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1話 世界の狭間で未来を誓う

新連載始めました!

よろしくお願いいたします!


 世界の狭間、みたいな場所がある。


 人間と神がかかわりを持てる場所。




「これでこの世界は永劫、平和になることでしょう。あなたの役目は終わりです。今まで本当によく動いてくれました。感謝していますよ。グラド」


 目の前に君臨する女神は微笑む。


 そのすました顔をぶん殴れば、少しは顔色を変えるのか?


「ふざけるな。なにが平和だ……! 2人をあれだけ苦しめておいて、どの面でそんなこと言いやがる!! アリシアもルリアも、あんなふうになるために勇者と魔王になったわけじゃない!!」


 アリシアは人族のために、ルリアは魔族のために。

 幼い子供だったあの子たちはそれでも、世界中にいる民のために、世界のために生きると決めた。

 

 自らを気にせず、役に立てるならと。

 だと言うのに……!


「あんな……! あの2人が、この世のすべての者から虐げられるなんてあっていいはずがないだろう!!」


 アリシアは元は孤児だった。

 だが、預言者による神託があり、聖剣に適合した彼女が『勇者』として選ばれた。


 ルリアの育ての親は魔物だった。

 だが、突如『魔王』としての力が覚醒し、多くの魔族に認められるようになった。


 少なくとも最初は、アリシアもルリアも、皆から慕われていたのだ。


 だけど、ある時突然、何かが狂った。


 人々はアリシアを差別し、迫害しだした。

 祟りだ疫病神だと彼女を痛めつけて。

 まるでそれが義務であると、奴隷よりも酷い暴行をアリシアは受けるようになった。


 魔族はルリアを幽閉した。

 閉じ込めたまま、彼女の力を無理やり奪い続けた。

 誰にも助けを呼べず、たった一人で。


 こんなふざけた話があるか?


「お前は一体、2人に何をしたんだ!!」


「『何かをした』のは、貴方も同じなのですよ? 醜くて無能な、私のグラド」


「……っ!! だまれ!!」


「私は再三再四、言ってきたはずです。世界の平和のために、勇者と魔王を殺しなさいと。勇者を殺せるのは魔王。魔王を殺せるのは勇者。そして、異世界から転生してきた貴方だけなのだと。……なのにあなたは、逃げ続けた」


「俺は……っ!!」


「殺すのが怖かったですか? 勇者と魔王を好きになってしまいましたか? 子供ではないでしょうに……愚かです。殺さなければ、世界中にわたって戦争が起こってしまうのですよ」


 勇者には力があった。

 人々は勇者を見ると、自分たちの繁栄を願わずにはいられなくなるらしい。

 勇者様に付き従い、より良き世界を目指そうとする。


 魔王もまた同じ。

 魔王に感化された魔族は力に呑まれ、すべてを支配しようと欲を抱く。


 結果的に待つのは、人間と魔族の全面戦争。


 だから、その前にアリシアとルリアを殺す。


 それが、異世界転生者として、女神のしもべとなった俺の役目だった。


「結局、あなたは何をしたかったのですか? 何も力をもたないのに、殺さないどころか話しかけて仲良くなろうとして、その先の未来でどれだけの命が失われると思っているのですか?」


 否定できない。


 確かに俺は無能だ。

 どう取り繕おうが、俺は彼女たちを殺せなかった。

 

 世界をただ危険にさらしたのと同じだ。

 殺さなかった、ですらない。


 だけど、

 だけど……!


「だからって、あんなにひどい目にあわせる必要はないだろう! 俺を利用して2人に『呪い』をかけることができたなら! ただ苦しませずに殺せばいいじゃないか!!」


「他でもない殺せなかった貴方がおかしなことを言いますね。私が彼女たちを手にかけることは許せると。……ふふ。まぁいいでしょう。殺してもよかったのですが。今回は貴方の無能さを考慮して、勇者と魔王に呪いをかけるほうが都合がいいと判断しました」


「なぜだ……っ!!」


「私がかけた呪いによって、勇者と魔王は威光を失い、世界中から敵意を向けられるようになりました。こうなれば勇者が先導する軍隊が作られることも、魔王軍による侵略もない。そして2人が生きている以上、次の勇者と魔王が生まれることもない。永遠の平和が訪れます」


「それはアリシアとルリアが永久に地獄を見るということじゃないか!!」


「長い年月をかけて、いずれは精神が崩壊し、死に至るでしょう」


 ふざけるな! ふざけるな!


 世界の平和のためなら、2人をどれだけ傷つけてもいいっていうのか!


「だったらもう一度俺を2人の下へ向かわせろ! 今度こそ……!」


「勇者はすでに王都の牢獄に。魔王は魔王城の最奥に。非力な青年が、どうやって向かうというのですか?」


「それは……っ!」


「もういいのです。グラド。貴方のような人間が私の手足であったことは、正直なところ辛かった。しかしようやく、これで私と貴方の役目を終わらせることができます」


 直後のことだった。

 女神の手が俺の肩に触れた、その瞬間。


「貴方を、私の世界から追放します」


 耐えようのない激痛が、俺の身体を襲った。


「ぐああああああああああああああああああああ!!!」


「まずはわずかに授けた神の権能を取り除かなければなりません。それが終わるまでの辛抱ですよ。そのあとは貴方の記憶をすべて抜き取り、再び下々の世界に戻しましょう。何もかも忘れて生きていきなさい。それが私にできる最大限の慈悲です」


 忘れる……?


 やめろ……! やめてくれ!!!


 俺のせいだ。

 俺がアリシアとルリアを地獄へ落としてしまった。


 すぐに2人を殺していれば、こんなことにはならなかった。


 なのに俺だけ忘れて、2人はずっとずっと苦しみ続けるのか。

 俺だけ楽になるとでもいうのか。


 嫌だ! 忘れたくない!

 こんなところで終わりたくない!


 俺はまだこの世界で何もできていない!

 何も、してあげられていない!

 

 わすれたくない、なにも、だから、だれか……!


 …………。


 ……。




《だったら、お前はいったい何を望む?》




 どこからか、声がきこえる。


「……どうやら今になって、グラドの能力が開花したようですね。異世界転生者としての能力ですか。神々である我々高次元の存在にも干渉する魔法……」


《女神が騒いでいる。時間がない。お前が今望んでいるものは何だ?》


 望んでいるもの……?


 そんなの、決まっている。


 俺がすぐに殺していたなら、アリシアとルリアは……。

 あの時殺していたなら……。


《それは、本当にお前の望みか?》


 どういう意味だ?


《そもそもお前は何故、アリシアとルリアを殺せなかった?》


 それは……。


《彼女たちを辛い目にあわせたくなかったからだろう?》


 ……そうだ。


 誰よりも一生懸命にいきていたあの2人に、


「しあわせになって、ほしかった……!」


《そうだ。それがお前の望みだ》


 だけどいまさら、それを叶える方法なんて……。


《【次元魔法】を発動する。詳しく説明する暇はない。端的に言えばアリシアとルリア、そしてお前をたった今から転生させる》


 もう一度、転生を……!?

 それに、アリシアとルリアも……!


《遠方の村の子供として生まれ変わり、神の干渉から逃れて身をひそめる。そしてお前が、2人の力になるんだ。強くなって、2人を守れるようになれ》


 俺に、そんなことができるだろうか?


 いや、できるかじゃない。

 やるんだ。


 じゃなきゃ何も守れない!


「わかった……!」


【次元魔法】だか何だか分からないけど、こんな俺に差し伸べられた最後のチャンスなんだから。


「女神……!」


 俺は改めて、こちらを見つめる神に告げた。


「追放と言ったな……? だったらもう2度と俺には関わるな。俺は俺のやり方であの子たちを救う……!」


「私が、世界を脅かす存在を見逃すと思っているのですか?」


 ああ、許さないだろうな。


 いつの日か、未来で、この女神と戦わなければならない日がくる。

 なんにも力のない俺だ。

 だけど、絶対に思い通りにはさせない。



「今度こそ俺が、あの2人を幸せにしてやる……!」 



 次の瞬間、俺の意識はぷっつりと途切れた。


 だけど、想いは途切れさせやしない。


 あいつらが笑っていられる未来をつくる。


 俺が望むのはそれだけ。


 それだけだ。


 

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