表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雨の日と量子力学

ザーザー

今日のように雨が降るとオレはいつも思う。

なぜ雨を避ける道具は傘止まりなのかと…

素材や構造は変わったとして、江戸時代から我々が雨を避ける方法は傘か合羽しかない。

こんなに科学技術が進歩して便利になった現代でもなお…だ。

世の中の科学者たちは恐ろしい兵器を作ったりしている暇があるのなら

みんなを笑顔にする新しい雨具の開発をなぜしないのかと考えていた。

小学生の頃からそんな事を考えていたオレは、周りに期待するのではなく

自分で傘に代わる雨具を開発すべく理系の道に進んだ。

そして、量子力学に出会いそこに没頭して、

現在も研究者として日々を過ごしている。

雨具を作るはずがなぜか、工学ではなく量子力学に進んでしまったか。

話せば長くなるが、雨具を作る前に雨や水について知らなければと思ったことが発端だったと思う。

そしてそこで性質を知れば雨具開発に役立てるはずだと。

しかし世の中、そう上手くはいかない。

本当は今ごろ傘に代わる素晴らしい雨具が出来上がっていたかも知れない。

なのに、このミクロの世界に広がる未知との出会いは、オレを変えてしまった。

量子力学のなんと心が躍ることか。

学問では往々にしてそうであるが、知ることが増えれば増えるほど

知らない、知りたいことがそれ以上に増えていく。こうなると研究は止められない。

自分の好きなことを研究していると言うことは、

小さい頃に批判した科学者たちと同じではないか。そう悩むこともある。

しかし、今の人生に後悔はない。

この研究も誰かの役に立つかもしれないと思っているから。

ただ、願わくば誰かオレの意志を継いで

傘に代わる便利な雨具を作って欲しい。

それもまた、素晴らしい人生になるだろう。


そこでナレーションが止み画面が切り替わった。

「以上、今年ノーベル物理学賞を受賞した雨宮教授の受賞コメントでした。

なにがきっかけでここまでの研究者になるかは分かりませんね。

…このニュースを聞いた誰かが教授の意志を継いでいつか

便利な雨具を作ってくれることもあるかもしれませんね。

それでは、この時間のニュースを終わります」

女性キャスターは心の中で「受賞のコメントなのに、この人なに言ってんだろう…」

そう思いながらも淡々と話をまとめ、そこで画面はCMに切り替わった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ものすごく共感するエッセーでした。 追えば追うほどほど、本来の目的から遠ざかってしまう理不尽と、それでも自分の選択を後悔しない諦念。良かったです。 もちろん、そういう内面は一般向けではなく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ