2話 不思議な声
ネット工作員のバイトを終えると、地塩はハーゲンダッツの抹茶味のパッケージを開いた。
今日もバカな反ワクチン派に「陰謀論乙」と言って揶揄ってやった。
地塩の工作コメントは、インフルエンサーのイケメン医師になぜか引用RTされてちょっとバズっていた。バイト先からは、地塩のコメントに10万イイネ!がついたので、特別にボーナスが出ると連絡があった。
実にハーゲンダッツが美味い。ほろ苦い甘味が舌の上で溶けて、冷たさが身に染みる。
やっぱりアイスはハーゲンダッツだ。最高のご褒美だ。
工作コメントは少々バズって居るが、「小説家になってみたい♪」の地塩の作品は、閑古鳥が鳴いていた。カラカラの砂漠地帯だ。20作品以上アップしているが、ついに今日は合計5pvしかなかった。
その事を思うと、急にハーゲンダッツが不味くなる。
地塩は気を取り直す為にツイキャスのアプリを開いた。
ツイキャスは、ライブ配信アプリだ。いわばネット上のラジオ局みたいなもので、配信者達が自由に声や音声を発信していた。配信者達の多くは素人だ。しかし、素人故に親しみやすさもあり、地塩は夜から深夜にかけてよく聞いていた。
ネット工作員なんかやっているお陰で、大手の動画サイトやSNSは信用出来なくなってしまった。このツイキャスはバイト先から依頼が無いので、工作員が紛れ混んでいる可能性は低いので普通に楽しめた。
『ネット小説家必見』
ふと、そんな名前の配信者がいるのに気づいて、見てみる事にした。ツイキャスは、お悩み相談をやっている配信者も居る。上手くいけばカラカラ砂漠状態の自分の作品について相談出来るかも知れないと考えた。
さっそくその配信者のページにいき、ちょうど生放送をやっているので聞いて見る事にした。
しかし、その瞬間。おかしな事が起きた。
なぜかアプリが作動しなくなり、スマートフォン自体が動かない。
ついに壊れたか。
ハーゲンダッツの最後の一口を食べながら、冷静に考えていた。
「ねぇ。聞いて?」
スマートフォンは、壊れたと思ったがなぜか可愛らしい女の声が聞こえた。