127 ストラ一一味、道場破りにテンションが上がる。
ラグナラードが大変な事になりました。
有言実行、喧嘩上等、やられたら倍返し。この世界において舐められた終わりだ。
言論の論破?腕力で判断するノウキンどもを相手にするのに、そんな優しい方法をとるわけがないじゃないか。
「たのもー。」
蹴破る様に扉を開けて尋ねたのは、ここ2週間滞在していて街、ラグナラードにある斡旋場だった。
砂漠がその大半を示すラジーバでは、定職、定住というのは裕福な証であり、多くの人が水場やオアシスをめぐって旅を続けながら生きている。そんな彼らに短期間の仕事や移動もできる仕事を斡旋するのが斡旋場なのだ。割のいい仕事や払いのいい仕事は取り合いになるし、信頼がなければいい仕事はもらえない。だから、ここに来る人間は、それを勘違いした荒くれ者風の獣人が多い。酒場も併設されているからか、まるで狩りゲーの集会場のような騒がしさと、香辛料の匂いがする。前世のハローワークが可愛く見えてくるな。行ったことないけど。
「「ああ?」」
そんな荒れた場所であるため、求めらるのは腕っぷし、信用も力で買うものだ。そんな場所に可憐な美少女が毛無しの集団を連れて現れれば、当然目立つ。その場の視線を集めてしまうのは、けして扉を勢いよく開けたからではない。
「なんだー、ちびと毛無し。」
「死ねー。」
と、見慣れぬよそ者にダル絡みするという、ファンタジーのテンプレは、サラさんの鉄棒によって強制カット、私達は受注カウンターへと堂々と進んだ。
「なんだい、お客さん。仕事の募集なら、あっちのカウンターだよ。」
カウンターにいたのは、美人のお姉さん、ではなく毛深いおっさんだった。座っていても私よりも小柄と分かるけれど、その腕は太く、リンゴとか握りつぶして食べてそうな野性味のあるおじさんだ。
「うん、なんか塩漬けの依頼はない?あんたたちがびびって手を出せないようなやつ?」
ざわり。サラさんの暴挙によって静かになっていた空気が私の言葉によってさざめく。だが、そんな無鉄砲な要求にも慣れているのか、おじさんはため息一つで、首をふった。
「お嬢さん、腕に自信があるのはいいけど、そんな面倒な事はやめておきな。後ろの連中を使って、下水掃除や解体の仕事をしたほうが儲かるぞ。」
「そう、誇り高き獣人は、下水にはいるのも怖がる臆病者ってことね。」
「そうだな、だれだってあんなところには入りたくないさ。解体作業もろくにできないバカばかりだよ。」
こちらが怯まないのもおじさんは想定内だったらしい。皮肉も通じない。
「まあ、こんな臭い場所で平気いるからそうよね。知ってる、砂漠の外には、敵から逃れるために糞や死体でわざと臭くする動物がいるのよ。毒にも薬もならないけど、臭くなるから討伐依頼がでるんだけど、臆病だから、すぐ逃げるのよねー。」
「そいつは、ダストクラブのことか。たしかにあれはクサイな。」
楽しい会話に反比例するように周囲のざわつきが大きくなっていく。一部の客はこれ見よがしに刃物やら武器を出したりしまったりしだし、何人かは不機嫌そうに酒を煽っていた。それでも私の身なりと態度から、絡むとろくなことにならないと理解できているのか、直接何かを言うわけでもなく、こちらを注視していた。
テンプレな物語なら、腕自慢なお調子者に絡まれたり、乱闘騒ぎになりそうなんだけど。意外と冷静だな。これだけ挑発してあげてるのに・・・。
「あのなー。お嬢ちゃん、あんたが何を期待しているか知らないけど、王子の連れを相手に無礼を働くバカはさすがにいないぞ。」
「えーー、そこはボコボコにされてから、水戸黄門展開じゃないの?」
「みとこうもん?なんだそれは。」
「ああ、ごめん。忘れて。」
ここ2週間のハッサムムーブのおかげで、ノウキン思考になっていたな、反省、反省。冷静に考えればマルクス王子の奇行も含めて情報が街に出回っていてもおかしくない。そうなれば、VIP扱いされている私に無茶をするやつはいないのも納得だ。
しかし、それではあまりにつまらない。
「で、どうするの?よそ者に舐められたから、尻尾振っていい子になるわけ?」
おじさんはだめそうなので、斡旋場全体に聞こえるように声をはる。
「獣人は実力で判断する。そんな御大層なことを言いながら、その実態は、女の子1人にびびり、近場の弱い物をいじめて満足するくだらない自己満足なんだ。犬以下ね。」
がちゃん。グラスが割れる音と共に何人かが動いた。うんうん、ここで動かなければ男じゃないよね。
「落ち着け。」
だが、それを制するようにおじさんが低い声を上げる。その圧力に空気が再び凍り付く。
「安心しろや、マルクスの坊ちゃんから事情は聴いてる。あんたみたいなやつだって、珍しいわけじゃない。」
「ふーん。じゃあ、相手するのが彼女たちだってのも理解してる?」
なかなかの眼力だけど、最強最悪の皇帝陛下や、精霊さんたちと比べればそよ風レベル。我ながら、図太くなったもんだ。なんなら、ここにいる全員をびびらせてやりましょうか。
「おいおいおい、おやっさん、いい加減にしてくれ。」
「そうだ、こんだけ舐めたガキ相手に、なんで大人しくしてなきゃいけないんだよ。王子様の連れだからって黙って従うのはラジーバの人間じゃねえぞ。」
「黙れ、雑魚ども。このお嬢ちゃんも、後ろの連中もお前らじゃ、叶わないってことぐらいわかれ。」
ついに声があげだす雑魚を一喝してだまらせるおじさん。やれやれと言ってカウンターに準備中の札を置き、よっこらせと立ち上がる。
「まったく、マルクスの坊ちゃんの話を素直に聞いておいてよかった。とんだじゃじゃ馬じゃないか。」
立ち上がれば、その背丈は私と同じぐらい。けれど手足の太さや威圧感は実力者のそれだ。荒くれ者をまとめるおやっさんって感じがしていいわー。かつては凄腕で、今も若い者には負けないって感じ?
「やめてくれ、孫もいるんだぞ、荒事はごめんだ。」
うん、いかにもなセリフをありがとうございます。
「こっちだ。」
ぶっきらぼうにそう言ったおじさんが案内したのは、裏にある広場だった。塀で囲まれただけの簡素な場所、普段から使われているらしくデコボコながら踏み固められた足場は相撲の土俵のようだ。
「獣人は血の気が多いからな。訓練や喧嘩はここでやらせている。」
「なるほど、だから地面が固いのか。」
汗や鼻水、それから血、爪や歯なんかも混ざっているかもしれない。歴史を感じる場所だ。
「然るべき相手は待機させておいた。マルクス坊ちゃんの願いってのもあるが、それ以上にあんたは目立ち過ぎたみたいだ。なかなかの大物が連れたぞ。」
「へえー。」
確かに、広場で待ち構えていた獣人たちは、そこそこに強そうだった。
ストラ「転生物のお約束展開きたー。」
マルクス「心配だ―、だから、ここからだして。」
マルクス王子は、色々あって、まだ檻の中です。




