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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ13歳 ラジーバ 留学編

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118 薬師、砂漠を進む

 いよいよ旅の始まりです。

 見渡す限りに見える砂、砂、砂。地平線の向こう間で砂なのではないかと思ってしまうほど広大な砂漠は、風が吹くたびにまるで生き物のように形を変えて一定ではない。どこか規則性を感じさせる隆起が海面の波のように動いて見える。雲一つなく広がる青空と砂によるシンプルな色合いは、写真や絵で見ていたものよりもずっと壮大で美しかった。

「キレイ。これが砂漠。まるで一つの生き物ですね。」

「であろう、厳しく恐ろしくもあるが、ラジーバの砂漠は美しいのだ。」 

 誇らしげなマルクス王子に心の底から同意する。前世でも砂漠や砂丘は観光地として扱われる一面もあっけど、実物をみたら納得だ。


 街や村を経由して2週間。国境とは名ばかりの砂地と緑地の境界線に私達はたどり着いた。待っていたのは、この素敵な光景である。

「さて、ちょっとまってくださいね。」

 砂漠を入る前の休憩。なんなら一晩過ごして明日からという意見もあったが、まだ日は高い。無理をせずとも砂漠にある休憩地点まではたどり着けるとのことだったので、小休止のみで旅は続行。

 と、その前に。

「よし、みんなやるよ。」

「ジジジ(了解。)」

 お見送りと護衛の数中匹のハチ達に指示を出して私は馬車の外部パーツを取り外す。曲線を描く板のようなパーツだが、これはラジーバへの旅行を頼まれてから、注文していたパーツだ。

 二枚の板を組み合わせてねじ止めし、表面をハチさん達がロウでコーティングしていく。滑らかになるように私も手伝いながら作業し、完成した板の上にクマ吉が馬車をのせる。車輪は折り畳んで収納し、板にがっつりと固定する。完成したのはまるで船、あるいはでっかいソリだ。

「ストラ嬢。これは?」

「砂漠で馬車を走らせるようなことはしたくないので。」

 砂漠を旅するときに、真っ先に浮かんだのは、パリで行わるダカールなラリー大会で使われるごっつい車とタイヤだった。ただ、タイヤの強度や足回りの防塵対策とかを考えたら現実的じゃないとすぐに思い直した。車を砂漠を超えるのは現実的じゃない。戦車のような無限軌道とか、クマ吉の背中に載せるシステムなども夢想したけど、最終的にこの形に落ちついた。

 最終的に水陸両用にできたらいいなというロマンが採用されたわけだ。イメージは某狩りゲーに出てくる砂上船である。

 ちなみに車輪を折り畳み船の上に載せ、運用するという構造は面白いが、重すぎて水には沈む。無理に走らせても路面への影響がひどいので、ドワーフたちは二度と作らないと言っていた。

 でも案外うまくいきそうな気がする。

 そんな私の考えを、マルクス王子やお付きの人達は驚きつつも理解してくれた。

「なるほど、巨大なソリということか。面白いな。」

「はい、なので、ちょっと試させてください。だめなら、クマ吉に背負ってもらいますんで。」

 マルクス王子を迎えにきたラジーバの人達は、そりのようなものをラクダに轢かせて荷物を運んでいるそうなで、そりを使うという発想は獣人たちには受け入れられた。

 最悪動かなければ、大事な荷物だけハチさん達に運んでもらって、その場に置いて行ってもいい。

 せっかくの旅行なので、楽しんだっていいじゃないか。


 結果からいうと、砂上船は大成功だった。

「ぐるるる(砂、慣れた。)」

 最初こそ砂地の柔らかさに戸惑っていたクマ吉だけど、すぐにコツをつかみ砂漠を駆けだし、車輪のときとほとんど変わらない速度で砂上船を走らせた。なんならマルクス王子達が移動用に用意していたラクダよりも速いです。

 ラクダは馬より大きいし、歩幅も大きい。しかも王子さまが使う高級ラクダだ。その速度はそこらの馬よりもずっと速い。速いはずのそれらよりも速いのが家のクマさん。暑さも悪路もなんのそのだ。

「わたしも乗ってみたい。頼む。」

「いいですよ。」

 それを見て、獣人たちは大騒ぎ、皆が乗りたがった。そこで、まず他の荷物とマルクス王子も預かってお付きの人達はラクダを走らせて追走してもらうことになった。

「ははは、これは愉快だ。私もほしい。」

「小型なものなら木材でいけますよ。ワックスは必要でしょうけど。」

 舳先に立ってはしゃぐマルクス王子。かなり気に入ったのか目が少年のようにキラキラしている。いや年齢的には少年だったね、この子。

「砂漠の移動と言えば、ラクダにソリを轢かせるのだが、正面からの砂埃がひどくてな、すぐに砂まみれになる。」

 そういってマルクス王子が指さしたのは必死に追走するラクダさんたちだった。速度はあるけど、砂埃がすごい。これはすぐに砂まみれになりそうだ。それ以前に前が見えてるのか?

「あれ、大丈夫なんですか?」

「ああ、魔法で風を起こして砂を避けているんだ。専用の魔道具もあるが、砂漠に生きるモノならば自然とできる技術だな。」

「へえ。砂漠ならではですね。」

 そう言え何かの話で空を飛ぶドラゴンが魔法で同じようなことをしていたっけ。魔法の可能性はまだまだありそうだ。

 マルクス王子が気に入った理由は、砂上船は船のように砂をかき分けて進むので砂埃が少ないことの他にも揺れの少なさもあった。起伏の激しい砂漠なので、それなりに上下するが、ラクダの何倍も快適だそうだ。移動の快適さって大事だよね。

「問題はどうやって動かすかだな。ラジーバのラクダではこのようにはいくまい。」

「いっそ、本物の船みたく帆を立てて、風を受けたらどうですか?。」

「砂漠を走る船ということか。なるほど城についたら船大工を読んで相談してみるとしよう。」

 この世界の船のほとんどは帆船だ。風があるときは帆で進み、必要とあれば魔法で風を起こしたり、水流を生み出したりして進むのだ。そちらもいつかはと思うほどロマンがあるけど、自然と人力頼みなので、大陸の周辺を周回するばかりで、長距離を旅するのは稀だ。それこそ、数年単位の旅になるので、現状は夢のままにしておこう。

「おや、あれは。」

 そんなことを考えていると砂漠を見ていた、マルクス王子が何か気づいた。

「見ろ、サンドスコーピオンの群れた。此方に向かっているぞ。」

 言われて目を凝らすと10頭ほどのでっかいサソリがこちらに向かってわちゃわちゃと向かってきていた。立派なハサミと立派な尻尾、茶色っぽい黒の甲殻は砂漠に紛れるためなんだろうけどサイズと数でばればれである。

「アレは肉食だし、狂暴だ。群れに遭遇したら、荷物を捨ててそれを囮にして全力で逃げろと言われている。」

 その割に、お付きの人達が方向を変えてサソリに向かっているようですが?

「ここは砂漠の通り道だ。戦えるときはできる限り間引くのも我々の役目だ。幸い荷物はこちらにあるから守りを残す必要もない。多少ケガはするかもしれないが、心配はいらない。」

「ご立派ですねー。」

「これも戦う者。男の務めというものだ。無論、ストラ嬢の安全は私が守るから安心してくれ。」

「はい、どーん。」

 魔法で遠距離から攻撃しなさいよ。なんで特攻するかな・・・。

 命と体力とかいろいろ、もったいないじゃないか。

 そんなことを思いつつ、私は風の刃を飛ばして自己主張の激しい尻尾を切断する。

「じじじ(続け―。)」

 それを見たハチさん達も次々に風の刃でサソリたちの尻尾を切断していく。10個程度の大きな的なので、作業がすぐにすんだ。

「あとはお任せしますね。」

 サソリは尾の先に毒をため込むと聞いたことがある。また交尾のときはその尻尾を絡ませて求愛行動をするとか。尻尾さえ切っておけば、取り逃がしても増えることはないだろう。それに獣人さん達は頑丈なので、毒さえなければ大きなけがをすることもないだろう。

「お、お見事。尻尾の毒は我々でも命に関わるからな、助かる。」

「いえいえ、あっ、せっかくなので素材を回収してもいいですか。船にはまだ積めるので。」

 サソリの毒は強力な神経毒で、鋭い痛みとともに、筋肉や内臓の動きをとめるものだ。一方で正しく処理すれば麻酔や解毒薬にもなる素敵なものだ。確保しておけばいざというとに仕えるし、学園の先生たちへのいいお土産になる。

「お、おお。尻尾は毒があって食べれないが、サソリは貴重な食糧だ、回収できるなら、回収したい。

「えっあれ食べるんですか。」

「足がうまいな、殻の中に身がぎっしり詰まっているから、殻ごと火で炙って食べるのがごちそうなんだ。身体の方も上手いのだが、そっちは腐りやすくてな。自分で狩ったサソリをその場で喰らい、胴体の殻を使って鎧や武器をを作るのは、ラジーバの男達の憧れでもある。」

「ワイルドですねー。」

 完全にあの狩りゲーの世界じゃないか。そして食べ方が蟹じゃないか。

「夕餉は豪華なものになるから期待していてくれ。ラジーバの御馳走だぞ。」

「それは楽しみですねー。」

 えっ、見た目虫なあれを食べることにためらいはないのかって?

 元日本人かつ、田舎育ちを舐めないで欲しい。話を聞いただけでよだれがでたわ。


 ちなみに、火を通したサソリの中身はまんか蟹だった。あと、最初に尻尾を切ったのが良かったのか、いつもより美味だったらしい。

「今後は尻尾を最優先に切るように訓練しないとな。」

「「「「はい」」」」

 その味を知ったマルクス王子達の話が広まり、サソリ狩りのために獣人たちがポリシーを捨てて遠距離攻撃の手段を色々と考えるようになり、狩りの安全性とサソリ料理のレベルが上がることになる。が、それはもう少し後の話だ。


ストラ「1狩りいこうか?」

 さらっと技術テロを持ち込むストラさん。

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