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恋って…何?[番外]久保くんは気になってます。其の二。

作者: み〜さん

続きは遅くなると思い短編にしたのですが……早まった感ハンパないです。


よろしくお願いします。

 





「無理です。おれ今新幹線の中ですから。」


『旅行か?』


「違います。」


『………新幹線乗ってんだろ?』


「新幹線に乗ってはいますけど旅行では無いです。」


『………じゃぁ何だよ。出張か?敵情視察か?逃避行か?』


 ああっ、ニヤッて笑いながら言ってる姿が頭に浮かぶ。


「どれも違います。」


『真面目かっ⁈ 』


「ええ、至極真面目に言ってます。」


 勢いよく流れて行く景色を見ながら携帯を耳にあて淡々と話す。


 電話の相手は佐藤 拓真先輩。暇だから自主練に付き合えと言う誘いだった。


「………新幹線に乗っているのは本当です。どうして新幹線に乗せられているのかは現状わかりませんが。」


 行き先はわかったが何の目的なのかまだ聞いていない。


「月曜にはちゃんと拓真先輩に報告しますからーーー」


「久保くん、朝早いからご飯食べてないんじゃないか?」


 と、今まで席を外していた田中先輩が戻って来るなり声をかけてきた。まずい!いや、わかることだからまずくはないんだが、でも今はマズイ!


『………オイ今の声、田なかっ」


 訝しい声が聞こえたところで反射的にブチっと電話を強制終了‼︎


 そのまま電源オフにしてワンショルダーのボディバッグの中に突っ込んだ。


「久保くん?」


 長い睫毛をパチパチとしばたたせ通路に立つ田中先輩にニッコリ笑って答えた。


「食べて無いです。朝コンビニでも行こうと思っていたんで。」


 すると席にポスンと座り、


「食べてないんだ。よかった。」


 大きめなトートバックの中から小さな鞄を取り出した。


 おおっ。バック イン バッグ。


「おにぎり作ってきたんだ。」


 ラップに包んだおにぎりを取り出し簡易テーブルの上に置いていく。その数なんと七個!


「それと、少しだけどおかずも。」


 そう言って置かれたピンク色の正方形のお弁当箱。


 蓋を開ければ卵焼きやウインナーや唐揚げやブロッコリーとエビを炒めたのとプチトマトが綺麗に詰められていた。


 いやいや、少しどころじゃないですよ⁈ コレ!


「田中先輩、何時に起きたんですか?」


「えっ?テニス部の試合の日よりは随分遅いけど。」


 ………テニス部?


「ほら、いいから食べて。」


 差し出されたおにぎりを受け取って田中先輩とおにぎりとおかずに視線が行ったり来たりするおれ。


 ヤバイよなぁ。こんなの絶対勘違いパターンじゃん。


「久保くんはおにぎりのノルマ五個だから。」


「五個⁈ 」


 朝からおにぎり五個って、ナニ?油断させてからの奈落に突き落とすカタチ⁈


 おれの驚きの声に田中先輩がキョトンとした表情を向ける。待て待て、おかしいだろ。


「えっ、五個なんて軽いんじゃないのか?」


「………すみませんが、それ誰基準で言ってます?」


 おにぎりのラップを剥がす手を止めた田中先輩に小さく息を吐いて聞いてみる。


 まぁだいたい想像がつくけど。


「・・・ 黒井、君?」


 やっぱり。


「部長のレベルは普通じゃないので比べる対象にしないで下さい。」


 黒井部長は底無し胃袋って言われるぐらいとにかく食べる量が半端ない。


 練習や試合のとき、見たこともない大きさのタッパ三段重ねの弁当を食べている姿に、周りに居た人達が軒並み食欲を無くすぐらいだ。



 どんな胃袋だよ。



 て言うか、あんだけ食うから身長もガタイも良いってことだよなぁ。


 それに………黒井先輩の彼女。


「スゴイんだよなぁ………」


 頭に浮かぶその凶悪な姿に自然と喉が鳴る・・・ううううっ!


「久保くん、食べないのか?」


 ハァッ! イカン!イカン !


「いえ!いただきます。」


 おれのため?に早く起きて作ってきてくれたおにぎり。


 それを目の前にしてあんないかがわしい……いかがわしい………いかがわしい………!


 持っていたおにぎりをジッと見つめたおれは、そのおにぎりを膝の上に置きおもいっきり両手で自分の顔を叩いた。


 ” ばちぃーん ”って結構いい音が出た。でもってやり過ぎたことがわかるぐらいメッチャ痛い。


「 ⁈ くっっ!久保君⁈ 」


「大丈夫です。ちょっと自分を戒めただけですから。」


 ヒリヒリする頬を擦りながら笑ってみたけど歪だったみたいで、田中先輩が微妙な顔でおれを見てくる。


 ーーー当たり前だな。


「おにぎり、いただきます。」


 取り敢えずおにぎり五個のノルマを達成させよう。






 〓〓〓〓〓〓〓







 新幹線に乗って電車を乗り継ぎやって来たのは、おれが住んでる場所と雰囲気の似た街。


 駅前のロータリーに出ると、田中先輩がキョロキョロと辺りを見渡し何かを探しだした。


「田中先輩?」


 声を掛けるがキョロキョロは止まらない。


「・・・何探してるんですか?」


 返事の代わりにう〜んと唸り声を上げる田中先輩。


 道が分からなくて交番でも探しているのか?


 イヤ、交番だったら道を挟んだ向かい側、目の前だ。


「・・・田中先輩?」


「う〜ん………」


 じゃぁ誰かと待ち合わせしているとか?


 遠く離れたここで知り合い?親戚か⁇


 いや、待て待て。それじゃぁなんでおれを連れてきたんだ?


 結婚するわけでも無い……し?


「はぁっっ‼︎ 」


 驚きで変な声出しちゃったよぉっ!


 結婚⁈ ケッコン⁈ 付き合ってもいないのに?


「おっ!アレかな?」


 あああっっ!ダメだっ!なんで今日はこんなに暴走するんだ⁇ おかしいだろうがっ!


「久保くん、確認してくるからここで待っていてくれ。」


 おかしいぞっっ⁈ いつも以上に 乱れまくってるなんて、とにかく落ち着くんだ!おれッ!


 よし!ここは大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせよう。


 ラジオ体操第一を思い浮かべて両手を広げ身体を反らし真っ青な空を見ながら深呼吸する。


 ふぅ〜っと息をはきながら腕をクロスさせて前に下ろす。


 これを頭の中で流れる音楽に合わせ数回繰り返し、頭の中をクリアな状態に。


 で、気が付けば、


 さっきまでおれの右側にいた田中先輩が忽然と姿を消していた?!


 辺りを見渡せど、田中先輩の可憐な姿が見当たらない!


 怖くなって全身の血が引いた!全身の毛穴から汗が吹き出した!


「たっ!田中先輩っ!田中っ!先輩!」


 このときオレはなりふり構わず迷子が親を探すようにおもいっきり叫んでいた!


「たぁーなぁーかぁーーーーせぇーーーん」


 すると、


「恥ずかしいっ!」


 声と共に後頭部頂天に衝撃がっ?!


「久保くん、君は三歳児かっ!」


 頭を押さえて振り向けば、真っ赤な顔で仁王立ちする田中先輩がいた。


 右手には空の弁当箱が入った袋を持って。


 あれを振り下ろしたんだ。空とは言え丁度角が脳天直撃で、当たった途端に激痛で目に膜が張った。


「でも、急に居なくなってーーー」


「ここで待っていてって言ったはずだが?」


「え?」


「言った。」


 上目遣いでジトって見てくる田中先輩の顔が真っ赤になってる。


 ………かわいい。


 そう思ったら自然に俺の手が田中先輩の頬に触れていた。



「「ーーーーーーーーーーーーーーーー」」



 目を見開く田中先輩と体が金縛りにあって動けないおれ。



 ………周りの時間が止まった………と、感じたときだった。




 ーーーーーーカシャッ!



 近くで鳴った音に田中先輩と、オレにかかっていた呪縛が解けて反射的にそちらを向けば、口をニンマリとさせカメラを構えた人物が。


「いいねぇ。まるで青春ドラマのワンシーンだよ。」


 ショートボブの黒髪をサラリと揺らし満面な笑顔で言う女性。


「良い出来だよ、買う?」


 カメラの画面をこちらに見せて首を傾げる。


「ください。」


 何故か即答していた………両手を上げて。


 イヤイヤ冷静になれ!おれ!


 この流れでこの受け答えは「好き」アピールの何ものでもないだろう!


 ああっ!ダメだ。自爆だ!


 田中先輩はオレとその女性を何度も見て「えっ」を連発していた。


「わかった。後で田中さんの方に送っとく。じゃっ、取り敢えず行こっか。」


 と、連れて来られたのは駅前にあるビルの二階の喫茶店。


 なんと言うか、レトロ感があるこじんまりとしたところだった。


 これは連れて来てもらわないとわからないし、一人では入り難い感じの店だ。


「巳月さん。こんにちはぁ!」


 入るなり挨拶する女の人の後を着いて行くと、コーヒーの良い匂いに迎えられた。


「アラ!籐子(とうこ)ちゃん久しぶりじゃないの。」


「ハイ、久しぶりに降りて来ました。巳月さんの美しさも変わりなくて安心です。」


 カウンター越しに会話する人物を見て息を呑む。


「………すっっっごい美人………」


 後ろの田中先輩の呟きが聞こえた。


 それに大きく頭を縦に振って同意する。


「ところで巳月さん?今日、久兵衛さんは?」


 広くも無い店内を何度も見渡す女性に、黒髪ショートの美女、巳月さんが柳眉を下げて少し困り顔をする。


「それがねぇ、風邪を拗らせちゃって肺炎で入院してるのよ」


「うっっっっ、そぉぉぉっっ!?」


「ホント。鬼の撹乱?て言うのかしら?私もびっくりよ。だって今まで病気や怪我なんて無縁な久兵衛が肺炎で入院なんて、天変地異の前触れじゃないかって菊揶(きくや)さんも秀征(しゅうせい)さんも驚いてたわ。」


 口元に手をあてて上品に笑う姿に釘付けになってしまう。


「立てば芍薬、歩けば牡丹………」


「歩く姿は百合の花。」


 おれの呟きを田中先輩が拾って繋げた。


 見れば田中先輩もこの美女に釘付けになっていた。


「それで大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ。まぁね、外からの攻撃には強い久兵衛だけど、身体の内側からとなると敵わなかったみたいなの。三治(さんじ)さんの病院だから、籐子ちゃんもよかったら行ってあげて。」


「すぐ行かせていただきます!それじゃ、田中さん!シャキシャキやっちゃいましょう!」


 そう言って田中先輩を後ろのテーブル席へ引っ張って行ってしまった。


 フム、おれは邪魔か。


「少年、何飲む?あっ、それとも何か食べる?」


 ふふっと笑いを漏らし、カウンター席を指し示しながら巳月さんが聞いてきた。


「巳月さぁ〜ん!ボンゴレとオムそばとミックスジュースを二つお願いしまぁ〜す!」


 後ろから飛んできた声に思わず振り返れば、真剣な表情でメニュー表を覗き込む田中先輩に思わず口角が吊り上がる。


「ーーー少年は彼女の恋人?」


 不意打ちの爆弾投下に座りかけた椅子ごと倒れかけ、素早く椅子の背とカウンターを掴んでなんとか倒れずにセーフ。


 日頃の練習の賜物だな。おれスゲェ。


「大丈夫!?」


 カウンターの向こう側から身体を乗り出して、なぜか両腕を差し出している巳月さん。


 焦った表情も美しいと思ってしまったおれは節操なしなのか?


「大丈夫です。それと、おれは同じ高校のただの後輩です。」


 即座に否定したからだろうか、巳月さんがキョトンとなる。


「今日はたまたま付き添っただけです。」


 そう言ったおれの顔をジッと見つめる巳月さん。


 あれ、ちょっと変わった瞳の色してる。


「そっ。で、何食べる?少年。」


 首を少し傾けてニッコリと微笑む巳月さんにドキッとしてしまうのは、男の(さが)なのか………まぁ、多感な年頃と言うことで。


 巳月さんが作ってくれためちゃくちゃ旨いハンバーグランチをご馳走になり、マッタリとコーヒーを飲みながらおれが帰りの電車の時間を気にし出した頃だった。


「アッ!」


 カウンターに座るおれの正面の壁、丁度巳月さんの腰辺りに付けられた横長のスリット窓を中腰で覗き込んで小さな声を上げると、口を慌てて手で抑える巳月さんに何事かと声をかければ、口を手で押さえたまま真っ赤な顔で振り向く。


「巳月さん?」


「…………ごっ、ゴメンなさい。ちょっと、嬉しくて声が出ちゃって。」


 嬉しい?


「外、何かあったんですか?」


 そう聞けば、何故だろう………巳月さんの瞳がウルウルと潤む。


「えっ?!巳月さん?」


「違うの!もうねっ、自然現象なの。姿見ただけでこんなにも喜んでしまって。」


「姿?」


 外に知ってる人でもいたのか?でも、さすがに涙ぐむなんてことはーーーはぁっ!!もしやこの世のモノで無い何か?!


「えええっとぉ、」


 そう言って手招きされたおれは、カウンターの中へ入って巳月さんが指し示す窓の外を見る。


 駅前だから人通りも車の往来も多いけど。


「巳月さん………?」


 いったい何処を見ろと?と思ってすぐ横からおれと同じ中腰の体制で覗いている巳月さんを見る。


 いや、チョー近いからっ!ヤバイって!だってなんかいい匂いするし!


「あそこ。ホラ、掲示板の前に立ってる水色のワンピース着た女の子。」


 小刻みに震える指で指す方へ顔を向ければ、確かに女の子がいた。


 日差しが厳しい中、誰かを待っているようで辺りを見渡している。


「〜〜〜はぁぁっ。こんな日にあんな場所で待たせるなんて………早いとこ仕込まなきゃ!」


「巳月さんの知り合いですか?」


 口を覆っていた手がグーになって口元にあてられていた。美人だけど可愛い。


「知ってるけど知り合ってはいないの。まだーーー」


 言いかけて巳月さんの表情が険しくなった。


 外を見れば、女の子にゆっくり近づく男がいた。


 距離的に顔まではよく見えないけど、なんと言うか………チグハグな感じ?男の方がちょっとチャラっぽい?あの女の子とは纏う雰囲気が違うような違和感を漠然と感じてしまった。


 男が近付くと女の子が駆け寄って行き、そのまま並んで駅の改札口へ行ってしまった。


「少年はーーー」


 巳月さんの声に振り向けば、何処を見ているのか瞬きもせず一点を見つめたまま言葉を続ける。


「恋焦がれる気持ちがわかる?」


 いきなりなんですか?!


「ーーーーいえちょっと、」


「ーーー私は十二年間ずっとそうだった。神様にどれだけ祈ったかわからないぐらいに。やっと………やっと見つけたの。」


「えっ?巳月さんってそっちの人なんですか?!」


 マジですかっ!


「……… 少年、根本が間違ってる。私は正真正銘男よ。」


「ゔっっ!!」


 そだろーーーーーーーーっ!!?


「まぁね、ほぼ間違われるからそこは諦めてるけど。でも私が男だって言うのはホントよ。なんなら確認してみる?」


 超高速で頭を振って辞退させていただいた!


 ヤベェ………美人じゃなくてイケメンだったなんて。


 斗真先輩がぶっちぎりだと思っていたけど、世間は広かった。


「………ってことはおれ、男の巳月さんにドキドキしてたわけ?」


 オイオイ、節操無さ過ぎだろ!




 久保 真司、十六歳。


 この日、世界の広さを実感し、自分の未熟さを実感し、気付きたくない事柄が近い未来から着実に近付いて来ていることに果たして無視できるのかどうかを悩む年頃であった。






久保くんのお話は後一話で終わるつもりです。


見つけた時に読んでもらえたら嬉しいです。


読んでいただいてありがとうございました。

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