150 薬師、エリート獣人を鍛える。
船旅は訓練とともに
ロザードさんとジレンさんが私に教えを請うて来た事は何度かある。
「彼らを鍛えたその術式を我らにも。」
「もっと上に行くために。」
大真面目に訴える2人の他にも、私に訓練をつけて欲しいという獣人はいた。しかし、その多くは、自分たちにも鉄の武具を融通してい欲しいというものや、秘薬を授けてほしいなどで、サラさん達が強くなった本質には気づいていなかった。
「彼らの才覚を見出したのはストラ様の眼力と適切な指導によるものでしょ?武器1つでどうにかなる力量ではありませんよ、あれは。」
そんな中で、ロザードさんはサラさん達が成し遂げた訓練に注目し、正しく教えを請いて来た。その時点で見る目はあったけど、だからこそ、私が教えられることなんてなかったのは残念だった・
魔力を伴った体の使い方は、獣人ならばおのずと使いこなしているし、2人は歴戦の猛者だ。ハッサム流ブートキャンプを体験しても余裕でクリアしていたし。
「うーん、思った以上に傷んでますね、これ。」
「未熟ゆえ、情けないです。」
消化液による炎症と打撃によるダメージで思った以上にボロボロになっているロザードさんの手に軟膏を塗りつけながら、私は改めて自分の考えの正しさを実感していた。
「ロザートさんって、打ち込み稽古とかってしないんですか?」
「打ち込み稽古ですか?」
「ええっと石とか藁を叩いて拳とか皮膚を鍛えるんですけど。」
「いえ、我々竜人はもとより獣人は身体が頑丈ですので、そのようなことはしたことがないです。」
簡単な言葉で内容を理解し、必要ないと断じる。その証拠というわけじゃないけど軟膏を塗った傍から新しい鱗っぽいものが生えて手のケガが治りつつある。ファンタジーすぎる光景に思わず経過を観察してしまったが、その姿を見ていてロザートさんの課題は見えた。
「なら、鍛えてみる価値はありそうですね。」
「それは、どのように。」
「ただ、めっちゃつらいですよ。」
「構いません、いかなる苦行も乗り越えて見せます。」
言ったな。私なら絶対避ける訓練を教えてしんぜよう。
用意するのは荷物をくるんでいた筵と、ワームの皮。くるりと丸めて卵型にした筵をワームの皮で包む人の上半身ほどのサイズのそれを棒に刺して甲板に立てる。
「とりあえず、コレに貫手をさしてみて。」
「はあ。」
要領を得ていないようなので、お手本で手の形をつくり指先でトントンとたたく。
「なるほど、手刀による突ですね。やってみます。」
場所を入れ替えて、ロザートさんが勢いよく突き刺すと、ワームの皮に指の付け根あたりまで突き刺さる。ただ、ちょっと痛そうだ。
「これは、思った以上に固いですね。」
「色々絡むからねー。」
ワームの皮は弾力に飛んでいるし、筵の藁は固めると意外と堅い。そこに指先を突っ込めば、当然痛い。下手したら指が折れる
「これをリズミカルにとりあえず50回言ってみようか。」
「えっ。」
「言ったじゃないですか、めっちゃつらいって。まあ、痛むようなら止めてくださいね。すぐに治療しますから。」
これは空手の訓練法だ。最初や水や砂などで初めて、上級者は藁束に貫手を繰り返して、指先の筋肉を鍛えつつ、身体の使い方をマスターするという。ソースは前世で見たテレビ番組と漫画だ。
「こ、これは。」
「一段レベルさげます?」
ロザードさんならいけるかと、知る限りで一番ハードなトレーニングを用意したけど、水や砂から始めたほうが良かったかもしれない。
「い、いいえ。成し遂げて見せます。」
そう言ってロザードさんは連続して貫手をするが、4回ほど繰り返すと痛みで動きが止まった。みれば爪がはがれている。
「ハイストップ、薬を縫って休んでくださいねー。」
「不覚。」
ドクターストップをかけて、薬を塗る。薬の効果と獣人の回復力ですぐに回復するだろうからあとはこれの繰り返しだ。
なおいきなりこの訓練は危険なので、経験のない人は指たて伏せが余裕でできるまで鍛えてからにしましょう。素人がおふざけでやると、マジで怪我します。
「い、痛い。」
爪に絡む藁とゴム、その摩擦と抵抗は些細なもので、怪我をするのは自分自身の力でしかない。耐えるには指先の皮と筋肉を硬く丈夫なものにするしかない。
この世界で有効かは知らないけど、前世の達人はスイカやガラスをうちぬいても無傷だったのでがんばってもらおう。
で、今度はジレンさんだけど、彼女の課題はわかりやすかった。
「ぐー、疲れる。」
「はーい、動かない。上半身のバランスで体勢を維持してくださいねー。」
ロザードさんは手の痛みに悶えている横で、ジレンさんは腕を組んだ仁王立ちしながらフラフラと身体を揺らしていた。
「つらい。」
「そういう訓練ですから。」
ワームを無理やり抑え込んだ結果、ジレンさんは肩を痛めていた。それは彼女が腕力だけで抑え込もうとした結果だ。
「ジレンさんって、自分より大きな人と戦った経験ないんですよね。」
「うん、私は一族でも一番大きく、強い。」
治療しながら聞き取りをしてわかったことだけど、彼女の身体能力は特別優れている。とくに二メートル越えの身長と腕力に関しては獣人の中でも負け知らずとなる。一方で、彼女は地味に姿勢が悪い。振り下ろすような攻撃やつかみ攻撃、長い脚を駆使したスタンピング攻撃は確かに有利だけど、どうしても前屈みになることが多く、わりと付け入る隙が多い。
圧倒的な筋力と手足の長さというアドバンテージのおかげで、普段は気にならないけど、蹴り技は苦手で、先ほどのワーム戦のようにとっさに動くときは、腕や足ばかりに負担がかかることがあるらしい。
なので、彼女に伝えた特訓法は、姿勢の矯正だ。甲板の上にタルを用意し、その上に載せた板の上に立ち、落ちないようにバランスをとる。要はバランスボールみたいなものだが、身長も高く、こういったことをしてこなかった彼女には、かなり効果的であり、そして難しいものだった。今は砂上船の上なので、難易度はかなり高い。お手本でやった私は一分持たなかったよ。
「腕使いたい。」
「腕は治療中ですから、使っちゃだめですよ。関節とか筋はしっかり治さないと癖になっちゃいますから。」
「ぐう。」
無理に無理を重ねた結果、彼女の肩は脱臼癖がついているぽかった。その治療も兼ねて、徹底に治すために、ワームの皮で固定した上で、訓練中は腕を使うのは禁止にしてみました。できることなら目隠しをして効果をあげたいけど、転倒のおそれがあるので今は我慢だ。
「なんか、背中が痛く。」
「普段使ってない筋肉を使ってる証拠ですからがんばってください。」
痛みに対してはそれっぽく言ってみる。
正直に言うと2人の訓練に確証はない。前世で読んでいたバトル漫画の修行法や、付き合いで通っていたジムで聞いたアレコレ。今世で実践して効果があると思った訓練法と栄養バランスのとれた食事。これが彼女たちにどんな効果をもたらすか。楽しみである。
そんな風に甲板でトレーニングをしながら、時々止まって柱の目印を立てる。襲ってくる魔物たちは精霊さん達が返り討ちにして、素材や食材として確保する。メンバーがメンバーなだけに久しぶりにスポコンな旅になってしまったけど、これはこれで楽しいのでよし。
ロザート「竜人の鱗って丈夫なはずなんですけど・・・。」
ジレン「慣れると楽しい。」
貫手の訓練は、砂場でやったことがるけど、マジで危険ですので真似しないようにお願いします。




