エピローグ
Bランクの試験に合格する為に訪れたのは、召喚獣とも契約できるダンジョンだった。神崎とバディを解消した後、僕は早瀬と二人でランクアップ試験を受けまくり、ようやくBランクの試験を受けるところまでたどり着いていた。
ファニーゴーストの攻略の後、早瀬は家族と一悶着あったらしい。詳しくは早瀬が語らないからわからないけど、どうやら両親によって無理矢理転校させられそうになっていたみたいだった。
結果的には、早瀬は断固としてダンジョンプレイヤーを目指すと両親を説得したことで、転校の話はなくなったという。その矢先に神崎がパーティーから離脱したわけだから、早瀬からは嫌味を言われつつも、共に世界に挑むことを条件に、早瀬は僕のレベルアップを手伝ってくれていた。
ダンジョン最深部にある指定の宝を手にした僕は、ついでに召喚獣と契約したいと早瀬が言い出した為、契約の儀が終わるまで近くの岩場で休むことにした。
腰をおろすと同時に、神崎からメールが届いた。神崎とは、互いのダンジョン攻略やレベルアップの話をメールでやりとりしている。今きたメールにも、Aランク試験に合格したことが僕を挑発するように書かれていた。
――負けていられないな
何気にライバル感剥き出しの神崎に一人笑いながらスマホをポケットに戻していると、明らかに作り笑いの早瀬が戻ってきた。
「終わったのか?」
早瀬の妙な空気を不審に感じながらも、契約の儀がどうだったか確認してみる。とはいっても、今日契約する召喚獣はオロチだから、レベル的に考えても問題が起きることは考えにくかった。
「それが、オロチを召喚しようとしたんだけど、なぜか選択肢が急に頭の中に浮かんできたの」
「選択肢?」
「そう。たまにね、召喚の儀をする時に意識を乗っ取られたみたいに選択肢がイメージとして頭の中に広がることがあるの。で、今回も選択肢がいきなり浮かんできたってわけ」
「で、どうしたんた?」
早瀬の言い訳めいた口調に、半端なく嫌な予感がしてきた。同時に、ダンジョンの奥から地響きが迫ってきた為、僕は早瀬の顔をじっと睨みつけた。
「選択肢は、やさしい、ふつう、鬼、閻魔ってあったの」
「なんだよ、その太鼓のゲームみたいなノリは」
「でね、オロチってなるとレベル的にはふつうになるんだけど、やっぱさ、ノリって必要だよね? だから、つい閻魔を選択したってわけ。そしたら――」
早瀬がにこやかに笑みを浮かべながら、ふざけた状況を説明する。ただ、笑っている顔にははっきりと冷や汗が流れ落ちていた。
「馬鹿、何やってるんだよ。それで、何を召喚したんだ?」
早瀬の悪ノリに呆れながらも、状況を急いで確認する。けど、早瀬が答えるより先に、一段と大きな足音と共にその正体が姿を現した。
「まさか、ヤマタノオロチじゃないよな?」
ふり返った先にいたのは、八つの頭が一斉に僕をロックオンしているヤマタノオロチだった。
「さすが兄さん、ビンゴだよ」
「馬鹿、ビンゴじゃないよ。って、どうすんだよ」
ドヤ顔で親指を立てる早瀬に悪態つきながらも、僕は瞬時に岩場から脱出した。当然ながら、オロチの中でも最上位にいるヤマタノオロチを今の早瀬が契約できるはずもなかった。
「契約の儀で呼び出しただけだから、ダンジョンから出ることはないから安心して」
早瀬はまるで問題なしと言わんばかりに笑顔を浮かべると、一目散にダンジョンの出口へ向かって走り出した。
「ちょ、待て、早瀬!」
「兄さん、早く早く」
脱兎のごとく逃げていく早瀬に文句を言いつつ、ヤマタノオロチの強烈な炎のブレスの熱を背中に感じながらも、手招きする早瀬の背中を追いかけた。
――ったく、勘弁してくれよ
余裕の笑みで僕を急かしてくる早瀬を睨みながら、僕は心の中でため息をついた。
いつか、神崎をバディに迎えて、世界のダンジョンを攻略する。
そして、世界一のダンジョンプレイヤーになってユウジ・キムラに挑戦する。
そんな僕が抱いた夢が叶うのは、どうやらまだまだ先のことになりそうだった。
~完~
最後までお付き合いいただきまして、本当にありがとうございます。皆さまの応援のおかげで無事に完結できました。
いつかまた、三人の活躍を描いてみたいと思いますので、その時は温かく見守っていただけたらと思います。
本当にありがとうございました!




