138 ストラ オアシスを堪能する。
獣王のトリミングを終え、生活習慣のレクチャーをしている間に日がくれ、その日は王都の御馳走を味わい、ゆっくりと休ませてもらった。
「めっちゃ豪華な部屋だなー。」
用意されていた寝室は、まるで海外のリゾートホテルのようだった。天蓋付きのベットに、天井からつるされた魔力灯、リラックス効果のある香炉に、木の皮を組んで作られたテーブルセット。窓際の金持ち椅子(藤製のあれ)に腰かけると、月明りに照らされたオアシスが一望できる大きな窓。メインの部屋の他には、専用のトイレとバスルームが併設されている。
「何かあれば、そちらの鈴を鳴らしてください。」
しかもケモミミ美人なメイドさん付きである。
「あえていうなら、セキュリティかなー。」
元日本人としては、旅先で鍵のかからない部屋というのは少し不安になる。色々とやらかしているので、怒りを買った貴族から闇討ちなんて笑えない。
「ぴゅうううう(水だして。)」
「うん、大きめにお願い。」
そう思っていたら、先にベットに寝ころんだレッテから水を要求された。そこでペット加工ようにドーム状に水を出して、凍らせてもらう。
「うん、カチカチ。」
魔法によって生み出された水は純度が高い、空気を含まないように凍らせればその硬度は金属にも匹敵する。空気穴は開けてあるので窒息の心配はないし、何より涼しい。
「よし、寝ようか。」
色々あって、今日は疲れた。手早く身を清めたら私はベットに潜り込んで眠りに落ちた。
久しぶりのベットは快適で、次の日は少し朝寝坊をしてしまい、起きたときには日が完全に上がっていた。体幹的には10時ぐらい?ほどほどに空腹を覚える時間だ。
なお、宮廷の朝食は果物とパンというなかなかにフレッシュでヘルシーなメニューだった。
そんなわけで、私が本格的に王宮の見学をはじめたときにはお昼を回っていた。
「まずは、オアシスを見たいとのことだったので、そちらを案内させてもらう。」
案内は、久しぶりの実家でテンション高めなマルクス王子。留学の報告とはいいのだろうか?
「父より、ストラ嬢の相手をするように申し付けられている。あと、報告は昨晩の内に住ませてある。」
「数時間で終わる量ではないと思うのですが。」
「口頭での報告は、帝国の進撃と、流行り病の顛末だけだ。後の細々したことは、報告書で済ませたからな。今は書記官と役人で清書と確認中だ。」
なるほど、あとで質問攻めになると。私は手伝わないぞ。
ラジーバの王城は広いが、横にも長い。大きな岩山を改造して作られた王城は、オアシスを守るために作られた城壁をもとに作られたもの、空から見るとドーナツのような形をしている。(サンちゃんたちに確認してもらった。)
「ここが正門だ。ここより先は許可のないものは立ち入りが許可されていない。」
案内されたのは、王城を通り抜けた先にある大きな門だった。木材をメインに金属で補強された巨大な門は、恐竜王国なテーマパークのあれを連想させるがフル装備の兵士達が固く守っていた。
「「「「「お待ちしておりました。」」」」
物騒な兵士さん達がマルクス王子が現れると同時に一斉に跪いたのはちょっとびびった。
こんなんでも王子ということなんだろう。
「いや、これは、クマ吉どのたちのおかげだと思うが。」
「なるほど。」
今日は白熊さんも一緒なので私達のインパクトはすごかっかねー・
物語でよく出てくるぽつんとあるオアシスとは、砂漠にある霧を巧みに集めて作られたものだ。規模は小さいが、そこにいる生き物や植物を中心に周辺の生態系が支えられている。一方で、オアシス農業なんて言葉も存在するが、それは地下水や川を利用したもので、こちらは人工的に作られた灌漑農業の一種だ。川や山の水脈を農地までひいてきて作る。
だが、門の向こうはそのどちらにも当てはまらないものだった。
「すごいな。」
まず目につくのは、オアシスの大半を占める巨大な池。ぱっとみでサッカーやラグビーのコートぐらいありそうな池の水は澄んでおり、中央付近は水が湧き出ているのか波打っていた。
池の周囲には、ブドウなナツメヤシの木が無数に植えられており、その向こうには綿花と小麦と思われる畑が見えた。ここまでのスケールも大きいが、池より先の光景は、反対側が見えないほど広がっていた。
「もともとは岩山に囲まれた盆地だったらしい。そこを改造して今の王城がある。」
マルクス王子の解説にうなづきながら、私はその景色に感動していた。今日まで砂だらけのばしょを見てきたせいか、たくさんの緑は落ち着くし、そのスケールの大きさには驚かされた。
「ここだけで、王都の住人の腹を満たし、衣服と文化を維持している。神の御業、至宝と言われている場所なのだ。」
解説を聞きながら池の周辺を歩けば細い水路がいくつもあり、それを追えば、バナナの木やパイナップル、ヤシの木といった南国なフルーツが目に入る。遠目に見えるのは、香辛料の畑だろうか?広大な農場の中では、獣人たちが農作業に勤しんでいた。
これだけの規模の畑を今世では見たことがない。あえて例えるならば前世で旅行に行った北海道の畑やアメリカ映画のトウモロコシ畑のようだ。地平線の向こうまで畑が広がっているのではないかと錯覚してしまうほど、オアシスの規模は大きかった。
そうなると、大きいと思った池が水源としては小さく思えてしまう。塩害対策とか大丈夫なんだろうか?そもそも根本的に土が違うのだろうか?
しゃがみ込んで、足元の土を触ってみると、多少さらさらしているが、学年園の土にも似ている。少なくとも外の砂のような細かさはなく、粘性もある。
農業を発展させると、近隣の水源が縮小することがある。1960年頃に綿花の栽培が盛んになってアラル海という世界で4番目に大きかった海が涸れてしまったという話は前世に本で読んだことがある。
「水源はここだけなんですか?」
「いや、ここよりは小さいがあと数か所ある。このオアシスを支えているのは膨大な地下水なんだ。あと、ここに限っては定期的に雨も降るんだ。」
この場所は、水の循環が起きている?
いや、消費する以上に水が供給されているのだろうか?
それでも地下水なら地盤沈下とか起きないか?
色々な疑問とともに、掘り返して井戸を作りたいと衝動にかられたが、やめておく。万が一にも地下水源に影響がでたらまずい。
「世界は神秘に溢れてますねー。」
10後、100年後にこの場所が残っているかはわからない。だが、この広大な農場を見れたことは、この旅の思い出となることだろう。
色々と農場の説明を受けながらも、私は何度も見回しては、その景色を目に焼き付けるのだった。




