3話 占い
壊れたと思ったスマートフォンから、なぜか可愛らしい声がする。いくら操作しても動かないのに、女の声だけがはっきりと聞こえるのは何故だろう。
とりあえずハーゲンダッツのカラをゴミ箱に投げると、おかしな状況になったスマートフォンをよく見てみる事にした。
「あんた、なんだよ」
「私は、『ネット小説家必見』の配信者。でも、私は天使なの」
自分の頭がおかしくなったと思った。ただ、この声は天使と言われたら納得してしまうぐらい可愛らしいものだった。100人男がいたら全員「可愛い」と認識するような声だった。そこらにいるアイドルや声優と比べも次元がちょっと違う。
地塩も男だ。
可愛い声にすっかりと騙された。こんな非科学的な状況をあっさりと受け入れていた。
「実は地塩くんにどーしてお伝えしたい事があって、配信アプリをちょっと誤作動してみました!」
「そんな事しちゃっていいわけ?」
「いいんです! 地塩くんには、どーしても人気作家になってほしい」
天使は、いかに地塩の作品が素晴らしいか力説した。
健気に語られて、すっかり良い気分になってしまった。しかもこんなに声が可愛いのだ。きっとこの子は天使だ。カラカラの砂漠に水が染み込むような感覚を覚えた。
「だから、地塩くんには出来れば私の言うように作品をちょろっと変えて欲しいんだ」
「ちょろっと?」
その言い方に地塩はちょっと口元がニヤつく。こうして可愛い声の子が下手に出てくるのが、ちょっとおかしくなった。上から言われると腹が立つ。地塩は女に主導権を取られる事は何よりも苦手だった。
「うん。ほんのちょろっとだけ。まず、この異世界転生の短編は、主人公を占い師にして欲しいの」
「え、占い師? それだけで良いの?」
「うん。ちょっとだけ試して見て」
「でも何で占い師なの?」
「世の中の人はね、『自分が神になりたい』という願望を持っているの。占いはその為に最適なツール。不思議な力で願いを叶えたり、未来を当てたりするでしょ? まさに神よ」
確かに。
地塩は頷く。
地塩自身は、占いなど非科学的な事は興味が無いが、人間の願望の奥底に『自分が神になりたい』という欲がある事には心あたりがあった。
「新世界の神になる!」と言っている漫画も人気だし、異世界転生して主人公が邪神になったりするライトノベルは、「小説家になってみたい♪」にもよく載っていた。
天使が単に可愛いだけでは無いらしい。
地塩はさっそく、主人公を占い師に変えて「私はこの世界の神になる!」という台詞を入れて、小説を投稿しなおした。
すると、どうだろう。
驚くべき事が起きた。
一晩でpv数が鰻登り。あっという間にポイント数も増えて1000pt超えてしまった。
「すげぇ、天使ちゃんも言う通りじゃん!」
この瞬間、地塩自身も神になっていた。