151 ストラ 魔境にテンションが上がる。
新ステージに突入。
ラジーバの砂漠は基本的に砂ばかりだけど、ところどころに岩山があり、王国との境界線は、小高い丘になっていた。聞けば海岸線はアクアラーズとその周辺以外は高い岩山に囲まれていて入港できる場所はないらしい。
「くるるる(まもなくつきます。)」
そう言って白熊さんが案内した場所も砂漠の果ての岩山だった。爆速で進んだとはいえ、一週間で大陸の果てまでたどり着いたのだろうか?
「くるるるる(ここを超えるとまた砂漠があります。大陸の果てはもっと先ですねー。)」
「へえ、そうなんだ。」
白熊の言葉を通訳しつつ、ロザートさん達に確認するが首を振られた。
「アクアラーズより西は、人跡未踏の砂漠です。我々も砂上船がなければあの半分も進めなかったでしょう。」
「進めたとしても帰れないから、実際はその半分もいけない。」
とのことらしい。
実際、それまでの旅路でわずかに見られた人工物の気配がない。気を抜くとマジで方向がわからなくなってしまうだろう。ちなみになんか不思議な力が働いているのコンパスも利かない。白熊の案内がなければ星や太陽の動きを参考にするしかないだろうけど、流石にそんなスキルもない。
「ふふふ、これはすごい。」
不謹慎と分かっていても、胸が高鳴ってしまった。
前世では忙しすぎて旅行なんてまともにできなかったし、今世のハッサム村や王都もファンタージで素敵な場所ではあるが、生活の拠点であることには変わりない。登山家や世界遺産を旅する人達はきっとこんな気持ちだったんだろう。
そんなドキドキした気持ちのまま砂上船を走らせると岩山のふもとへはすぐにたどり着いた。
「くるるるる(ここからは迷いやすいです、離れないように。)」
白熊さん先導した先は、岩山の間にある道だった。折り重なるように並んだ岩山のおかげで遠目には気づけなったが、近づくと砂上船が通れるほどの道がそこにはあった。風と時間によって削られた岩肌はツルツルとしていて、いかにも精霊たちの通り道といったろところだ。
「くるるる(ここを抜ければ、すぐです。)」
実際に通り道を抜けるのには1時間もかからなかった。細い谷底の道、そこを抜けた先は、うっそうとしたジャングルだった。
「これは、オアシス?それにしては。」
ジャングルと思ったのは、日本の森林のようにまっすぐな木が規則正しく立っていないからだ。斜めに生えたり、曲がって生えた木にはツタが絡まり、足元や倒木は苔のようなもでびっしりと覆われ、シダっぽい下草がたくさん生えている。まるで夢の国のクルーズの森のような光景だが、砂漠の中でこれだけの緑がある場所はそれだけで驚きだ。耳を澄ませば鳥や獣らしき鳴き声に混じって水の流れる音も聞こえる。探したら考古学者が喜びそうな遺跡がありそう。
「くるるるる(不思議と緑が多いんですよ。ココ。)」
のしのしと草をかき分けて進む白熊に先導されながら、ジャングルを進む。あちこち引っかかりそうだけど、クマ吉のパワーなら問題なく砂上船も進んでいく。
「むっ、ストラ様、お気をつけ下さい。何かが近づいています。」
「えっ?」
景色に夢中になっているとロザートさんに肩を掴まれ、船室の中へと誘導される。確かに何かの羽音のようなものがだんだんと大きくなっている。
「じじじ(集合、防御態勢。)」
「ジジジ(了解)」
ハルちゃんが兵隊ハチに指示をだし、周囲を警戒していた兵隊ハチも砂上船に集まる。
「くるるるる(珍しい、普段は寄ってこないのですが。)」
白熊さんも驚いた様子で足を止める。どうやら彼女にとってもイレギュラーなことらしい。
「ブーーーン。」
全員が警戒する中、現れたのは大きなトンボだった。
「な、ドラゴンフライ。まさかラジーバ―にもいたのか。」
「結構な数。」
棒のような細長い体に薄くて長い4枚の羽根。ビー玉のような無機質な瞳は複眼になっており、私達の姿がいくつも浮かんでいる。うん、これはトンボですわ。
ただしそのサイズは2メートル以上。ブーン気の抜けそうな鳴き声の割に口元はガチャガチャしていていかにも肉食ですといったお顔をされている。あと、なんか数が多い、30匹はいる?
「じじじ(しゃらくさい。)」
「ジジ(落ちろ、カトンボ。)」
といっても、精霊であるハチさん達に叶うわけがなく、風の刃で次々と打ち落とされていく。数の多さゆえに何匹は抜けてくるけど。
「せい。」
船に近づく傍からロザートさんが打ち落としていく。特訓で手先の使い方ずいぶんと上手になったのか、高速移動するトンボたちが相手でも危なげなく立ち回っている。
「ドラゴンフライは、硬いし速い、その頑丈な顎から武器破壊とも言われているんだけど。」
私の護衛として傍に控えていたジレンさんはその様子に感心しつつ呆れていた。そういうので、甲板に落ちた欠片を拾ってみるけど、羽はともかく、胴体の部分は鉄かと思うぐらい硬かった。飛び交う鉄球のようなものか・・・。
「ふるるるる(つまらん。)」
「ぴゅううう(スヤー。)」
ちなみにサンちゃんとレッテは休憩中。こんな木が生い茂った場所で火は危ないからね。まあ、2人が出るまでもなく、トンボの群れは壊滅した。
だが、ジャングルは割りとスリリングだった。
「うきーーー。」
王国では数年前に絶滅したグレイエイプの群れは、数こそ少ないけど恐れを知らずに私達に突撃し、ロザートさんとジレンさんが見事なコンビネーションで危なげなく処理した。
「ぐるわーーー。」
さらにはボス個体と呼ばれるビックグレイエイプなんて珍しい個体も混じっていたけど、クマ吉と白熊の前では、大人と子供ぐらいの体格差でこちらを見るなり逃げ出した。
「じじじ(逃がさないけどね。)。」
その背中には、ハルちゃんたちが群がり、ずたずたに引き裂いてました。ほんとサルには容赦がない。
あと、驚いたのはでっかいカブトムシだ。クマ吉ばりの巨体で苔むした甲殻をまとったカブトムシを見たときは、恐怖より感動が強かった。女子だけど、昆虫のフォルムは嫌いじゃない。長生きしている感じもあってなかなかの強者な雰囲気があったけど。
「ふん。」
ジレンさんがその立派な角を掴んで背負い投げ、一本。大した活躍もなく叩き潰されました。
「この技、便利。使いどころあんまりないけど。」
体幹訓練だけではあれだったので、ジレンさんには柔道の基本も教えてみました。前世で見知った程度の浅い知識だったけど、全身を無理なく使って大きなものを動かす理を理解したジレンさんは、柔道の技の仕組みを理解して、この結果である。
「ああ、もったいない。」
「たしかにこれほど大きなキングビートルは初めて見ます。甲殻の硬さはもちろんですが、ビートル系は怪力で自分の何倍もの獲物だって倒すことで有名なのですが。」
そういってロザートさんが手で示したサイズは小型犬サイズ。それでも虫嫌いな子が見たら悲鳴をあげそうなサイズだけど、群れの長が長年生きると巨大化するらしい。ただ、巨大化する前の方が甲殻が頑丈で、力こそ強いけど、素材としての旨味はないらしい。
「どれもラジーバではほとんど見られない魔物です。スベンや王国の山中でもたまに見かける魔物だったかと。」
「猿に関しては、王国では絶滅したっぽいですけどねー。」
大発生した時に、囲い込んで絶滅させたのも今となってはいい思い出?いや私は何もしてないけど。
「くるるるる(これだけ魔物が荒れているのも珍しいです。)」
なにやら白熊さんが不穏な事を言っているけど、人跡未踏の地に入り込んだ結果、原生生物に襲われるのは覚悟の上だ。ある程度実力を示せばおのずと静かになるだろうから、それまでの我慢だ。
「「お任せください。」」
頼れる護衛と愉快な精霊さん達。絶対安全な状況なおかげで、私はまるでアトラクションにでも乗っているかのように優雅にジャングルを進んでいくのだった。
ストラ「みんなめっちゃ強い。」
ロザート「拳を鍛えておいてよかった。」
ジレン「鍛えてなかったら、ばててた。」
「「さすがストラ様。」」
なんだかんだ、壁を突破した護衛2人の忠誠度が爆上がりしているけど、今更である。




