やる事探しの秋
monogatary.comでお題「○○の秋」で投稿していたものです。
神無月。秋が来た。
あの暑かった日々もやっと終わり、束の間の涼しさが広がっている。あと一、二ヶ月もすれば冬将軍が重い腰を上げてやってくるだろう。
唐揚げを食べながらそんなことを考えていると、
「ねえ、さりげなく俺のご飯つまむのやめてくれない?」
と翼が言ってきて我に返る。
「え〜、別に一個くらい良いじゃん」
「そりゃ一個だったら許すけど、何個も取ってるだろ」
「まあ、そう言わずにさ、”食欲の秋”なんだから」
「理由になってないって」
私が彼と一緒に住んでいるのには理由があるのだが、今は割愛しておく。
「……そんなに一気に食べて大丈夫なの?」
「うーん、幽霊だし、大丈夫じゃない? 多分」
「そんな適当で良いんだ……」
言っていなかったが、私は今、幽霊である。だから先程一緒に住んでいると言ったが、どちらかと言うと、勝手にいるようなもんだ。
「あと、俺のお菓子を勝手に食べるのやめて」
こっそり食べているつもりだったが、バレていたらしい。
「……はい」
幽霊になると、あまりやる事が無くて暇だ。
「よしっ!」
翌日の日中。家の庭に出て、絵を描いてみることにした。時間ならいくらでもある。せっかくの”芸術の秋”だ。
翼が学校に行っている間、絵の具を(勝手に)借り、早速描き始めた。久しぶりに描くが、案外上手く描けているような気がする。
生前はこんなじっくりと絵を描いた事がない、ということをふと思った。正直、生前の思い出はあまり良いものが思い浮かばないが、私は一度、あるクラスメイトに絵を褒めてもらったことがある。だから、絵は好きだ。
また会えると良いな、その人に。
「……これ、愛衣が描いたの?」
帰ってくるなり、翼は早速私が描いた絵を見つけてそう言った。
「そうだけど、どう?」
「すごく上手いけど、これどこ?」
「え? 庭だけど」
「いや、うちの庭、こんな森じゃないって」
確か、生前に絵を褒めてくれた人も「発想力豊かだね」とか言ってた気がする。先生も言っていたな。
「まさか愛衣にこんな才能があったなんて」
「すごいでしょ」
「でもこれ、なにで描いたの?」
「……」
突然の図星で言葉に詰まる。翼は私を冷たい目で見てきた。
「だから勝手に人の物を使わない。分かった?」
「……はい」
秋、無くならないでほしいな~