12 王子でもヒーローでも空気を読まないとビンタだよねー。
まだまだ辺境伯家のお話です。
辺境伯家に滞在すること3日目。クレア様の診断や薬の処方と生活指導。あとは料理人たちと新レシピ開発なんかして忙しかった。その間、メイナ様と過ごす時間があまりとれなかったわけだけど、メイナ様はメイナ様も忙しかったのだ。
「ストラ、どうかしら。」
「そうですね、ピンクの生地のドレスにふわっとしたスカートがとても素敵です。」
「そ、そうわたしもそう思うの。」
ピンクのふんわりとしたスカートと白のリボンで彩られたドレスは、おとぎ話のお姫様のように可憐だ。10歳でまだまだ子供のような体型のメイナ様が着るとまるで妖精のような愛らしさがある。これがこの世界の流行りなんだろうか、この前の誕生日も夢の国のアニメのようなふんわりドレスが多かった。
「ですがーー。」
ちょっと思うことがあり、私は赤いリボンをとってメイナ様に近づく。
「こうすると、大人っぽくっていいかもしれません。」
長めのリボンでキュッとしぼる様にお腹周りと絞り、斜めに交差させて肩まで上げる。イメージとしては着物とかをたすき掛けする感じだ。ふんわりとした生地が引き締まり子どもっぽい妖精から、身体のラインが分かりやすくなり、ちょっと色っぽくなった。
「おお、これはこれで。」
ちょっと距離をとって満足げな私だが、近くのお針子さんたちは微妙な顔だった。
「ああ、いやあれですよ。もっと生地の色を濃くして薄いものに変えたらこんな感じかなってことですからね。」
さすがに洋風ドレスにたすき掛けなんてとんでもないものを流行らせ用なんて思ってないからね。
「なるほど、最近のドレスにはないですが、メイナ様なら身体のラインを出してもいいかもしれません。」
「その方が大人っぽいと思ったので。お見合いなんでしょ、背伸びしてもいいかと。」
「さすが、先生。」
感動しているお針子さんたちだけど、言っている私は着慣れたワンピースに白衣だ。治療のお礼にと辺境伯が仕立ててくれた白衣は丈夫な上に着心地がいいので助かる。そんな私が何を言っているんだという話だが、かれこれ一週間もドレスが決まらないということで意見を求められたのだ。
さて、なんやかんやと姦しく着飾っているのは、明日がメイナ様のお見合いだからだ。しかも相手はこの国の第二王子、ゲームでも氷の微笑とよばれるクール系ヒーローであるスラート王子様だ。3人いる王子の中でも幼い頃から、様々な分野で才能を残すクールな天才君だ。それゆえに、理解者が少なくて孤独な学園生活をしていると、天真爛漫かつ自分になびかない主人公にほれ込んでいくという。そんな奴だ。
「そういえば、新作の深緑の生地があったわね。」
「それだ。今の感じをそのまま生地にして。」
「サイズはばっちりよ。」
おお、すごい気迫と魔法のような裁縫技術だ。あれよあれよと言っている間にメイナ様がお色直しをしていく。
完成したのはあれだ、某雪の女王様って感じ。髪型もアップ気味に整えたから、幼いながらにもどきっとする大人びた美しさがあり、妖精のようなかわいらしさと大人びた美しさまで感じる。これはなかなかに素晴らしい。
これならクール君もメロメロになること間違いない。というか、クレア様の問題が解決したメイナ様はめっちゃいい子だからねー。ゲームの世界ではわがままなメイナ様に愛想を尽かした王子だけど、今考えると王子が悪い。母親や周囲からの愛情に飢えていた婚約者の気持ちを癒すこともできなければ寄り添うこともしなかった。男の甲斐性がなさすぎる。
というか、あれか。そうなるように誰かが糸引いてたとかじゃないのかなー。辺境伯に余裕がないとはいえ、王家の情報網ならメイナ様の実態ぐらい把握していてもおかしくない。というかそれくらい調べてからお見合いするよね、普通。
王家が無能なのか、それとも意図的に情報を隠していたとか?
「あ、あのストラ。私、ダイジョブかしら?」
「はい、何がですか? めっちゃ似合ってる上に、美人過ぎて嫉妬してしまいそうなんですけど。」
忌憚ない意見。もうね、嫉妬するのも馬鹿らしいくらいの美少女ですけどあなた。
「あ、ありがとう。でも、スラート王子は私の事を気に入ってくれるでしょうか?」
言いながらもじもじと顔を赤らめるメイナ様、超かわいい。意地っ張りなツンデレちゃんからツンをとったら美少女でしかないんだけど。ゲームの世界で悪女とか外道と呼ばれていた貴女だけど、素はこんなに美少女だったのね。
「ふむ、失礼ながら、メイナ様はスラート王子をどう思っているんですか?」
「ええっと、お話と絵姿でしか知らないけれど、カッコいなあって。」
なるほどー感触は悪くないと。この世界の貴族はお見合いが基本である。リガード家の当主は辺境伯であり現王とは従妹同士、家格的にも年齢的にもこのお見合いはふさわしいと言える。だが、相手はスラート王子である。抜きんでた才覚と整った容姿、第一王子よりも次期王にふさわしいんじゃないかと噂されるほどの相手で、人気も高い。メイナ様が不安になるのも分かるというところだ。
「なるほど、ならばその気持ちを隠さずにいればいいんじゃないですか?」
知ったこっちゃないと言いたいところだけれど、このお見合いは成功してもらう必要がある。数年後、学園へ入学したときに、二人の仲が微妙だと私にも火の粉が飛ぶ。
かといって、メイナ様に無理をしてほしくもない。
「気持ちを隠さないですか?」
「そうです、だって会えるのはうれしいんでしょ。」
「え、えええ。」
「だから、何日もドレスの準備をしたし、今も悩んでいるですよね。」
「う、うん。」
なら大丈夫だろう。私には根拠のない自身があった。
どういうか形であれ、メイナ様はお見合いに前向きだし、今は気持ちも落ち着いている。だからこその美少女っぷりを発揮しているわけだし、周りの人も協力的だ。
「ドレスも素敵ですけど、そうやって王子様のために色々考えて、悩んでいるメイナ様はとてもきれいだと思いますよ。」
「・・・ストラ。」
私の言葉にお針子さんたちも頷いている。
「そうですわ、メイナ様。先生の言う通りです。今、めっちゃかがやいていますわ。」
「これだけ思われているスラート王子が幸せですわ。」
「大丈夫、今のメイナ様は国一番の美少女ですわ。」
「み。みんなありがとう。」
いやー愛されているって大事だよねー。
前世でも両親に可愛がられている子は、それだけで元気だったし、逆な子が荒んでいることが多かった。子どもは愛情を注がれてこそ輝くものだ。
「だから、メイナ様、思うままに振る舞えばいいんです。かっこいいと思うならそう伝えればいいし、楽しいと思うならそう伝えればいいんです。」
体験したことはないけど、夫婦生活ってそういうものだと思うし。
「仮に、スラート王子がメイナ様に対して失礼な態度をとるようなら、私がビンタしてあげるので安心してください。」
「まあ、まるでお父様みたいなことを言うのね。」
ああ、すでに言われてましたか。
愛されてるなーメイナ様。
さらっと新しいファッションの風を吹かせているけれど、無自覚なストラさん。
ちなみにですが、お姫様然としたフワフワドレスが流行りの世界で、スラっとしたスタイル依存のドレスが流行ることで大変なことになるけど、知ったこっちゃない。
なお
貴族のお見合い問題に口を出す気はないストラさんですが、次回は・・・