6話 あっけらかん
「こんなところで、死んでたまるかああああああ!!!」
小細工もからめ手も使いようがない。
ただただ『思いきり』やるだけだ。
魔力を右の拳に集中させて、【次元魔法】をぶちかます!
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」
お互いに獣のごとき咆哮を上げていた。
そして、俺とスノーベアが交差した直後――
スノーベアが後方へとぶっ飛んで行った。
「……ま、まじ?」
飛ばされたスノーベアは、後方にあった大木にぶつかり、それだけに飽き足らず大木をへし折って、ぐにゃりと崩れ落ちた。
ピクリとも動かない。
絶命したのは明らかだった。
たった3歳の男の子が、2メートル級の魔物を吹っ飛ばす。
外側から見たらどんな光景だったのだろう?
《言っただろう。あんな犬っころ、【次元魔法】の敵じゃない。……ドラゴンとかが空いてだったら、ちょっとだけ苦戦するかもしれないがな》
爆発的な攻撃を受けたのは、スノーベアだけじゃなかった。
後方にあった大木もそうだが、拳から繰り出した【次元魔法】が波動となって前方に広がり、前方の地面がクレーターと呼べるほどにえぐれていた。
「これだけの力があれば……守れる」
《今出した技の名前は、『空間歪曲』。文字通り空間をゆがめて、空間ごと相手をつぶす》
「歪曲……」
《ただし、厄介なのが魔力切れだ。今の攻撃だけで総量の半分は持っていかれたはずだ。これから先、特訓していくのは【次元魔法】のコントロールだな。今のスノーベアだって、さらに圧縮して小さく放てばピストルみたいに頭を打ちぬいて殺せるんだ》
「ついでに魔法をたくさん使うことで、魔力の総量を上げていく感じか」
《そういうことだ》
……それにしても、気になることがある。
テレポートする場所は正確には決められなかったけど、ここは村からどれくらい離れているのだろう。
かなり近かったなら、またしてもスノーベアが村を襲ってきた……?
《たしかに、何らかの原因があるのかもしれない。遠出できない以上、確かめようがないが》
いつものように俺ができることは決まっている、か。
《ああ、それから》
ディメンションは、話題を変えて告げる。
《あと1年以内には、ルリアもこの世界に誕生するだろう。ルリアが現れた時にしっかりと森の中を探せるように、今から準備しておこう》
「……って、もりのなかをさがすの!?」
《世界がどれだけ広いと思っているんだ。転生先の座標をほぼ合わせただけでも、お前が行使した【次元魔法】は良いものだった》
「だけどもし、まものにおそわれでもしたら……!」
《ああ、だからこそ、この1年以内に新しい魔法を覚えなきゃいけない。【空間探知】という魔法だ。名前からどんな魔法かは想像できるだろ》
とにかく大丈夫だから、とディメンションは俺を落ち着かせようとする。
《ひとまずテレポートで帰ろう。あまり長居すると、家族に気づかれてしまうかもしれない》
「……わかった」
いつものように意識を集中させて、俺は森の中から姿を消した。
♦ ♦ ♦
「お、おにいたんが……!?」
アリシアにテレポートの瞬間を見られました。
しまった……!
絶対にバレないように、家にある倉庫の中を転移先にしたというのに。
なんでアリシアがここにいるんだあああああ!
《落ち着け。見られたと言ってもアリシアは幼い。成長するころには忘れているだろうさ》
た、確かに。
……だが、次からはもっと気をつけなければ。
「どうしたの? おにいたん。どうしてきゅうにでてきたの?」
アリシアはきょとんと首をかしげる。
かわいい。
俺は微笑みながらアリシアに近づいて、彼女の黒い髪をそっとなでた。
「いつかアリシアが大きくなったら、おしえてあげるからな」
「……うん!」
ああー、素直で助かった。
「アリシアー! 倉庫は暗くてあぶないから入っちゃだめよー。……あら、グラド。いつのまに……! こんなところで何をしているの?」
マイマザー、あなたこそ何故ここにいらっしゃった……。
って不思議なことでもないか。
アリシアを外で遊ばせている以上、付き添っていなければおかしい。
「た、たんけんごっこ!」
「まぁ。ここは危険だから入っちゃだめよ。……というか、ごめんね。ちゃんと気づいてあげなくて、お父さんにも怒られてしまうわね」
自分を責めないでくれ、お母さん。
ちょっと森まで飛んでって、とんでもない熊を倒して、また家まで飛んできただけだから!
……自分で言っててすごいなと思う。
さっきも思ったけど3歳がすることじゃないや。
まぁ、なんにせよ。これからは気を付けよう。
近いうちにルリアもやってくるみたいだし。
「……たのしみだな。はやくあいたい」
「グラド、何か言った?」
「ううん! なんでもないよ」
ルリアが村にやってきたら、誰の家庭に引き取られるのかな?
そのあたりはうまい具合に、ご近所さんの家であってほしい。
新たに輝く未来を求めて、この時の俺の胸は高鳴っていた。