1話 底辺
【しかし、驚くには及ばない。サタンも光の天使に擬装するのだから。(新約聖書・第二コリント11:14)】
千野地塩は困っていた。
「小説家になってみたい♪」という小説投稿サイトに作品を載せてかた早一年。全く芽が出ない。
ポイントも10から30あたりを彷徨く底辺中の底辺だった。
「こんなハズではなかったんだけどなー」
一人暮らしのアパートで地塩の気が抜けた声が響く。
今は大学生だが、コロナのせいでバイト先の回転鮨屋が潰れて隙を持て余していた。オンライン授業は最高につまらない。
隙を持て余した地塩は、小説投稿サイトに作品を載せる事を思いついた。ライトノベル作家になれば年収8千万円だって夢じゃない。テレビでライトノベル作家の平均年収は8千万円って言っていた。
しかし、そう簡単にはいかなかった。
毎日頑張って書いて更新しても、ポイント数もpvも全く伸びない。書籍化の話はすぐ来るかと思ったが、全くそんな事はない。それどころか感想文すらつかない。
何が悪いのか。
もしかしたら書籍化作家はサクラを雇ってるかも知れないと思った。
地塩は小銭稼ぎでネット工作員もやっていた。反ワクチンやコロナは茶番といっているインフルエンサーにおちょくったコメントを送ると一回数百円貰えるバイトだった。
他にもコロナに感染したレポート四コマ漫画などをネットに描いてあげると一作につき八千円も貰えた。もともと引きこもり体質の地塩にとっては良いバイトだった。
そんなバイトをやっている為、世の中にはサクラというものがある事をよくわかっていた。「小説家になってみたい♪」もサクラ利用がOKなんじゃないかと思い始めた。
とりあえずバイト先にメールでそう言ったサクラがないか問い合わせてみた。答えはノーだった。意外と運営がしっかりとしたところで、サクラのような事をするとすぐアカウントがバンされるらしかった。
だったら、なぜ?
地塩は頭を抱えた。
「誰でも簡単に書籍化作家になる方法が有ればいいのにな〜」
地塩の寝ぼけた声が、真夏の夜に響く。
窓の外からは、蝉の鳴き声が聞こえた。