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1-5 いざダンジョンへ

 昨夜は、興奮と緊張であまり眠れなかった。ダンジョンプレイヤーとして初めて仲間ができたことと、何よりずっと苦しんできた闇属性から解放されるかもしれない期待が、僕の緊張と興奮を昂らせていた。


 約束の時間に登校し、校舎裏へと急ぐ。天気はあいにくの曇空だけど、ダンジョンに潜るなら関係ないと割り切って悪い予感を打ち消した。


「遅いんだけど」


 これでも約束の時間二十分前に来たのに、既に来ていた神崎と早瀬が非難の声を同時に上げた。よく見ると神崎にはクマができていて、どうやら僕と同じくあまり眠れなかったみたいだ。


「みなさん、揃いましたね」


 冷たい視線に頭をかいていると、助け舟のように鈴木さんが姿を現した。ノーネクタイのスーツ姿に、相変わらずのアームカバーが時代錯誤を主張していた。


 鈴木さんには、僕らの引率をお願いしている。僕と神崎は、ダンジョンプレイヤーだけどスキルの使えない素人同然だ。だから、万一今日の試みが失敗した場合に備えて同行してもらうことにした。鈴木さんも、年だから戦闘には参加しないという条件で引き受けてくれた。


「これからやることを説明するけどいい?」


 鈴木さんの登場で仕切り直しをした神崎が、これからダンジョンでやることを説明し始めた。


「これからダンジョンで魔物と戦うんだけど、注意点がある」


 神崎が示す注意点のは、神崎が属性反転のスキルを使っている間は、スキル発動の詠唱しかできないらしい。つまり、僕の属性を反転させている間は、神崎は戦闘に参加できなくなるという。また、属性反転のスキルが発動するには多少の時間がかかるから、僕が闇属性を解放するタイミングも重要になってくるみたいだ。


「あと、属性反転は長くても五分が限界だから、使うタイミングも慎重に選ぶ必要がある。五分が過ぎたら、再度詠唱するには時間がかかるから、そのあたりはシビアに考えてほしい」

「要するに、僕の属性を解放するタイミングを見極めろってことだね?」

「そういうこと。属性反転の詠唱中は、私は何もできないし無防備になるということも覚えておいて」


 神崎の遠回し気味の言葉に、僕はあえて深く頷いた。詠唱中に無防備になるということは、一番に身の危険が迫るということだ。つまり、神崎が属性反転の詠唱に入ったら、僕と早瀬は魔物と戦いながら神崎を守る必要があるということだった。


「説明は以上だけど、後は実戦で調整したほうがいいかな。それよりも、まずは属性反転が成功するかどうかにかかってるんだけどね」


 意味深に呟く神崎に、僕は大丈夫だと目で訴えた。根拠はないけど、きっとうまくいくような気がしていた。


「ではみなさん、どのダンジョンに行きますか?」

「はいはーい、それなら私のマーキングを使えばいいと思います」


 鈴木さんの言葉に、早瀬が張り切るように手を上げた。マーキングとは、ダンジョン攻略に欠かせないスキルの一つで、一種の移動スキルだ。ダンジョン内にマーキングの魔法陣を残しておけば、いつでもマーキングした場所へと移動することができるという便利スキルだった。


「初心者向けのダンジョンがありますから、まずはそこで試してみましょう」


 早瀬が神崎の腕にくっつきながら得意気に話すと、神崎も満足そうに笑みを返した。いつの間にか二人は仲良くなっているみたいで、早瀬はおかまいなく神崎に甘える猫みたいだった。


「じゃあ、よろしくな」


 準備完了とばかりに早瀬に伝えると、早瀬は目を大きく見開いて腕を組んだ。


「勘違いしないでね。私は神崎先輩の為にやるんであって、お兄さんの為じゃないんだから」


 冷たくあしらうような早瀬の仕草に、僕も神崎も苦笑するしかなかった。どうやら僕は、早瀬に気に入られてはいないみたいだ。


「ま、神崎先輩とバディを組むなら、仕方なく支援してあげてもいいんだけどね」

「それは助かるよ。よろしくな」


 そっぽを向いた早瀬に手を差し出すと、早瀬は僕の手と顔を忙しなく見ながら頭をかいた。


「あくまでも支援だからね。そこんとこ忘れないでね」


 軽く僕の手に触れた早瀬は、脱兎のごとく神崎の隣に戻っていった。


「じゃ、いきますよ」


 属性を解放させた早瀬が、茶色の瞳をみんなに向けて大きく両手で円を描いた。


 ――目の色が濃いな。見た目以上にランクが高いのかな


 早瀬の目を見て、ふとそんなことが頭を過った。属性解放した場合、その属性に応じた色が瞳に宿ることになっていて、色が濃いほどランクが高いことになる。今の早瀬の色は、少なくともBランクはありそうな気がした。


 そんなことを考えている間に、早瀬が描いた円の中に魔法陣が浮かび上がった。


「じゃあ、ゴブリンの洞窟に向けてレッツゴー!」


 まるでピクニックに行くかのようなノリの早瀬に、鈴木さんが目を細めて微笑み、神崎はやれやれといった感じで苦笑した。


 初めてのパーティーで挑むダンジョンに、再び軽い興奮と緊張に包まれた僕は、属性反転が上手くいくことを祈りながら魔法陣に手を当てた。


 ◯ ◯ ◯


 数秒間のブラックアウトの後、すえたカビの匂いが鼻をくすぐった。夏の日射しだった世界が一転し、暗くひんやりした空気が火照った体を包んでいた。


「ちょっと待ってくださいね」


 暗闇の中、早瀬ののんきな声が響き、しばらくすると仄かな明かりが壁に広がり始めた。どうやらスキルを使って土を活性化させ、洞窟内を明るく灯してくれたみたいだ。


「ここがゴブリンの洞窟ね」


 スニーカーの靴底から伝わるゴツゴツした感触を確かめていたところに、意外にも近い場所から神崎の声が聞こえてきた。


「そ、そうみたいだね」


 横を向いたすぐ間近に神崎の顔があり、仄かな明かりに照らされた横顔が余計に綺麗に見え、僕の心臓が裏返りそうなほど跳ね上がった。


 ――びっくりした


 さりげなく少しだけ距離を取って気持ちを落ち着かせる。流れるままここまで来たけど、よくよく考えたら神崎とバディを組むのは、色んな意味で刺激的すぎる気がした。


「おーいゴブリン、ちょっと私たちに付き合ってよー」


 足場は岩だらけなのに、軽い足取りで早瀬が先に進んでいく。確かに早瀬のランクならゴブリンは相手にならないだろうけど、もう少しダンジョンの雰囲気を味わいたい僕にしたら雰囲気ぶち壊しだった。


「おーい、え? えええー!!」


 奥に進んでいた早瀬が、いきなり叫び声を上げた。瞬間、神崎と目が合った僕は、神崎と共に走り出した。


「どうした?」


 地べたに腰を抜かしたように座り込んでいた早瀬に声をかける。早瀬は困ったように笑うと、両手を合わせて頭を下げてきた。


「間違えちゃった」

「間違えた?」

「うん。移動先のダンジョンを間違えちゃったみたい」


 テヘペロしそうなノリで早瀬が「ごめんなさい」と謝る。けど、その声は突如発生した地鳴りのような声と、地震のような揺れにかき消された。


「嘘だろ」


 地鳴りのような声がした方に目を向けると、ゆうに三メートルは超えていそうな巨体が姿を現した。毛むくじゃらの髪に、隆起した裸体の腰に巻かれている動物の毛皮。右手には、岩をも一撃で砕きそうな棍棒が握られていた。


「まさか、オーガの洞窟じゃないよな?」


 状況を把握しきれないまま早瀬に確認すると、早瀬は素敵すぎる笑顔で「ビンゴ!」と呟いた。

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