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第13話

「なるほど……それは忘れられない、かな?」


 実際に聞いてみても体験してみないことにはイマイチ分からないめぐみであった。パンツを脱がされ見られてしまった部分にはついては記憶に残るだろうけど。


 宏樹には瑠璃という幼馴染がいて、晶の恋敵ライバルのはずなのに嫉妬したりせず、話を聞く限り仲良くしているようだ。

 めぐみは晶のことは好きだし仲良くしているが、晶が宏樹に絡むと嫉妬心が湧き上がることがある。晶にはそういった感情が無いように感じる。


「晶ちゃんは久宝さんと仲良くしているみたいだけど、宏樹くんと久宝さんが仲良くしているところを見てその……嫉妬したりとかしないの?」


 めぐみは気になることを遠回しにせず直球で聞いてみた。


「瑠璃ちゃんとひろくんがふざけ合ってるのを見掛けると、いいなぁ羨ましいなぁって思うけど……嫉妬とかは……分からないかな」


 ――やっぱりそうだ。この子はまだ恋をしたことが無いんだ。


 こうやって話を聞いてみると晶の宏樹への好意というのは純粋ピュアなもので、子供の頃の純粋な好意のまま高校生になってしまったという感じがしてならない。


「晶ちゃん……もしさ……私が、宏樹くんのことを好きだって言ったらどう思う?」


 晶は恋を知らないから嫉妬とか感じないのかもしれない。だが宏樹に対し明確に好意を持った女性が現れたらどう思うんだろう? どういう反応をするのだろう? めぐみはどうしてもそれが知りたかった。


「え……? めぐみさん、ひろくんのことが好きなんですか……?」


 少しの沈黙の後、めぐみはコクンと頷いた。


「私は……宏樹くんのことが好き。恋人になりたいと思っているし、キスもしたいと思ってる。それ以上のことも……」


 めぐみは退職する時に宏樹に告白するつもりでいた。だけど、このまま告白するのは恋を知らない晶に対してフェアじゃないと、宏樹に対する自分の想いを恋敵あきらに包み隠さず話した。


「そ、そんなこと急に言われても……」


 めぐみの突然の告白に戸惑う晶。


「ゴメンね。急にこんなこと言われても困るよね。でも、晶ちゃんに隠さず話しておきたかったんだ……」


「めぐみさん……どうして私にそのことを話したんですか……?」


「私……退職する時に宏樹くんに告白するつもりなの。だから晶ちゃんに知っててもらわないとフェアじゃないかなって」


 黙っていればめぐみは有利なはずなのに、わざわざ晶に話したことで同じ土俵に立ちたかったのかもしれない。


 お互いこれ以上どうしていいのか分からない二人の間に沈黙が流れる。


「それじゃ、そろそろ混み始める時間だし仕事に戻ろっか」


 沈黙を破ったのはめぐみだった。


 二人がこういう状況であろうとも仕事はしなければならないのだ。




「休憩終わりましたので業務に戻ります。宏樹くんも休憩に入ってください」


 レジにいる宏樹にめぐみは声を掛けたが、恥ずかしさで目を合わすことができなかった。めぐみは自分の気持ちを晶に告白したことで、宏樹に対する恋心を再び自覚してしまっていた。


「お疲れさまです……あれ? 二人とも何かあった? 難しい顔してるけど」


 めぐみと晶の二人の様子がおかしい事に宏樹は気付いたようだ。


「べ、別に何もないよね? 晶ちゃん?」


「う、うん、別に何もないからひろくんは心配しないで」


 そうは言っているものの二人はお互い顔を合わさずにいる。


「まあ、二人がそう言うなら別にいいけど……それじゃレジをお願いします。俺は休憩に入ります」


 二人が何か隠しているような気がした宏樹だが、今日あったクレーマーのことを考えると仕方がないか、と気持ちを切り替え休憩することにした。




「お疲れさまでした。工藤店長お先に失礼します」


 仕事を終えた宏樹は工藤店長に挨拶し、いつものようにめぐみを家まで送っていくために店の前で二人を待っていた。


 ――結局、晶とめぐみさんはよそよそしい雰囲気のままだったな。後で聞いてみるか。


 忙しいこともあったとはいえ、晶とめぐみはその後も会話をしている様子も無く、宏樹は何かあったのかと気になっていた。


「宏樹くんお待たせ」


 閉店した店の入口からめぐみだけが出てきた。


「あれ? 晶は?」


「晶ちゃんはもうすぐ出てくるよ」


 いつもは一緒に出てくるのだが、やはり今日の二人は何かおかしい。


「めぐみさん、晶と何かあった?」


「べ、別に何もないよ。どうして?」


「休憩時間の後からなんとなくだけど、いつもの二人と違う感じがして」


「たぶん……クレーマー客のせいじゃないかな? 晶ちゃん結構ショックを受けてたみたいだし」


 宏樹にこれ以上追及されないようにめぐみは嘘をついた。


「そっか……まあ、そうだよな。俺は慣れちゃったけど最初はどうしていいか分からないよな」


「休憩の時にフォローしておいたから大丈夫だよ……きっと」


「めぐみさんがいてくれて助かるよ。ありがとう」


「そ、そんなことないよ……私なんか……」


 二人がよそよそしい雰囲気になっているのは、休憩時間にめぐみが宏樹への好意を晶に話したからである。だから宏樹に感謝されためぐみの心は後ろめたい気持ちで覆われた。


「ひろくん、めぐみさんお待たせしました」


 会話が途切れたタイミングで晶が店から出てきた。


「それじゃあ、俺はめぐみさんを送って行くから晶は気を付けて帰れよ」


「今日は私も一緒に帰る」


「え? 晶も一緒にってどうやって?」


「私も一緒にめぐみさんの家まで行くから」


「でも、それだと遠回りになっちゃうし、かなり遅くなるよ?」


「それでもいいから」


 やっぱり今日の晶はどうかしている。こんな頑な晶を見るのは初めてで宏樹はどうするか悩んだ。一緒にめぐみに家まで行ってから駅まで戻ると、晶が家に帰るのは二十三時を過ぎてしまう。


「あの……宏樹くんは晶ちゃんを送ってあげて」


「でも、それだとめぐみさんが……」


「一人で帰る時もあるんだから私は大丈夫。それじゃおやすみなさい」


 めぐみは踵を返し走り去ってしまう。


「あっ、めぐみさん待って!」


「ひろくん行かないで!」


 晶はめぐみを追い掛けようとした宏樹の腕を掴んだ。


「晶……」


「今日は行かないで……」


 懇願する晶の眼差しを見た宏樹はめぐみを追い掛けるのを諦めた。


「分かった……今日は家まで送っていくよ」


「ワガママ言ってごめんなさい」


「いや、いいんだ……帰ろうか」


「うん……」


 こうして宏樹は晶を家まで送っていくことになったが、駅までの道のりを二人は無言で歩いていった。

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