5月 (黒イ卵)
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皐月頭に恋をして
共寝温む夜
平屋へ耽り
夢忘れはせん
謎のウホ
落ち 神エロ
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「おい、この怪文書はなんだ?」
やつに問う。
ゴールデンウィークに、やつの家。
正月の書き初めと回文の話を、なんとなくクラスで話したのは、2月の終わり。
そしたら担任が、俺たちにクラス新聞を毎月書かないか? なんて言い出して。
3月、4月とやつが書き出したのは……新聞じゃねえ! 小説だった!
異世界なのか、謎の世界に俺とやつが行き、学園モノかと思いきや即卒業。その後は例の洋菓子店も出て来て、そして女コマンドーの元で修業。まさかの就職先だ。
クラスの奴らが「もっとエロくしろよ!」だの、「下ネタが足りない!」だのって言い出して、さすがに担任から、「正月の書初めと回文のようなのを入れて、季節行事も取り上げてくれ」と注文が……。
で、俺は、やつが「連休中にやるから任せろ!」って言うものの、気になって見に来たってわけだ。
「あっ、これか? ばあちゃんが、パングラムってのにハマってな。上半分がばあちゃん、で、下半分考えてみろって言われて。やってみたんだ」
「パングラム?」
「言葉遊びのひとつでな、『あ』から『ん』までの、全部の言葉を使って、文章にする遊びなんだって。どの文字も1回限り使って」
俺は、ひらめいた。
「もしかして、いろは歌とか?」
「そうそう! よく知ってんな。クラス新聞書くことと、正月お前が言ってた回文の話、ばあちゃんにしてさ。したら、教えてくれたんだよ。今、ハマってんだって」
「お前のばあちゃん、多趣味だよな~。ってか、上半分と下半分でレベルの差激しすぎじゃね?」
「まじか~。結構、頑張って考えたんだけど」
「いや、うほとか、神エロとか、まんま謎だし」
「まじか〜」
がんばったんだけどな、とブツブツやつが言う。
「もう少しひねったら、良い感じに収まるんじゃね? で、季節行事なんだけど」
「運動会だろ? どうする? 写真使うなら、親にも協力頼まなきゃな〜」
「だよな。最後の運動会!って、気合い入れてるし。早目に言っとくか」
しばらく、やつと運動会の記事について話す。
「お前のとこ、両親共に母校なんだっけ?」
「そう、同中。創立ウン十年なんだっけ。あっけないよな〜」
「なんかさ、まだ色々揉めてんだって。俺たちの卒業までだったはずが、1月までになるらしいぞ」
「えっまじか〜。来年、どうすんだろ? 自宅?」
「さあな。青空教室だったりして」
なんとなく沈黙。
人口減少からの市町村合併で、学校は統廃合を繰り返し、要は、金が足りない。
「あ〜あ、高校生になったら、彼女欲しいな〜」
やつがしみじみと言う。
「だよな。なんか、バタバタしてて、想い出作りどころか、来年どーなんの? って感じだし」
「まあな〜。担任もだよな、俺ら帰宅部だからって、クラス新聞とかさぁ。まあ、結構楽しいけど」
山と海に囲まれた、のどかとしか言い様の無い、田舎。
変わり映えしない、少人数のクラス。
今さら、特に新聞にすることも無いと思ってた。
「……新学期、始まったばっかりなんだよな」
「まあな〜。あっ、やる? パングラム。俺運動会の記事考えるからさ」
「おっ、いいぜ? ふはは、正月の俺の実力を、見せてやろう!」
来年の1月まで。そうじゃなくても、学校を卒業したら。みんな行き先が違う。
「つか、お前女子にエロコマンドーって呼ばれてたぞ」
「えっ、まじか〜。えへへ」
「そこ、嬉しそうにするとこ?」
俺は、パングラムを作り直した。
***
皐月頭に恋をして
共寝温む夜
平屋へ耽り
卯波か夢の知恵
頰忘れはせん
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窓の外には、鯉のぼりが風に吹かれている。
この日々が続けばいい。
ずっと、ずっと。