おまけ)子どもたちは父と母に敵わない
「父上にしてやられた気がします」
悔しがるルシオに、フロレンティナが深々とうなずく。
「あそこで母上が父上に抱きつかれるなんて、私も予想しておくべきでしたわ。でも母上も父上もお幸せそうでしたから、私は満足よ」
もうすぐ嫁ぐフロレンティナの言葉に潜む寂しさに、ルシオは気付いた。
姉と毎日のように顔を合わせる日々はもうすぐ終わってしまう。寂しいと連日全身全霊で訴える父のせいか、ルシオまで寂しくなってきた。
「姉上」
「なにかしら、ルシオ」
父のように寂しいと素直に言えなくて、ルシオは口を噤んだ。
「寂しいなら、遊びにいらっしゃいな、お仕事のついでに。父上もそのおつもりでしょうし」
したり顔の姉に見透かされて、ルシオは面白くない。
「はい! 」
ハビエルの素直さが、ルシオの心を逆なでした。
「あい! 」
末っ子のフィデリアの返事は、ルシオの耳にも可愛らしく聞こえる。弟と妹でどうしてここまで違う気持ちになるのか、ルシオ自身にもわからない。別にハビエルが嫌いなわけではない。大事な弟だ。いずれハビエルも婿入りしてこの国を去る。それを思うと寂しいが、寂しいと思いたくない自分もいて、ルシオは自分で自分が面倒くさい。
まだ小さなフィデリアは、フロレンティナが嫁ぐ意味も嫁いだら滅多に会えなくなることも、わかっていないだろう。フィデリアもいつかどこかへ嫁ぐのだ。そのときに姉との別れのことをどう思い出すのだろう。ルシオはフィデリアをどんな気持ちで送り出すのだろう。
感傷的になっていたルシオの耳に、フロレンティナのため息が飛び込んできた。
「それにしても、嫁ぐ前に確かめたかったことの半分も聞けませんでしたわ。心残りですこと」
フロレンティナの目がルシオを捉えた。厄介ごとの気配に、ルシオの背筋に緊張が走る。
「ルシオ、あとはあなたに任せました。父上と母上から、本当のことを聞き出しなさい」
ルシオの嫌な予感が的中した。
「無理難題をおっしゃらないでください。父上と母上ですよ。無茶です。姉上、義兄上に言いつけますよ。姉が、あなたの妻が弟の私に無理難題を押し付けていったと」
「あら」
ルシオの渾身の一撃は、フロレンティナには全く堪えていなかった。
「問題ありません。あの方は芝居好きですもの。義理の両親の若い頃が本当はどうだったのか、大変に関心があるそうよ」
余裕の笑みを浮かべるフロレンティナに、悔しさを噛み締めながら、ルシオは安堵した。
フロレンティナと会えなくなる寂しさと、フロレンティナを義兄にとられることへの小さな嫉妬がルシオの中にはある。それを上回るのが、姉フロレンティナの幸せを願う気持ちだ。
「姉上、では私がそちらに伺うときの土産話を楽しみになさってください」
「えぇ、楽しみにしているわ、ルシオ。待っていますからね。約束よ」
「約束しましょう。姉上」
姉フロレンティナの幸せを、ルシオは大地母神に祈った。
<完>
お姉ちゃんは強い!弟(長男だけど姉に勝てない)は、姉の期待に答えることが出来るのか!(冗談です)
後日譚にお付きあいいただきありがとうございました。
コンスタンサとライムンドのお話は、この後日譚で一段落です。
他にも作品ございますので、是非ご覧いただけましたら幸いです。
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人がすなるえつせいといふものを我もしてみむとしてするなり
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これからも、朝のひととき、お楽しみいただけましたら幸いです