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全員バトン  作者: 森野昴・シンG・しいたけ・ぼるてん・黒イ卵・間咲 正樹・陸 なるみ・マックロウXK・砂臥環・砂礫零・秋の桜子・かわかみれい・べべ
8/15

8月 (マックロウXK)

『おい、起きろっ!! いつまでも寝てんじゃねえぞ!』


 俺が目を覚ますと、目の前にはやつが立っていた。


「……なんか、すっげえ変な夢見てた気がする」

「へえ? どんな夢だ」

「最初はほのぼの日常系だったと思うんだが、途中から女コマンドーから殺されそうになったり、しまいには織田信長とか悪い神様とか出て来る夢」

「あ、そう」


 自分から聞いて来たくせに、興味なさそうな返事をする。

 やつはポンチョを纏ってテンガロンハットを被った、いかにもガンマンな格好をしていた。


 今、8月じゃなかったか? ハロウィンにはまだ早いぞ。

 っていうか、いつの間に寝てたんだっけ?

 ここは……、どこだ?


 辺りを見回すと、見慣れた中学校の野球グラウンドのようではあるが、校舎が西洋風の城だったり、詳細(ディティール)の違いに違和感を覚える。


「おっ、『()(リン)』が目を覚ましたようだな」


 耳に入ったハスキーなおねーさんの声に反応すると、そこに現れたのは赤いバンダナを巻いて、上半身ほぼ裸で、サスペンダーで巨乳の先端を隠している扇情的な格好をした軍人のような女性だった。


「ちーっす、女コマンドー先生」


 女コマンドー先生?


「ほらよ、昼飯を獲ってきたぞ」


 女コマンドー先生は、どさっと五段重ねのウェディングケーキを僕たちの目の前に置く。


「では、つつしんでいただきます」


 なんのためらいもなくウェディングケーキに手を突っ込んで、ぱくぱく食べ始めるガンマン。

 何、このシュールな世界観。

 ていうか、なんで女コマンドー先生が実在するんだ!?


「これは一体、どういう事だよ!?」


 焦りを混じらせた俺の問いかけに、女コマンドー先生はこう答える。


「妹が働く洋菓子店に予約が入ってたんだが、結婚式がドタキャンになったからもらって来たんだ。どうやら、新郎が浮気してたらしい」

「あらら、そんな事があるもんなんすねえ」


 と、やつはホイップクリームを顔中べったべたに塗りたくったまま呑気に食べ続ける。


「違う! 俺が聞きたいのはケーキの事じゃなくて、女コマンドー先生は小説のキャラクターじゃなかったのか? 何でここにいるんだよ!?」


 すると、やつはきょとんとした顔をしながら。


「何言ってんだ? 女コマンドー先生なら、今年の1月からずっと一緒にいるじゃないか」


 何だって? 


「まあ、無理もないさ。『(きさま)』と違って『麒麟』はまだ覚醒が不十分だからな。記憶の混濁もいたしかたあるまい。まあ、戦闘の時だけはしゃんとしてるようだが」


 ()(リン)? 覚醒? 戦闘? 話せば話すほど訳が分からないぞ!?


「貴様の後ろを見てみろ」


 俺が後ろを振り向くと、家みたいなデカさの三つ首の犬が倒れていた。胴体を真っ二つに輪切りにされて。


「う、うわあああああーーーーーっ!!」

「自分でやっといて何驚いてんだよ。お前、本当に何も覚えてねえんだな」

「えっ? ええっ!? これ、俺がやったの?」


 今気づいたけど、俺も腰に刀を帯び、赤備えの鎧を身に付けた武将風の格好をしている。


「そいつはケルベロス。通称『地獄の番犬』と呼ばれる魔獣。貴様の『パッカーティーン』を食いちぎるために送られた刺客だ」


 見た目によらず、親切に解説してくれる女コマンドー先生。

 ところで。


「パッカーティーンって何ですか?」

「『ポコ◯ン』のカッコ良い呼び方だ。伏せ字を使わなくて済むしな」

「なるほど。俺のパッカーティーンを食いちぎりにねえ…………。なんだとーっ!?」


 って、あれ? 妙な既視感が……。


「おっと、のんきにくっちゃべってる暇は無さそうだぞ。どうやら、こいつのお仲間が一帯を取り囲んでるようだ」

「え……?」


 気付けば、約百匹の三つ首の犬が次々とグラウンドに現れる。

 ケルベロスって世界に一匹だけじゃないの?


「とりあえず、貴様は貴様のパッカーティーンを死守しろ。まずはそれからだ」

「は、はい!」

「あーあ、ケーキ超うまかったのにもったいねえ」


 三人で背中合わせの三角形の陣形を取りつつ、俺は腰の刀を抜く。素人目にも(わざ)(もの)と呼ばれるだろう(シロ)(モノ)

 振るえば命をも奪う白刃の輝きに、俺の両手に震えが走る。


「来るぞ」


 猛烈な勢いで迫り来るケルベロスの群れ。

 だが、女コマンドー先生は冷静に手榴弾(パイナップル)の安全ピンを歯で抜き払い、敵陣に放る。


 ドゴオオオッ!


 爆風と爆炎が魔獣の一隊を襲い、怯んだケルベロスたちの勢いが弱まったところに、女コマンドー先生はハンティングボウを連続で放つ!


 バシャッッ!


 次々と魔獣たちの頭に突き刺さり、血液と脳漿をぶちまける。

 弓を構える女コマンドーの雄々しき姿は、狩猟の女神アルテミスもかくやと思わせる。


「もっと美味そうな奴なら、晩飯になるんだがな」


 だが、女神が狩るのは()(もの)ではなく、魔獣(ケモノ)の命。

 舌舐めずりをしながら、女コマンドー先生はぶっそうな事をのたまう。


「はあああああっ!」


 突如、やつが気合いの入った声で叫ぶ。


「まだ、『聖銃士(せいじゅうし)』の力の使い方に慣れてねえからな。練習台にゃあちょうど良いぜ……」


 なんだか、バトル系の主人公みたいなセリフ。 

 すると、やつが構える右手に握られた白銀色の回転式拳銃(リボルバー)が、ラピスラズリのような青い輝きを見せる。


「食らいやがれ……、『聖弾・青龍(せいりゅう)』!」


 ゴオウッッッ!


 やつが放ったエネルギー弾がケルベロスの縦列を貫き、射線上を跡形もなく消し飛ばす。


「っと、またやりすぎちまったな。まだまだ出力調整がうまくいかねえなあ……」


 平然と言いながら、拳銃のグリップで頭をコリコリ掻くやつに俺は唖然とする。


 何でやつにこんな事ができる? やつは俺と一緒で、しがない中学三年生じゃなかったのか?

 一体、俺の身に何が起こっている?

 俺はまだ、夢でも見てんじゃないのか?


 だが、状況は一瞬たりとも待ってはくれない。恐慌をきたす俺に三つ首犬の一体が襲い来る!


「くっ!? でやあああああっ!!」


 俺はやけくそで刀を振るう。すると!


 スヒュッ!


 縦裂きにされた一.五つ首のケルベロスは、斬られた事すら覚えず、それぞれ俺の両サイドを走り抜けるとズシャシャッと倒れ伏す。

 我ながら、手応えを感じないほどの鮮やかな一閃。


「これは……?」

「ひゅゅう、相変わらずやるねえ」

「はははっ! さらに剣の腕を上げたようだな」


 口笛を吹きながらニヤリと微笑むやつと、満足そうに笑う女コマンドー先生。


 そうだった、ここは……。


 ここは俺たちが暮らしている日本と、女コマンドー先生たちがいた平行世界パラレルワールドが混ざりあった世界。


 そして俺は、(せい)(けん)()()(リン)』。


 日本を鎖から解き放ち、のちに『勝海舟』と呼ばれた男。『勝麟太郎』の生まれ変わりだ!



 *



 さかのぼること、今年の一月の話。

 書き初めを書き終えた俺たちの元に、突然三人の女性が現れた。


「私は『女コマンドー』! いきなり、不躾(ぶしつけ)で申し訳ないが、どうか、我々と共に日本を救ってもらえないだろうか!」

「「はあ?」」


 先頭で頭を下げるのは、軍人の格好をしたおっぷぁいが大きなワイルドな美女。


 彼女の話によると、俺たちがいる『ほのぼの日常系世界』の日本と、女コマンドーたちがいる『ファンタジー世界』の日本が、輪廻の邪神『ウロボロス』の呪いでごちゃごちゃになってしまっているらしく、このままではそれぞれの世界の本来あるべき未来が失われてしまうとの事。


「このままでは『魔の13月』が発生し、永遠に2019年が続く事になってしまう! どうか、我々と一緒に戦ってはもらえないか?」


 おいおい、確かに俺たちはリアル厨二の中学二年生だが、こんな妄言を間に受ける訳が……。


「いっすよ」

「えっ?」


 なんと女コマンドーさんのムチャな願いを、やつが軽い口調で承諾する。

 さすがリアル厨二、理解が早い。


「ただし、条件があります。もし日本を救う事ができたら、俺たちを童貞から卒業させて下さい!」


 なにーっ!

 こいつ、なんて要求をぶっ込んでやがるッ!?

 俺まで巻き込んでくれるのは嬉しいが、そんな事が許される訳が……。


「よーし、分かった! 日本を救ったあかつきには貴様らに大人の階段を登らせてやろう!」

「「えーっ!」」


 と大声を上げたのは俺と、女コマンドーさんの後ろに控えていた、銀色の甲冑を纏った女騎士さん。


「バカな! 私は貞節ある女騎士、そんな易々と身体を許してたまるか!」

「いや、我々は彼らに命を賭けてもらうのだ、おセッ◯スの一回や二回どうって事なかろう!」

「ぐぬぬぬぬ……」


 豪快に言ってのける女コマンドーに、歯を食いしばり拳を握りしめて耐える女騎士。


「じゃあ、俺はそちらの女賢者さんが良いです」

「あらあら、私? まあまあ、どうしましょう?」


 やつが指名したのは白いローブが良く似合う、ふわふわした感じの女性。女賢者さん。

 ゆるふわ系はやつの好みだからなあ。俺はどうしようかな。


「では、俺は女コマンドーさんで」

「なぜだ!? なぜ、私を選ばない!」


 急にいきり立つ女騎士さん。さっきまですっげえ嫌がってたくせに、面倒くさい人だなあ。


「よし、交渉成立だ! 一緒にそれぞれの世界に明るい未来を取り戻すぞ!」

『おーっ!』

「ところで何で俺たちなんです? 俺たちはしがない中学生でしかありませんが……」

「いや、貴様らは『勝麟太郎』と『坂本龍馬』の生まれ変わり。すなわち、貴様らこそ日本を救う勇者で間違いない!」

「「えーっ!?」」


 俺たちの日本の歴史では、江戸末期にこの二人が日本の鎖国を解いたとされているが、女コマンドーさんたちの歴史では、蛇の邪神が鎖のように日本を封鎖していたところを、暗号名(コードネーム)()(リン)』こと勝麟太郎が聖剣で大蛇をぶった斬って日本を解放したといわれる伝説が残っているらしい。

 その相棒が、暗号名(コードネーム)(リュウ)』こと聖銃使いの坂本龍馬。

 パラレルワールドじゃどんだけ武闘派なんだよ、幕末コンビ。


「唐突だが、貴様らは呪われている!」


 どどーん!


「「ええっ!?」」

「邪神『ウロボロス』は貴様らを覚醒させ、さらに闇堕ちさせようと画策している。呪いを断ち切り、奴を倒すためには失われた聖剣『天羽々斬(アメノハバキリ)』を見つけ出さねばならない。そして、もう一人『(ホウ)(オウ)』の戦士を仲間にする必要がある」

「鳳凰の戦士?」

「炎に死して、炎から甦る。理想を言えば『織田信長』のような男だ」

「やけに具体的ですね」

「とにかく、まずは貴様らが正しく覚醒するように、半年は修行をしてもらう。特に聖剣士『()(リン)』!」


 お、俺の事か?


「は、はい!」

「貴様は肉体と精神の鍛練に加え、『パッカーティーン』を鍛える必要がある!」

「パッカーティーンって何ですか?」

「ポ◯チンのカッコいい呼び方だ。貴様のパッカーティーンは邪神の呪いにより、犬から咬まれる宿命(さだめ)にある!」

「えーっ? 俺、犬に咬まれるの?」

「貴様が女性になってしまったら本当に詰んでしまうからな。だが、心配するな! 万が一咬まれても良いように我々が鍛えてやる!」


 女コマンドーさんたちが俺のパッカーティーンを鍛えてくれるのか。エロい事を想像してしまうぜ。


「という訳で、これからは我々の事を先生と呼ぶように、分かったな!」

「イエス、マアム!」



 *



 回想終わり! そして、現在に至る。

 約半年間の修行の末、いよいよ俺たちは本格的に邪神ウロボロスを倒すため、冒険の旅に出た。

 俺のゲーム脳的に、邪神との戦いの勝利条件をまとめると。


 ◎聖剣『天羽々斬(アメノハバキリ)』を見つける。

 ◎『鳳凰』の戦士を仲間にする。理想は織田信長のような人物。

 ◎闇堕ちしない。

 ◎犬に咬まれないように、パッカーティーンを死守する。もし咬まれても女性にならないように頑張る。(俺限定)

 ◎アヘらない。(女騎士先生限定)



 再び、舞台は中学校のグラウンド。約半分のケルベロスを倒した俺たち。

 だが。


「数が、多すぎる……」

「ちっくしょう……、序盤戦で力を使い過ぎちまった……」

「貴様らこれくらいでへばるなんて、まだまだ鍛え方が足らんな」

「結構、死ぬ気で修行してたんですけどね」

「一日六万回、フル◯ンでラブレターの写経をしてみたりな」


 軽口を叩いている間にも迫り来る、残り半数のケルベロス軍団。

 俺のパッカーティーンにも危機が迫る!

 その時!


 ガラッガラガラッ、ビシャァーーンッ!!


 空から降り注ぐ紫の雷光が、ケルベロス達を串刺しにする。


「遅れて申し訳ありません!」

「「女賢者先生!」」


 さらに、銀色の甲冑を纏った女性が、三つ首犬の群れに飛び込んで行く。


「『んほぉぉぉぉ!!』って言うばかりが、女騎士だと思うなよおーーっ!!」


 ドッゴオーーーンッ!


 雄叫びをあげながらクレイモアと呼ばれる大剣を振り回し、豪快にケルベロス達をねじ伏せる!


「女騎士先生!」

「こんなザコ共に手間取っているようじゃ、先が思いやられるな」

「へへへっ……」


 援軍を得て、気力を取り戻した俺達は、再びケルベロスの群れに立ち向かう。


 俺達の日本と女コマンドー先生たちの日本の正しい未来を取り戻すため、そして童貞を卒業するため、俺達の戦いがここから始まる。


 これは、夢か現実(うつつ)か、(まぼろば)か。

 あるいはゲームのし過ぎで俺が作り出した虚構なのか。


 あと、2019年がループしたら、学校が廃校にならなくて済むんじゃないかなーとか、ちょっぴり脳裏をよぎったりもするが、それはひとまず置いといて。

 俺は握った剣の感触を確かめながら、目の前の敵に刃を振るった。


「っだあああああーーーーーっ!!」


 ザンッ!

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