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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ13歳 ラジーバ 留学編

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144 薬師、蟹を優先する。

 今更ながら世界の歴史と見せかけて、カニ三昧です。

 そういえば、異世界転生、海辺の街といえば、船乗りの悩みを解決するなんてエピソードがある。

 長期間の船上生活によりビタミンが不足することで、皮下出血やめまいなどの症状を生み出す謎の病を解決するために、新鮮な果物や野菜の大切さを説いたり、ザワークラウトやレモンなどのビタミンを補給できる料理や食材を提供するというエピソードだ。

 まあ、人類史でも大きなブレイクスルーではあるし、海賊王を目指す漫画の影響も大きいだろう。

 薬師ならば、その対策なり問題解決に動くべきでは?そう思う人もいるかもしれないが。

「壊血病、ああ、傷が治りにくくなるやつか。」

「そうなったら、レモンを丸カジリだな。」

「薬もあるし、アメを舐めるのもいいぞ。」

 私が言うまでもなく、海の男達は解決法を見つけていた。

「嬢ちゃんもなめてみるか?酸っぱいがうまいぞ。」

 対策としては、レモンやオレンジなどの柑橘系やその加工品が船の貨物として推奨されていた。聞けば、大陸の海岸や周囲の離島には、補給用の果樹園がいくつかあり、それを管理する帆船ギルドなる組織もあるらしい。帆船ギルドは、各船がどこを航海しているかを記録し、海難事故や遭難などの際は各国に協力を呼び掛ける。一方で、軍属はギルドには所属せず独自に動き、ギルドに所属せずに違法な漁業や略奪などを行う海賊なんてものもいるらしい。

「海の上では争わないし、困ったら助け合う。そんな風になるまでは色々あったらしいけどな。」

 揚げ物の礼にと世間話をしていたら、割と面白い歴史が聞けた。


 もともとアクアラーズは、小さな漁村であり、周辺に海辺で獲れる海産物や塩田などで生計を立てていたそうだ。そこに帝国やスベンなどから大型の帆船が行き来するようになり、今のような発展を遂げた。

 長距離航海の技術やその健康維持などの方法は帝国から、海辺の気候を生かした農業や漁業についてはスベンからもたらされてたという。

 彼らが求めたのは、航海の補給地と人手。未発達な地域の人間を低賃金で雇う。というのは建前で実際は、体力の割に騙されやすい獣人たちを奴隷として求めたのだ。帆船の大きさと技術の差で脅して支配下に置き、住人を船での奴隷とする。当初はそんな悪徳な行為が横行していたらしい。

 当初はその威容に驚いていた獣人たちであったが、砂漠という地の利や獣人の対応力によってすぐにそれを克服し、各国との戦争になった。

 その戦争において、内陸国だった王国はラジーバを支援し、スベンはトップが切り替わり、三国同盟が強固になった。

 そんなことがあったのが100年ほど前、初代ハッサム様が大暴れしていた時期だというのだから、面白い。会ったことのない曾祖母と曾祖父が爵位をもらったきっかけがこの街にはあったのだ。

、ハッサムを継ぐ者として、その歴史はいずれ勉強してもいいかもしれない。

 まあ、今はそんなことよりも蟹だ。海辺と言ったら、海老。カニ、貝、昆布とマグロにカツオだ。アジの干物とかサバの煮つけもいいぞ。

「カニか、カニねー。」

「あれ、食えるのか?」

「いるにはいるが、危ないぞ。」

 市場で聞きまわった反応は微妙なものだった。少なくとも市場で取り扱いはなく、カニ漁をしている漁師というのも存在しなかった。

 どうやら見た目から、食用とは思われていないようだ。ただ、カニと言って、特徴を話したら、それっぽい生き物が街の近くに生息していることは分かった。

 確かに前世でもかにといえば、危険な海にいるごちそうだ。カニ漁は年単位の仕事で命がけ、沢蟹やワタリガニなども、ある時期までは食べられなかったそうだ。

「カニですか、わざわざあれを所望されるのですか?」

「そうね、カニにはそれだけの価値があるわ。」

「ストラ様が言うならば、我々も準備を。」

 ロザードさんとジレンさんに相談すると、彼らに場所の心当たりがあるということで、宿に宿泊した次の日、私たちは街から少し離れた岩場まで足を運ぶことにした。


 アクアラーズとその周辺は、岩山に囲まれ切り取られた崖のようになっていて、高さも色々だ。砂に埋もれそうになっている場所もあれば、岩がむき出しになっている場所など様々だが、その中でもクマ吉が通れる程度に開けた細い道があり、そこを抜けると岩山を削ってできた海岸があった。

 広さは25メートルプールより少し小さいくらい、岩山を切り抜いた向こうに海が見えるロケーションはプライベートビーチにしたら人気になりそうだが。

「おお、いるねー。」

 そこには確かにカニがいた。わりとえぐい数が。

「シークラブと言われる魔物です。数が多い上に雑食なため、海産物を食べてしまう厄介者なんです。」

「殻が硬いし、足や手がとれても生きているから厄介。」

 そうですね、カニは神経がないから足が取れても平気なんだっけ?

「普段はこの海岸か、海の底で生活しているのですが、満月の夜になると他の海岸にあらわれて繁殖をします。アクアラーズではその侵入を阻止するために定期的に駆除の依頼をだしているのですが、活用がない上に厄介な生き物でして。」

 いわゆる約ネタ扱いということなんだろう。それこそ残飯から人間までなんでも食べる上に、食べると腹を下すとも言われているので、食用にも向かないらしい。

 が、それは、前世のカニだって同じだ。カニやエビは鮮度が落ちやすいから管理に失敗するとすぐダメになる。ほかに食材があるならわざわざ食べようと思わないのも納得だ。

 しかしだ。

 頭が少しでて上から見るとドクロに見えそうなシルエットに、棘だらけ立派な6本の足と立派な爪は大きな胴体よりも長い。

 うん、これタラバだ。どうみててもタラバガニです。

「塩ゆで、カニ鍋、甲羅焼。」

 カニと言えば、ズワイガニや越前ガニが有名かもしれないれど、私は断然タラバガニ派だ。実の詰まった足をがぶりと食べるのが一番うまいと思う。

「これ、全部とっても大丈夫?」

「は、はい。ほかにも生息地はありますし、先ほども言ったように害獣ですから。」

「なら問題ない。みんなやるよ。」

 全滅は怖い。それに乱獲して環境に影響が出るのはまずい。

 だが、悲しいかな彼らの価値は知られておらず、討伐はむしろ推奨されている。だったら、私達が遠慮する必要はない。

 そうと分かれば、後は簡単だ。

「ぐるるるる(逃げ道を塞ぐ。)」

「くるるるる(お任せを)」

 クマ吉、白熊コンビの土魔法で海岸線を盛り上げてカニたちを閉じ込める。

「ほいほい。」

 そこに魔法で海水を流し込み、カニたちを浸す。

「ぴゅううう(美味しそう。)」

 そのままレッテの魔法で瞬間冷凍。時間にして1分もかからない早業でございます。

「すげえ、海が凍ったぞ。」

「ありがたや、ありがたや。」

 獣人2人が感動しているが、そんなことよりも運搬をお願いしたい。


 その場で調理というのも考えたけど、予想以上も量が多かったため、凍らせたカニはみんなで協力して運び出しアクアラーズに持ち帰った。

「な、なんじゃこりゃー。」

「こんな数のシークラブ初めて見たぞ。」

「巣穴を根こそぎか?すごいな。」

「街の救世主だ。」

 なんか騒がしいギャラリーをスルーして、街近くの浜辺にやってきて、凍らせたカニたちを山積みにする。

「まずは鑑定っと。」

 とりあえず一匹ほど魔法で確認してみると、毒や寄生虫の類はなかった。できることならこのまま刺身にチャレンジしたいが、流石に怖い。

「ぐるるるる(できたよ。)」

 というわけで、クマ吉に用意してもらった即席土鍋ビックサイズに取り合えず10匹ほど放り込みみ、そこに海水を流し込こむ。

「ふるるる(火加減は?)」

「水が沸騰するぐらいでいいよ。」

 獲れたてのカニを塩ゆでにする。そうすることで、できるのは市場とかでみる赤いカニだ。塩を追加したほうがいいかもしれないが、まずは様子見だ。

「な、なんだ、この香り。」

「海老?いや、違うこれはもっとなんというか。」

 うん、カニを煮るだけでもいい匂いがするよねー。癖があるから苦手な人は苦手だし。

 グツグツと煮込み、殻が赤くになったところで取り出す。うん、見た目はタラバガニ。丸ごとの状態から足をもぎ取って食べるのは初めての体験でワクワクする。

 ぱきっと足をもぎ取り、関節の部分でさらに折る。煮ることで殻が柔らかくなっていたのか、すぐに向けたプルンとした中身がすぐに取り出せた。

 カニだ、カニだよ、カニなんですよ。しかも前世で食べたタラバよりも大きい、太さはバナナぐらいあるし、足先までしっかり身が詰まっている。

「・・・ちょっと薄いか。」

 海水で似ただけだとやや薄味だが、味はカニのそれだった。

「もうちょっと塩を、いやここはバターや醤油か。」

 とりあえず塩を追加してみたら。うん、うまい。

「ストラ様。」

 もぐもぐ

「じじじ(美味しいの。)」

 モグモグ。

「ぐるるるるる(これは聞いてない。)」

 カニを食べている間、人は無言になる。

 私は黙って親指を立てて、他の足を追って、みんなに配る。

「「「「「もぐもぐ」」」」

 その場にいた全員(精霊含め)が余計なことを言わずにカニを追加して茹で、殻をむいて食べた。

「な、なんだこれは。えっくれるの。うま。」

 そんな様子を見て近づいてきたギャラリーたちにも振る舞ってあげる。調子に乗って捕り過ぎたので、遠慮しなくていい。

「「「「もぐもぐ」」」」

 ちなみに塩ゆでもいいが、ポン酢やバターなどで食べてもカニは美味い。足を食べつつも胴体を開いてカニ味噌をつけながら食べても上手い。そちらは見た目と癖があるので、遠慮する人達がいたけれど、サンちゃんを中心に酒飲みたちは、そこに酒を流して甲羅酒を楽しんでいたよ。

「もぐもぐ」

 言葉はない。だが、カニ料理がアクアラーズの名物になり、それを求めて旅人が訪れるようになり街がさらに発展したのは、数年後の話である。

ストラ  「カニうめー。」

シークラブ「地元じゃ負け知らずだったのに、秒殺された。」

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