田舎娘、したためる
翌朝、ドルチェは聖堂で祈りを捧げていた。老人が多い中、その中に囲まれソワソワとしている。
「若いのに偉いわねぇ。」
隣に座る老婆に話しかけられ、ドルチェは照れる。
神官長であるウベルトが教壇に立つ。だが、ドルチェにはその説教も耳に入っておらず、考えることはやはり目的でもあるルクスのことだけだ。
「あの、お婆さんはルクス様にお会いしたことありますか?」
小さい声で隣の老婆に問いかける。老婆は嫌な顔せず、優しく微笑んだ。
「えぇ、一度だけね。病気をしてたんだけど、治してもらったのよ。」
ドルチェは驚いた。会ったとこがある人がいたのだ。それに驚いたことがもう1つあった。
「病気を治してもらったんですか?本当に?」
「私も最初は信じられなかったんだけどね、痛みもないし、お医者様も驚いてたのよ。」
回復魔法は傷や痛みは癒せても、病気までは治せない。どんなに強力で優秀な魔法使いでも不可能なのだ。それが出来るルクスはまさに神と呼べるだろう。
いつの間にか説教も終わり、聖堂には人がまばらに残っているだけだった。話を切り上げようとしたところに、先程まで教壇にいた神官長のウベルトが老婆へ話しかけてきた。
「その後どうですか?」
「有り難いことにどこも痛くないんですよ。ルクス様には感謝してもしきれません。」
「それはよかった。」
ウベルトはドルチェを横目で確認すると優しく微笑む。咄嗟にドルチェは会釈をしたが、ルクスについて話を聞こうと思った時には、既にウベルトは他の人に話しかけられていた。ドルチェは今すぐにでも話しかけたい衝動を抑え、改めて後日話を聞こうと聖堂を後にした。
ウベルトはドルチェの去った後を見つめる。
(あれがセーアの言っていた少女か……?何を警戒しているのやら。)
セーアを思い浮かべながら、ウベルトはやれやれと肩をすくめるのだった。
『ママ、ロージ、お元気ですか?連絡が遅くなってごめんなさい。無事スピルス大陸に到着しました。でも驚いたことに、ルクス様には会えませんでした。だけど私は諦めません!会えるまで帰りません!
お金のことなら心配いりません。私は今、メルティーと言うお菓子屋さんで働かせてもらっています。店主のヘレナさんはとても良い人で、お客さんも良い人ばかりです。』
ドルチェは便箋にしたためていく。
「お給料が入ったら、少しですが、仕送りしますっと。」
2人の反応を想像し、申し訳無さそうな顔をする。
手紙を出しに行こうと部屋から出ると、ヘレナも何処かへ出かけるところだった。
「お出かけですか?」
「えぇ、お買い物よ。一緒に行く?」
「もちろん!」
ドルチェはまだこの町をよく知らない。郵便物も、どこへ出せばいいかわからなかったため誘ってもらえて運が良かったと、手紙を片手に走り出すのだった。