田舎娘、路頭に迷う
「ええ!?ルクス様いないんですか!?」
あれから最低限の荷物……と言うより、持てる荷物もなく、準備も簡単に心配されながら見送られ、お金も最低限のため歩きで港までやって来てようやく辿り着いた教会本部。しかし肝心のルクスが不在で、ドルチェはショックで暫く動けないでいた。
「それに、一般の方は基本的にお会いできません。」
ルクスは各地の巡回で不在な事が多い。それに、いたとしても特別な事がなければ、一般人の前に現れる事はない。意外にも、スピルス大陸に住んでいる人たちの方がルクスに会う回数が少なかったりする。
「うぅ……せっかく来たのに。宿に泊まるお金も1日分だけだし。」
肩を落とし、教会を後にする。路頭に迷うとはまさにこの事で、各地を探す資金もない。ここで待つと言う選択肢もあるが、結局は資金面の問題に直面するのだ。
いっそこの町で働く場所でも探そうか。雇ってくれそうなお店は……キョロキョロと探す素振りをしていると、教会の裏に人影が消えていくのが見えた。
興味本位で後を追うと、町から抜け森に出てしまった。必死に人影を追う。すると、教会の住民区の裏に辿り着いた。
草かげから顔を出すと、目の前に小さな足があった。見上げると、人影の正体である少女が立っていた。
「こういうの、ストーカーって言うのよ。誰よアンタ。」
少女の名前はセーアといった。耳が人間と異なり、尖っているのが髪の隙間から覗いている。
(エルフかな?初めて見た。可愛い〜。)
「ちょっと、聞いてるの?」
「あ、ごめんごめん。」
どちらが子供かわからない言い合いをする。
「で、何で後をつけてたの?」
ドルチェは待ってましたと言わんばかりに、前のめりになりながらセーアに懇願する。
「ルクス様に会いたいの!」
「はあ?」
セーアの反応をよそに、ドルチェは語り始める。
「昔森で魔物を襲われているところをルクス様に助けられたの!その時は凄い人だって知らなかったんだけど、尊い人だと知ってからはずっと会ってお礼を言いたいって思ってたんだけど、ママが会いに行きなさいって言ってくれてここまで来たんだけど……。」
息継ぎもしているのか怪しい程に早口で喋り続けていたが、突然トーンダウンする。
「会えないに決まってるじゃない。」
ドルチェのテンションについていけず、セーアは引き気味になりながらも冷静に返す。いくら命の恩人だからと言って、易易と会えるはずがない。それに世界中の人間に会っているルクスが、人一人の顔を覚えてくれているとも限らない。
セーアがそう諭すと、ドルチェはあからさまに肩を落とす。
「大人しく帰ることね。」
しかしドルチェはセーアを逃がすまいと、腕にしがみつく。
「お金がないの!」
「アンタ子供にお金せびる気!?信じらんない!」
「子供に聞くことじゃないけど、仕事ないかなぁ!?」
自分より歳が上なのに、なんて世話のかかる人なんだと、セーアは嫌気が差しつつも付き合うしかなかった。