4-5 真の実力者
体が、ねじ切れそうなくらいに痛みを感じていた。なんとか這い上がって早瀬を止めたいのに、動くことができない自分の弱さが恨めしくて仕方がなかった。
そんなやるせない怒りに気が狂いそうになる中、僕は信じられない光景を目の当たりにした。
――鈴木さん、だよね?
プラチナのオーラに包まれ、僕と同じように驚いて固まる早瀬の肩を叩いたのは、紛れもなく鈴木さんだった。
「早瀬さん、あなたの決意はよくわかりました。後は私に任せてください」
鈴木さんがいつもの糸目で呟くと、身に纏ったプラチナのオーラを早瀬に向けた。
途端に、プラチナのオーラに包まれた早瀬は、満身創痍の体から一転して全快していくのがわかった。その様子は、まるでヒーラーが癒しのスキルを使ったのと同じだった。
――まさか、鈴木さんてSSSランクのダンジョンプレイヤーってこと?
鈴木さんを包むプラチナのオーラを見る限り、その属性が最上位とされるプラチナだとはすぐにわかる。けど、実際にその姿を見ることは初めてだった。
光属性には三つのランクがある。初歩の光属性がSランクにあたり、次に、SSランクとして黄金があり、プラチナが最上位のSSSになる。
ランクとして存在はしているけど、プラチナ属性まで極めた者は全世界でも数えるほどしかいないと言われていた。プラチナ属性は、先天的にしか与えられないレア属性を含む、全ての属性をマスターして初めてたどり着けるものだ。生涯をダンジョンプレイヤーに捧げたとしても、簡単にたどり着ける属性ではなかった。
その最上位のプラチナ属性を、鈴木さんは手に入れていた。けど、鈴木さんの名前はプラチナ属性となったダンジョンプレイヤーの名前にはなかったはず。日本人では、唯一ユウジ・キムラの名前があるだけで、鈴木さんがプラチナ属性だということは、どの情報にもなかった。
――世界大会に出たことないから?
鈴木さんは、世界大会には一度も出たことがない。だから、ひょっとしたらその実力を知られていなかったのかもしれない。実際、僕も鈴木さんをただ者ではないとは感じていたけど、まさかプラチナ属性でSSSランクのダンジョンプレイヤーだとは思わなかった。
「皆さん、そこで見ててください」
早瀬に続き、僕と神崎も全快させてくれた鈴木さんは、まるでいつものミーティングを始めるかのようなノリで語りだした。
「岡本、あれって、鈴木さんよね?」
全快した神崎が駆け寄ってくるなり、信じられないものを見るかのように声を荒げた。
「鈴木さんに間違いないよ。まさか、あの時代遅れのアームカバーに属性を封印してたなんて予想外だよ」
さらにプラチナの輝きを増す鈴木さんに、僕は興奮が止まらなかった。ダンジョンプレイヤーとしては最高峰のSSSランクであるプラチナ属性。その属性を纏った鈴木さんが戦おうとしていることに、僕は握った拳に熱を感じていた。
「皆さん、よく見ていてください。これから始まる戦いは、世界の戦いです」
鈴木さんはそう呟くと、眼鏡を胸ポケットにしまい、プラチナのオーラを右手に集中させて息を飲む程の神々しい剣を手にした。
「世界ランク二位程度の小物に本気になるのは大人げないですが、全力でやらせてもらいますね」
鈴木さんが剣を向けると、ジョン・ロベルトはそれまでとは違って険しい表情を見せた。ジョン・ロベルトも、まさかSSSランクのダンジョンプレイヤーと戦うことになるとは思っていなかったのだろう。咄嗟に構えた姿勢からは、並々ならぬ緊張がほとばしるほど伝わってきた。
そこからは、まるで夢を見ているかのように全てが規格外だった。ジョン・ロベルトの先制から始まった戦いは、互いに一歩も引かないぶつかりあいとなった。
ただ、スケールか違うのは二人のスキル展開だった。目に見えない速度で属性を変えながら、あらゆるスキルを繰り出していく。しかも、どのスキルの詠唱も一瞬であり、もう何が繰り出されて応戦しているのかわからなくなりそうだった。
「詠唱時間ゼロって、そんなのあり?」
鈴木さんは、繰り出したスキルの属性を瞬時に変えていた。炎かと思ったら直前で氷になったりと、その流れは属性反転と同じだった。ただし、神崎と違って鈴木さんの詠唱には、時間がほとんどかかっていなかった。まるで、変幻自在に属性を操っているかのようで、そのすごさをただ呆然と眺めるしかなかった。
最初は互角に見えた戦いも、次第に鈴木さんが優勢になっていった。劣勢を感じたのか、ジョン・ロベルトは土竜やガルーダといった召喚獣を召喚して立て直しに入る。けど、鈴木さんも同じように、火竜や見たこともない海の生き物のような魔物を召喚しては、涼しい顔で応戦していた。
「これが、世界の戦いなんだ」
目の前に広がる規格外の光景に、自然と言葉がもれる。神崎も早瀬も、驚きながらもその瞳には羨望の輝きを放っていた。
たぶん、僕も同じように熱い眼差しを向けているだろう。鼓膜を突き破るような剣がぶつかり合う音も、スキルがぶつかって生じる爆風にも、ただただ興奮しかなかった。
「なかなか手強かったですが、私も歳ですから一気に決めさせてもらいますね」
ジョン・ロベルトから距離を取った鈴木さんが、複数のスキルを同時に仕掛ける。と同時に、召喚した火竜を自分の左腕に融合させ、一気にジョン・ロベルトへ詰めよった。
――そんなのって、あり?
鈴木さんが繰り出したスキルと剣撃に、一気にバランスを崩したジョン・ロベルト。その隙を見逃さなかった鈴木さんは、左腕に融合させた火竜をジョン・ロベルトにねじ込むと、融合を解いて火竜を放出させた。
凄まじい爆発音と共に火竜のエネルギーをまともに受けたジョン・ロベルトは、なんとか体を保っていたものの、まるで魂が抜けたように地上へ落ちていき、そのまま霧となって散っていった。
「ちょっと、はりきり過ぎちゃいました」
早瀬顔負けのテヘペロを見せながら、戦いを終えた鈴木さんが戻ってくる。腕にはいつものアームカバーをつけ、胸ポケットから取り出した眼鏡を何でもないようにかける仕草に、僕の興奮は一気に高まっていった。
――眼鏡が割れてないってことは、ノーダメージで圧勝ってことか
神崎と早瀬の感激の言葉に頭をかく鈴木さん。とてもSSSランクのダンジョンプレイヤーには見えなかったけど、そこがまた鈴木さんらしくて最高にかっこよく見えた。
「でも、鈴木さんは何で戦うことにしたんですか?」
冷めない興奮に任せて鈴木さんをまくし立てていたけど、やがて落ち着きを取り戻したところで気になることを聞いてみた。
「私にもわかりません。ただ、一つ言えるとしたら、皆さんをここで失いたくなかったからだと思います。それに、早瀬さんの行動にも感激しました。自らの命を捨てでも仲間を助けようとする姿に、昔の血が騒いだのかもしれませんね」
鈴木さんの言葉に、早瀬の顔が一瞬で曇る。けど、鈴木さんがあえて早瀬の名前を出した意図を読んだ僕は、ダンゴムシのように縮こまる早瀬の肩を叩いた。
「よかったな、早瀬。でも、ミスはいいとしても、次は簡単に命を捨てるような真似はやめてくれよ」
「そうね、ふみちゃんに何かあったらプロを目指すどころの話じゃなくなるんだから」
僕の言葉に、神崎も言葉をつなげていく。相変わらず厳しい言葉をかけるかと思ったけど、神崎は笑いながら早瀬の頭を撫でていた。
そんな僕と神崎の対応に、身を震わせていた早瀬が涙ぐんだ顔を上げた。
「ごめんなさい。私――」
言葉にならない謝罪と共に、早瀬が頭を下げる。そんな早瀬を、神崎が猫を愛でるようにそっと抱き寄せた。
「色々ありましたけど、三階層も無事に突破ですね。後は、キムラと会うだけです」
おいしいところを鈴木さんに持っていかれた気もするけど、とりあえず三階層を突破できたことは素直に嬉しかった。
「あの先に、キムラがいると思います。このまま行きますか?」
鈴木さんが示した先には、新たに地下へと下る階段が現れていた。いよいよユウジ・キムラに会えると思うと、緊張やら恐怖やらで立ちくらみしそうだった。
「岡本、一度引き返す?」
隣に並んだ神崎が、微笑んだまま声をかけてきた。神崎としては、呪いを解くチャンスが目の前にあるわけだから、気持ちとしては先に進みたいはずだ。
とはいえ、ユウジ・キムラに会っても、強さに関する質問に答えないといけない。ダンジョンに隠された謎が解けたかというと、正直首を縦に振れなかった。
――でも
僕は握り拳に力を入れ、みんなを見渡した。
「このまま行こう。このまま、ユウジ・キムラに会って話がしてみたい」
立ちくらみする体の中にある熱い気持ちを、僕は素直に伝えた。目の当たりにした世界レベルの戦いによる興奮が冷めないうちに、ユウジ・キムラに会ってみたかった。
規格外過ぎた鈴木さんの、更に上を行っていたユウジ・キムラ。そんなユウジ・キムラがどんな人物か、この目で確かめてみたかった。
僕の言葉に、みんなが静かに頷いてくれた。どんな結果になるかはわからないけど、自然と足は階段へと向かいだした。
「そういえば、早瀬は何を悩んでいたんだ?」
階段へと向かう途中、ふと気になった僕は早瀬にそれとなく聞いてみた。
「内緒。でも、私なりに解決してみようと思う。だから、もう大丈夫だよ」
「ふーん、そうなんだ。ま、早瀬でも悩むことがあったんだな」
「それって、どういう意味かな?」
早瀬の殺意に満ちた笑顔と共に、強烈なツッコミが飛んでくる。そんな僕に、鈴木さんと神崎が笑ったところで、いよいよユウジ・キムラが待つ部屋の扉が見えてきた。
~第四章 三階層の攻略 完~
ここまでお付き合いいただきまして、ありかとうございます。次回から最後の章になりますが、引き続きお付き合いいただけたらと思います。




