103 ストラ 即座に対応する。
残酷にも時は進む。
ファンタジーな世界であるがゆえに、この世界で命は軽い。
小さいころは冬ごとに誰かが死んでいたし、数字的な意味では薬師のカルテや過去の記録には、毎日のように人が死んでいた。
戦争へ行くことを選んだのは彼らだ。
ただ記憶のある限り、元気だった知り合いが理不尽に命を奪われたのは初めてだった。
精神はともかく、身体はまだ13歳の女の子。慣れていない場面での不意打ちは私は蹲って泣き叫ぶという醜態をさらしてしまった。
「姐さん。」
「ごめん、落ち着いた。聞いても大丈夫?」
「はい、そのために自分が来たんだってばよ。」
私に貸し与えられた客室に引っ張り込まれ、しばらく呆然としたのちに、浮上した私は、冷静に己を分析できるまでは回復した。
「北伐は順調でした。特にハッサム村の関係者が魔法で補助しながら塹壕を掘る方法で、拠点作成は予定の何倍も早く進みました。敵は暗殺部隊をボルド将軍に送り込んだんす。他の大半を囮にして、奴らは本物でした。毒つきの刃と黒い服で・・・。」
正直、リビオンの話は、半分しか入ってこなかった。
誰が何をしたか、どんな活躍だったか。そこにちらちらと出てくる名前に、兄ちゃん、姉ちゃんたちの顔が浮かぶ。
レルとルドは、うちの主力商品となった養蜂の専門家であるハークスさん家の息子さん達で、都会へ出稼ぎに行っていたのをわざわざ呼び戻したばかりだった。養蜂が流行ったおかげで故郷に嫁と子どもを連れてこれたと御礼を言われた。
コトエさんは数少ない結婚適齢期の独身女性で、風呂の価値を一番に気づいて、大浴場を作るときは率先して、要望をだしてくれた。都会でいい男見つけたら教えてねって、よく言われた。
スパルはドワーフの中でも一番負けん気が強くて、私の無茶ぶりにすぐ噛みついてきた。私が寝かせている酒を飲むまでは死なないと仄暗い目で、徹夜していた。
ケイ兄ちゃんは・・・。まあいいか色々便利に使っていた。
思い出すと気持ち悪くなる。吐き気がし、足の力が抜けそうになる。目や顔が痒くなりガリ狩りしたくなる。だが、リビオンの話を最後まで聞くしかなかった。
「暗殺者は10人、不意に陣営に現れた奴らは、襲撃に対応するため手狭になっていたボルド将軍の下へと突撃し近衛とボルド将軍を切りつけました。その日はボルド将軍の護衛だった俺たちは即座に対応しました。ですが、奴らは捨て身な上に手練れでした・・・。自爆覚悟で、撒かれた毒でみんなは。」
「毒・・・。どういうこと。」
ぴくり、かちゃんと意識がスイッチした気がする。
「帝国がよく使う毒らしいっす。そのまま使っても効果は薄いんですけど、毒を受けた状態だと血が止まりにくくなるんっす。」
「出血毒?もしかして、ボルド将軍が重傷ってのは?」
「はい、その毒で血が流れ過ぎてしまったみたいっす。回復魔法で傷はふさがったんですけど、血が流れ過ぎて、それでケイロックたちは手当が間に合わず。」
「おい、駄犬まだ走れるか?」
出血毒は、マムシや蛇がもつ毒のことで、血を凝固させることで、出血がとまらなくなるものだ。外傷が少なくても皮下出血や脳内出血、内臓出血などを腎不全などを引き起こす。対処としては、汚染された血液を即座に排出するか、抗血清などによる解毒が求められる。
言いながらテキパキと、荷物を漁りいくつかの薬ととりだす。本来ならば症状をみて、調合したいが、現地へ行くことを許してはもらえないだろう。
ならば。
私は白衣のポケットに忍ばせていた緑の薬を取り出した。材料を分析したら、それだけでちょっと飲みたくないあの緑の丸薬。
数秒のためらいののち、私はそれを口に含んで水で流し込む。
「まっず。」
苦いと、えぐいじゃなくてまずい。辛いとか酸っぱいとも違う。舌が拒絶する感じと喉から全身に走る違和感。しかし、その数秒後にはその違和感が消えて、身体が軽くなる。
「ははは、成功だ。」
少なくとも毒ではない。まるでゲーム見たいな効果に驚きつつ、私は準備を始めた。
「今すぐ、この薬をもってボルド将軍の下へ戻れる?」
「こっちは、解毒薬。刺激が強いから熱がでるかもしれないから最初は一粒で様子見、熱があるならこっちの解熱薬。血の気が足りなさそうなら増血薬。これを飲ませて、ケガは心臓より低くして休ませる、そう伝えなさい。」
言いながら私は、自分のノートの一部を切って薬に添えて箱にしまう。
「いい、将軍は間に合わないかもしれないけど、他の人は救える。急げる?」
「任せてほしいっす。」
「リビオン叔父上、これを、道中で必要な支援は我らが。」
「マルクス、すまない。これが終わればまたゆっくり話そう。」
何やら、進み出たマルクスが渡す首飾り。一瞬おどろきつつもすぐにそれを首にかけるリビオン。獣人にとっては大事なものらしい。が、今はそれも使い潰してぼしい。
「本来なら共に行きたいのだが・・・。」
「いや、姐さんを頼む。この人がこの戦争のカギだ。何があっても守れ。」
そういってリビオンは軽く足踏みをして調子を確かめてから、私の荷物をそっとリュックにしまう。
「リビオン・ルーサー。この任務、必ずやり遂げます。」
「王国からも急ぎ援軍を送っていただきます、御武運を。」
「俺が行っても。いや俺が行く。」
4人の王族(メイナ様も含む)+私に見送られリビオンは、風のようにすばやく去っていた。
「まずはこれでよし。」
リビオンに託した解毒薬は、例の「万能薬」だ。治験はおろか生物には試していない。だから自分の身体で試した。魔力のある私なら、精霊草の毒性は確認できる。
製法と完成度には自信があった。だが、万が一にも毒である可能性があったので賭けの要素があったが、私は勝った。
「すみません、今回の病の特効薬が出来ました。私は、それの増産にうつりますので、他はお願いします。」
返事は待たずに、駆け出していく。
「ハチさん達は、クマ吉とアサギリ村へ連絡。材料を集めさせて。」
「ジジジ(任せて。)」
「サンちゃん、荷物をまとめるから、ボルド将軍のところへ行ける。」
「ふるるるるう(任せろ、一日もかからず行ってやる。」
そうだ、私の家族の力だってフル稼働してやる。
材料がそろうまでに、他の薬も。
「ストラ、落ち着きなさい。材料が集まるまでは休みなさい。」
そう駆けだそうとした腕をメイナ様に捕まれた。
「そうです、準備は私たちにだってできます。」
反対の腕もつかまれてそう諭される。
「王門前とその周辺に兵を配置して場所を確保しろ。説明はあとだ、急ぎ準備するように各所へ通達をいそげ。」
すとんとソファーに座らせる私の間でで、スラート王子が部下たちに指示を出していた。
「では、私は一旦離れて、国のものに連絡を。」
マルクス王子は、そういって飛び出してきた。
「で、薬師様、休むついでに、気を付けることを教えくれ、メモしておくよ、チヨだ。」
「お任せください。」
ガルーダ王子は、そういってチヨさんを残してどこかへ消えた。旅支度?えっマジでいくの?君王子だよね?
「あなたに振り回されるにも、みんな慣れたのよ。」
ほわっと身体が温かくなるのは、メイナ様の回復魔法だ。
久しぶりにかけられたが、身体の底から温かく、力そのものをもらったような感覚。ああ、回復魔法っていいなー、人をダメにする。
と、頼りがいのある友人(権力的な意味で)に囲まれて落ち着きと元気を取り戻した私は、休みながら、事態の予想を語ることにした。
「帝国が持ち込んだ毒、それ今の流行り病。この二つが同時に流行ったら、王都が終わってしまいますよ。」
さらっと言いながら、状況のやばさに私は戦慄していた。
そして同時にうんざりしていた。
(ここにきて、ゲーム。しかも最悪のバットエンド。)
帝国の呪い。謎の病によって王都の人間がバタバタ死んでいくという、とんでもない鬱エンドだ。
、
ヘビの毒は、血に作用する出血毒なため経口摂取よりも傷口からの侵入が怖いそうです。またサソリやフグは神経毒といって、内臓や肺が停止する可能性があるのにたいし、治療次第では