二重人格4
いよいよ、最終話なので、最後まで読んで欲しいです。
もう一回言っときますが、ヒィクションです…。
牢屋に入ってから五ヶ月が過ぎた。
もう生活にも大分慣れた。
でもまだ。
俺の中のもう一人の自分は暗闇に身を包んだまま出てこない。
いつも呼んだ。
早く出てきてくれって。
いつまで待たせるんだ!って。
なのに、あいつは一言も返さない。
もし、ずっとあのままだったらと思うと震えが止まらなくなった。
どうしたらいいんだろう?
俺は一人で考えた。
誰にも言えるわけがない。
何故だ?って?
そんなの決まってる。
誰にもどうすることもできないからだ。
誰かに何かできるなら、そんなのもうとっくにやってる。
「はあー。」
俺は深くため息をついた。
牢屋の天井に届きそうなくらい高いところに小さい窓がある。
その窓から見える青空は、「今日も晴れてるよ」と教えてくれる。
小鳥のさえずりが耳に静かに響く。
未だに帰ってこないもう一人の自分の気持ちはどこでみつければいいのだろう?
早く言いたい。
「もう、俺がいる意味はないから。」っていなくなりたい。
そのときだった。
「おい。香蓮。外に行くぞ。」
久しぶりに見た顔はどこか懐かしくて胸が切なくなった。
栞。
またその人の名前が頭にちらつく。
「わかった。」
俺は重い気持ちになりながら、ゆっくりと立って嘆崎の傍に行った。
きっと、そんな顔をしていたからだろう。
「まだ、もう一人はいないのか?お前は裏のほうだろ?」
嘆崎は心配そう俺に尋ねてきた。
どうせ、何もできないくせに。
「もう一人がいないんじゃない。もう一人の心がないんだ。意識がないんだ。」
俺はだんだん腹が立ってきた。
偉そうなことを言ってるくせに俺ともう一人の自分の気持ちをわからない。
なんて鈍感なんだと俺は呆れた。
「つまり、姿形はあるのに、受け答えをしないってことか?」
眉間にしわを寄せ嘆崎が首をかしげた。
なんとなく愛くるしくて可愛いと思った。
こんな姿を見せることは中々ないのに。
「ああ、そうだ。」
俺は目を逸らしながらそうつぶやいた。
めんどくさい。
俺が恋愛をすることが考えもしなかったことだ。
こういうときにどうしたらいいかわからない。
「そうか。でも、どうやったらその心は戻るんだろうな?」
俺と嘆崎は歩きながらそんな話をしていた。
歩幅をあわせてくれる嘆崎はやっぱり大人なんだなと俺を実感させた。
いつも、そうだったのかもしれない。
俺が本当は嘆崎の傍にいたいってときに必ず、傍にいてくれと言ってくれる。
俺が不安なときは話しをきいてくれる。
ああ、そうだったんだ。
何で気づかなかったんだろう。
いつも、影に優しさがあったのかもしれない。
ごめん。
俺は心の中で何回もつぶやいた。
本当は声に出して言いたいけど。
でも、出そうとしたときに喉で引っかかる。
言ったら何かが壊れそうで怖い。
頑張って作ってきた壁が全部壊れてしまうような気がした。
・ ・ ・ ・ ・
ゆっくり歩いた先には、大きく風が吹く風車小屋だった。
「ここは…」
俺は唖然とした。
鮮やかに緑色をした草花達が楽しそうに揺れていた。
俺の肺に綺麗な空気が流れ込んできたのがわかった。
「いいだろう。ここさ、俺が小さい頃によく来たんだ。つまんなかったり、悩んでたりしてたときに、よくここにきたんだよ。いいだろう?ここ。」
嘆崎は満面の笑みで俺にそう言ってきた。
俺は心が温かくなったのを感じた。
「うん。」
俺はすごく感動した。
生まれて初めてこんな綺麗なところを見たような気がした。
体に当たる風が生暖かくて、生きてるって感じさせてくれた。
「まだ、栞っていう人のことが好き?」
俺は尋ねた。
今なら少しずつ話していけるかもしれない。
「うーん。今は思い出かな。でも、今逢えるなら。逢いたいかな。ちゃんと話せなかったから。」
そのときだった。
俺の耳にも響いた。
「賢治。」
綺麗な透き通るような声。
ふんわりと花の香りが漂ったとき。
目の前に現れた。
「賢治、久しぶり。」
やんわりと目じりを下げて笑った顔がとても綺麗だった。
この人って。
嘆崎は驚いた顔で一言つぶやいた。
「栞。」
目からこぼれる涙を拭いながら嘆崎は話し始めた。
「ごめんな。あのときにお前を守れなくて。守るって約束したのに。本当にごめん。」
嘆崎は泣きながら深く頭を下げた。
そんな悲しそうな嘆崎を栞さんは一目見て言った。
「賢治。私は賢治にいろんなことで守られてきたわ。だから、今回の件はあなたが謝ることじゃないの。ただ、気になることが一つあるのよ。だから、まだ、ここにいるの。きいてもいいかしら?」
栞さんは優しく微笑みそう言った。
柔らかそうな白い肌はまるで雪のよう。
とても、あたたかい。
そして、寂しい。
「なんだ?」
嘆崎は下げていた頭をゆっくり上げてそう尋ねた。
栞さんは少し寂しそうに聞いてきた。
「賢治の横にいる人は誰?」
栞さんは小さく首を傾げた。
光を灯し温かく見つめる瞳。
「この人は二重人格とのことで刑務所に入っている夕月 香蓮だ。」
嘆崎は寂しそうな顔をして、そう言った。
俺は軽くお辞儀をした。
「香蓮さん。とてもいい名前ね。ちょっと、耳を貸してくれないかしら。」
栞さんはとても温かい笑顔で俺のことを手招きをした。
俺はその指示に従った。
栞さんは俺の耳元で小声で話してくれた。
「あなた、賢治が好きでしょ?」
栞さんにそんなことを言われたから、俺は体を思いっきり反応させてしまった。
「そ、そんなことはないですよ。」
声が裏返りそうになった。
そんな俺を栞さんは笑ってコショコショ話で言ってくれた。
俺はその栞さんの話でびっくりした。
そして、大きな自信を持てた。
「そのことが言いたかったの。この話をあなたの心に置いといて。そうすれば、何も失うことはないから。これで私は安心して、成仏できるわ。それじゃあね。賢治も元気でいてね。」
ぱぁー…
俺達にそう言い残して栞さんは行ってしまった。
金の光が俺達を包んだ。
「栞はなんて言ったんだ?」
嘆崎は俺に尋ねてきた。
でも、俺は。
「内緒。」
そう言ってまた歩きだした。
そのときだった。
意識が異空間に戻された。
「ああー疲れた。やっと、お出ましか。」
俺の目の前には久しぶりに見る瞳に光を灯したもう一人の自分だった。
「ずっと、ごめんね。迷惑をかけて。でも、やっと、戻れた。」
優しく微笑む自分の顔が美しいと思ったのは俺の性格じゃないから。
「栞さんの言葉が聞こえたんだな。じゃあ、俺の出番はこれで終わり。それじゃあな。あばよ。」
消えようとした、そのときだった。
ギュッ!!
いきなり手を掴まれた。
初めてもう一人の自分に触れた。
「だめ。消えちゃ。私の心と、あなたの心は一緒なんだよ。だから、思って。想像して?気持ちを半分にしてくっつけるの。」
そう言ってもう一人の自分が俺の両手を握り、額をくっつけた。
そのときだった。
温かい風が俺ともう一人の自分を包み込んだ。
心から体まで全部温かい風が染み込んだ。
ああ、もう迷わなくていいんだ。
もう、泣かなくてもいいんだ。
目を開いた。
私と俺。
でも、もう私。
「嘆崎さん。」
私は嘆崎さんに微笑んだ。
久しぶりの笑顔は顔の筋肉が引きつりそうになった。
でも、嘆崎さんは驚きもせずに言ってくれた。
「おかえり。待ってたよ。」
優しい笑顔。
それは、きっと栞さんには見せたことがないだろう。
何故わかるか?って?
わかるよ。
好きだから。
嘆崎さんから伝わってくる。
嘆崎さんは私の手に自分の手を絡める。
淡い綺麗な空気。
近づく私と嘆崎さんの距離。
どんどん加速していく鼓動。
でも、温かい。
いつの間にか二人の距離は無くなっていた。
温かい嘆崎さんの腕の中。
ずっと、求めてきた。
好きです。
心でそう言った。
ギュッ
あ、返事が返ってきた。
〔好きだよ。〕
嘆崎さんの声で、ぬくもりで伝わってきた。
・ ・ ・ ・ ・
エピローグ
「ねぇ、賢治。どうして、私は死刑にならなかったの?」
新聞を広げる賢治に私は首を傾げながら尋ねた。
私は二十歳。
そして、今同居している賢治はもう三十五歳。
「ん?内緒。」
新聞に夢中になりながらそう言って教えてくれない賢治。
でも、私は気にしなかった。
「栞さんがあのときなんて言ったか、教えてあげようか?」
私は少し笑ってそう言った。
賢治は新聞を下げながら驚いた顔をした。
賢治が驚くのも無理は無い。
この栞という名前を出したのはあの亡くなってしまったはずの栞さんを見たとき以来だったからだ。
「あのときに栞さんはね。[これからはあなたが賢治を支えていくのよ。何年も、これからずっと。あなたと賢治は赤い糸で繋がってるから。]って、言ったのよ。」
私は笑ってそう告げた。
そのときだった。
「あはは、そんなこと、俺にはわかってたよ。本当は夜に渡そうと思ってたんだけど……はい。」
そう言って紺色の毛皮のケースに赤いリボンが結んである四角い箱を私の目の前に置いた。
私は笑って、その箱を開けた。
綺麗に輝くダイヤ。
私は大事に箱から出して、左手の薬指にはめた。
「結婚しよう。」
賢治が私を真っ直ぐに見つめて言った。
私は微笑んだ。
「当たり前じゃない。なんのためにここに私はいるのよ。」
強気な私は、もう一人いた自分。
でも、今は一人の自分。
賢治がいてくれなかったら、私はどうなっていたのだろう。
私は目の前に座っている賢治を見つめながら考えていた。
そして、お湯が沸騰したのを聞いてキッチンに急ぎ足をした。
これからは、もっともっと、いい思い出を…
あなたと一緒に……
終わり…
最後まで読んでくださいりありがとうございました。




