142 薬師 揚げ物のデメリットは語らない。
海辺の街でテンション上がりまくる。
海鮮と言えば、揚げ物だ。フィッシュフライにエビフライ。天ぷらにさつま揚げと揚げることで美味しくなる調理法は多い。もともとは水中で生活している生き物ゆえに水分の多い身は、肉よりも味に個性があり身が崩れやすい。そこを衣で補強し、油で素早く熱を通す。だからこそ、ふっくらした身に味が凝縮されるのだ。
クジラなどの哺乳類な海の生き物を狩れば脂は採れるが、あれは食用に向かない。豚などの飼育も少数なので、ラードも期待できない。
そんなわけで、網焼きや煮込み料理が多いとのことだが、私は揚げ物が食べたいし、精霊さん達も大好物だ。やつらは揚げ物があるからこそ、私の言うことを聞いているといっても過言ではない。
「ジジジ(皮むき完了)」
「じじじ(ゴミも取り除いたーよ。)」
ツバキ油を作るのは意外と簡単だ。まずは種を砕いて皮をむく。これはハチさん達が丁寧かつ迅速にやってくれた。
「これを刻めばいいんですか?」
「うん、こまめにお願い。」
「任されよ。」
剥いた中身は、ロザードさんとジレンさんにたのんでみじん切りにしてもらう。フードプロセッサーがあると楽なんだけど、最初なので丁寧にやってもらう。
それなりの量の種を刻んでもらう間に、宿の竃に鍋を置いて水を張る。その上にざるを置いて清潔な布を置いて準備する。
「ストラ様、このくらいでしょうか。」
「うん、いい感じだね、ここにいれちゃって。」
ボール一杯分の種が刻まれたところで布に広げて、水を沸騰させる。後の行程を考えるなら蒸すよりも加熱の方が楽なのかもしれないけど、焦げても嫌なのでまずは蒸す。
蒸して柔らかくなったら、そのまま布でくるむ。
「あとは、コレを絞る。」
「それだけでいいんですか、意外と簡単ですねー。」
力ならクマ吉と言いたいけど、布が破けるのでロザードさんに任せる。
「ふん。」
ぎりぎりと布が破けない程度に絞ればぽたぽたと黄金色の油がたれ、やがてはぼたぼたと油が絞れていく。
「おお、いい香り。花よりもずっと濃厚ですね。」
皿をもって受け取っていたジレンさんの顔が、うっとりする。うんツバキっていい香りだよねー。ただ、まだ完成ではない。
「しぼったものはここに流してねー。」
調合用に用意しておいた目の細かいざると紙、それを使って濾せば、より透明度の高いツバキ油のできあがりだ。
「ははは、意外といけるじゃないか。」
前世では、社会科見学の引率で製油工場へ行ったり、油づくり体験をしたことはあるが、魔法とフィジカルでごり押しできてしまったよ。
圧縮法と言われるこの方法なら、ゴマやなたね、トウモロコシなどからでも作ることができる。これはハッサム村でも試していたけど、ツバキ油の入手はシンプルに嬉しい。
ツバキ油やごま油による揚げ物は、かの家康公様も好んだ高級食材だ。伊豆の離島で食べたときも美味しかった。
「では、レッツクッキング。」
宿の大鍋に出来立ての油を注ぎこみ、サンちゃんに加熱してもらう。
「今回は、フライ系。」
事前に背ワタと殻を取り除いたむき身の海老多数、殻から取り出したホタテ山盛り。紙でくるんで水分を飛ばしておいた白身魚の切り身に、イカとタコ。
「塩コショウに、小麦粉、卵もあるとか、流石港町だねー。」
あえて言うならパンが微妙だった。フランスパン的な固めのパンが欲しかったけど、なかったので、朝焼きのパンの残りをもらってすりおろしてパン粉を用意する。
「よしよし、これくらいかなー。これを維持で。」
「ふるるるる(任せてくれ。)」
菜箸で温度を目視したタイミングで、衣をつけて次々に揚げていく。
揚げ物特有のバチバチという音と、揚げ物の香り。もうこれだけで美味いが、久しぶりの揚げ物なのでもう少し気合をいれたい。というわけで、
「ええっと、注文されたゆで卵なんですが。」
「ジジジ(ものども、仕事だ。)」
事前に注文しておいたゆで卵をハルちゃん達が受け取り、殻を剥いてみじん切りにしていく。そこに事前用意しておいたタマネギのみじん切りとマヨネーズを混ぜて塩コショウを少々。
やはりシーフドフライにはタルタルソースだ。ついでに、色々と混ぜて作ったなんちゃってソースも用意しておく。レモンは市場で売っていたので、味に深みが増すことだろう。
ちなみに、私はピクルスを入れたタイプの方が好きだが、流石に手持ちがなかった。旅の保存食とし優秀なのだが、ここに来るまでに食べきってしまったのだ。
「じじじ(じゃあ、外に運ぶぞ.)」
山盛りの皿も運んでもらいつつ、残りも一気に上げてしまう。結構な量をあげたが、クマが一頭増えたので、これでも足りるか心配な量だ。
古来より、料理の基本は焼くか煮込みということを聞いたことがある。火で肉をあぶることで安全でおいしく食べれることを知り、煮込んで汁物にすることで旨味を引き出す。そこに蒸し焼きなどの肯定が加わるが、油で煮るや炒めるという発想は割と最近になって生まれたモノらしい。
まあ、食べないものを調理に使うという方法が受け入れがたかったというのは何か分かる。揚げ物は片付けが大変だ。だがそれ以上に美味い。
「なんだ、これは、ホントに海老なのか?水っぽさがなくてプリプリじゃないか。」
「白身もホクホクです。サクサクの衣とあう。」
「揚げるといい感じに水分が飛ぶからねー。」
揚げ物デビューのロザートさんとジレンさんは、感動しながらそのまま食べているので、タルタルソースをかけてあげたら、あまりのおいしさに絶句していた。
「ふるるるる、(酒に合わせるなソースだなー。)」
「ありがたや、ありがたや。」
「精霊様と酒を飲める日が来るとは、しかもうまい。」
サンちゃんはソースをかけたフライを肴に、宿の人達とチビチビと酒盛りをしていた。この飲んべえは、さらっと酒盛りをしている。
「じじじ(ホタテ、好き)」
「じじじ(自分は、エビです。)」
「ぴゅううう(イカの歯ごたえ)」
ハルちゃん達は小分けにしたフライをシェアして微笑ましく食べている。サイズ以上の大きさのフライが次々に消えていく光景は何度見ても面白い。
「ぐるるるるる(肉の方が好きかも。)」
「くるるるるる(お肉も上げるのですか?)」
「ぐるるるる(とりのから揚げは美味)」
クマ吉と白熊さんは一つずつを噛みしめるように味わい、感想を言い合っていた。シーフードフライの中では白身魚のフライがお気に入りらしい。機会があればサーモンフライとかも味合わせたい。
「おじょうちゃん、いやお嬢様、ぜひともこの料理の作り方を教えてください。」
「できたら、このたるたるそーすというだけでも構いませんから。」
「「「売ってくれ。」」」
なんとなくで宿に居合わせた人達にもおすそ分けしたら、めっちゃねだられた。
まあ、揚げ物の魅力はそれだけってことで。
「うん、まあ。油の入手だけをどうにかできたら、簡単だよ。」
「油?油なら、ケモノを絞めたやつか。スベンからの輸入品があるぞ。」
ケモノってラードかな?あれであげるなら、コロッケだね。肉屋のコロッケとか好きだった。ここは蟹を捕まえてカニクリームコロッケにチャレンジしてもいいかもしれない。
「蟹、そうだ、蟹はないの?」
そうだ、海といえば蟹じゃないか。あとは、タラコ・・・だめだタラコはもっと寒い海だ。
「蟹?あれって食えるのか?」
「蜘蛛とかサソリを食うってのは聞いたことがあるけど、あれって、砂漠で食うもんに困った旅人が緊急で食うもんだろ。」
なんと、蟹のすばらしさを知らないのか。いや、そんなことはどうでもいい。
「あるのね?」
蟹が。タラバかケガ二か、それとも上海系か知らんが蟹があると言うならばやることは決まった。
「蟹よ、蟹はどこで手に入るの。」
前世日本人の食欲を舐めてはいけない。
蟹が食べられるなら、なんでもしようじゃないか。
ストラ「海鮮と言えば、エビ、カニ、タコでしょ。」
一同「なんかテンションがオカシイ。」
十年以上海鮮から離れていた日本人は海鮮にどん欲になる。
伊豆大島で椿油であげた天ぷらを食べたことがあるのですが、美味しかった。




