ。人の子もめったにここには来ないからね。』
この大雑把具合、出会ったばかりの女王バチ様を彷彿させる。ハルちゃんの話では、精霊王から生まれた高位精霊ってことだけど、親馬鹿で快適さの追求に余念のない主婦みたいな精霊なので、私やハッサム村の子供たちのことをネコかわいがりしている姿しか思い出せないなあ。
『しかし、このタイミングで客人であり、それも賢き子だというのだから、運命を感じてしまうな。』
うん?
「コーン(王よ、それは。)」
「くるるるる(やはり、時間の問題ですか。)」
なんか流れ変わった。
『我が子らよ、命あるものなら終わりはある。私の場合はそれが他よりも長いだけだ。それにお前たちも育ったし、私の役目も終わりそうだよ。』」
ううん?
「ぐるるるる(パパが言っていたことは本当だったのか。)」
「ぴゅううう(致し方なし。必定)」
なんか、うちの子たちまで不穏なことを言い出しているんだけど・・・。
「ちょっと、ちょって待って聞きたくない。聞きたくないぞ。」
これ絶対、面倒なことになるやつだ。今すぐ回れ右して帰ろう。今ならまだ、帰れるから。余計なお土産はいらないから。
『賢き子よ。その約定に従い私の最後の言葉を伝えて欲しい。私の命はもうすぐ尽きる。これより精霊は、あらたな。』
「やめてえええええ。」
特急呪物な厄介ごとをさらっと押し付けないでください。まじで勘弁してください。
ストラ「顔だけだして、身体地面に埋まってることはない?」
精霊王『なにそれ、怖い。』




