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全員バトン  作者: 森野昴・シンG・しいたけ・ぼるてん・黒イ卵・間咲 正樹・陸 なるみ・マックロウXK・砂臥環・砂礫零・秋の桜子・かわかみれい・べべ
5/15

5月 (黒イ卵)

 ***


  皐月(さつき)(あたま)(こい)をして


  共寝(ともね)(ぬく)()


  平屋(ひらや)(ふけ)


  (ゆめ)(わす)れはせん


  謎のウホ


  ()ち (かみ)エロ


 ***



 「おい、この怪文書はなんだ?」


 やつに問う。


 ゴールデンウィークに、やつの家。


 正月の書き初めと回文の話を、なんとなくクラスで話したのは、2月の終わり。


 そしたら担任が、俺たちにクラス新聞を毎月書かないか? なんて言い出して。


 3月、4月とやつが書き出したのは……新聞じゃねえ! 小説だった!


 異世界なのか、謎の世界に俺とやつが行き、学園モノかと思いきや即卒業。その後は例の洋菓子店も出て来て、そして女コマンドーの元で修業。まさかの就職先だ。


 クラスの奴らが「もっとエロくしろよ!」だの、「下ネタが足りない!」だのって言い出して、さすがに担任から、「正月の書初めと回文のようなのを入れて、季節行事も取り上げてくれ」と注文が……。

 

 で、俺は、やつが「連休中にやるから任せろ!」って言うものの、気になって見に来たってわけだ。 


 「あっ、これか? ばあちゃんが、パングラムってのにハマってな。上半分がばあちゃん、で、下半分考えてみろって言われて。やってみたんだ」


 「パングラム?」


 「言葉遊びのひとつでな、『あ』から『ん』までの、全部の言葉を使って、文章にする遊びなんだって。どの文字も1回限り使って」


 俺は、ひらめいた。


 「もしかして、いろは歌とか?」


 「そうそう! よく知ってんな。クラス新聞書くことと、正月お前が言ってた回文の話、ばあちゃんにしてさ。したら、教えてくれたんだよ。今、ハマってんだって」


 「お前のばあちゃん、多趣味だよな~。ってか、上半分と下半分でレベルの差激しすぎじゃね?」


 「まじか~。結構、頑張って考えたんだけど」

 「いや、うほとか、神エロとか、まんま謎だし」

 「まじか〜」

 

 がんばったんだけどな、とブツブツやつが言う。


 「もう少しひねったら、良い感じに収まるんじゃね? で、季節行事なんだけど」


 「運動会だろ? どうする? 写真使うなら、親にも協力頼まなきゃな〜」


 「だよな。最後の運動会!って、気合い入れてるし。早目に言っとくか」


 しばらく、やつと運動会の記事について話す。

 

 「お前のとこ、両親共に母校なんだっけ?」


 「そう、同中(おなちゅう)。創立ウン十年なんだっけ。あっけないよな〜」


 「なんかさ、まだ色々揉めてんだって。俺たちの卒業までだったはずが、1月までになるらしいぞ」


 「えっまじか〜。来年、どうすんだろ? 自宅?」


 「さあな。青空教室だったりして」


 なんとなく沈黙。


 人口減少からの市町村合併で、学校は統廃合を繰り返し、要は、金が足りない。


 「あ〜あ、高校生になったら、彼女欲しいな〜」


 やつがしみじみと言う。


 「だよな。なんか、バタバタしてて、想い出作りどころか、来年どーなんの? って感じだし」


 「まあな〜。担任もだよな、俺ら帰宅部だからって、クラス新聞とかさぁ。まあ、結構楽しいけど」


 山と海に囲まれた、のどかとしか言い様の無い、田舎。

 変わり映えしない、少人数のクラス。

 今さら、特に新聞にすることも無いと思ってた。


 「……新学期、始まったばっかりなんだよな」


 「まあな〜。あっ、やる? パングラム。俺運動会の記事考えるからさ」


 「おっ、いいぜ? ふはは、正月の俺の実力を、見せてやろう!」


 来年の1月まで。そうじゃなくても、学校を卒業したら。みんな行き先が違う。


 「つか、お前女子にエロコマンドーって呼ばれてたぞ」

 

 「えっ、まじか〜。えへへ」


 「そこ、嬉しそうにするとこ?」


 俺は、パングラムを作り直した。




 ***


  皐月(さつき)(あたま)(こい)をして


  共寝(ともね)(ぬく)()


  平屋(ひらや)(ふけ)


  卯波(うなみ)(ゆめ)知恵(ちえ)


  (ほお)(わす)れはせん


 ***




 窓の外には、鯉のぼりが風に吹かれている。


 この日々が続けばいい。


 ずっと、ずっと。

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