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人生は平等ではない。
揺れる蝋燭の炎、テーブルの上に置かれたクリームたっぷりのケーキ、笑顔の両親に、手渡されたプレゼントに綻ぶ、髪の長い少女の笑顔。
『』
交わされる会話は聞こえずとも、目の前の光景だけで楽しい誕生日パーティーの様子が見てとれた。少女がケーキを頬張ろうと口を開けたとき、ふいにその視線が左後方へと逸れた。
バンっ、と。どこかでガラスを強く打ち付けるような音がしたが、少女が気を取られたのはそれではなかった。少女は左後方に視線をやったまま立ち上がると、そちらの方向へ小走りで向かっていく。また、バンっバンっ、と今度は二度音が響いたが、少女の耳にはその音が届いていないのか、振り返ることなく少女は辿り着いた先で玄関のドアへ手を掛ける。
(!!)
はっ、と息を呑む音がその空間に響いたが、やはり少女には聞こえていないようで、その音を無視したまま、ドアの向こうに現れた人物に少女の瑠璃色の瞳が丸く見開かれる。
『梨璃子・スメラギさんですね』
硬質な男の声が、初めてその世界に響き渡った。梨璃子と呼ばれた少女の視線の先には、黒いスーツをキッチリと着込んだ男が二人、無表情で立っている。
『お誕生日おめでとうございます。こちらをどうぞ』
(…………)
『……ありがとう、ございます?』
男達の声に答えるように梨璃子と呼ばれた少女の不思議そうな声が初めてその場に響いた。突然現れた男たちの意味は分からずとも祝いの言葉を満更でもなさそうに受け取ると、梨璃子と呼ばれた少女はスーツの男の片割れに差し出された立派な封筒を受け取り、不思議そうに眺める。男達の視線が今すぐ開けろと無言の圧力をかけているようで、梨璃子と呼ばれた少女は促されるまま封蝋されたそれをゆっくりと開いた。中から一枚の紙切れを取り出すと、梨璃子と呼ばれた少女の動きがぴたりと止まる。
(………………)
『罪人、候補生? 私が?』
紙面に踊る文字が信じられず、梨璃子と呼ばれた少女は瑠璃色の瞳を大きく見開いて男たちを見上げた。男たちは無表情のままゆっくり頷くと、感情を含まぬ声でこう続ける。
『残念ながら十五歳まで能力の間に能力を見つける事が出来ませんでしたね』
『我々と一緒に、あなたの能力を見つけましょう』
『え?』
(…………………………)
突然の暗転と共に、世界はそこでまた音を失くした。気が付くと、後ろ髪を引かれるように意識は暗い水底に引きずり込まれ、ぶくぶくと、水泡のようなものが上方へ上がっていくのがぼんやりと見える。
薄れゆく意識の中で、一つだけ確かに分かったことがあった。
(ああ、これは悪夢だ)