3月 (しいたけ)
「俺、この後女賢者先生に告白するんだ……!」
奴はそう言い残し、自分のクラスへと入っていった。
本日俺はこの学校を卒業する。三月の半ば、もうすぐ春の陽気が待ち受ける麗らかな空気を名残惜しそうに少しずつ感じている。手にした卒業証書の筒は軽く、カポッと蓋を外せば紙切れ一枚しか入っていない。
卒業式なんざあっと言う間の出来事で、俺は泣いている女子の隣を通り過ぎ、校舎裏で呆然と路傍の草を眺めていた。
「なんだ、こんな所に居たのか」
「……女コマンドー先生」
手榴弾やらマシンガンを常に携える女コマンドー先生がひょっこりと校舎裏に姿を見せた。
「どうしました?」
「いやな……お前を本当の意味で卒業させてやろうと思ってな?」
―――ゴクリ
おいおい、奴じゃないがまさか俺が別な意味で卒業してしまうとはな……!
「ここなら人も来ない。さぁ……眼を閉じて……」
「女コマンドー……先生」
俺はエロス期待感を胸に眼を強く閉じた!
―――チャキッ!
(……?)
「ただし……この世からの卒業だがな!!!!」
俺が目を開けると女コマンドー先生がハンドガンを俺の額に押し付けていた!!
「危ねぇ!!!!」
―――ドンッ!
とっさの緊急回避で弾はギリギリ躱せたが至近距離の銃声はけたたましく、耳鳴りが凄まじい。
「先生何を!?」
「何って……卒業式だよ!!」
ジャラジャラとポケットから血塗れの第二ボタンを地面に溢す女コマンドー先生。どうやらクラスの男子は全員犠牲になったようだ……!!
「大人しく鉛弾を喰らいやがれーー!!」
「に、逃げろ!!」
俺は慌てて逃げ出し保健室へとやってきた!!
(こ、ここなら女騎士先生がいる……!!)
真面目一直線で質実剛健な女騎士先生ならきっと助けてくれる!!
「た、助けて下さい女騎士先生!!」
「ど、どうした急に!?」
「このままだと女コマンドー先生に卒業させられてしまいます!!」
「そうか……ここなら安心だ。さ、私が見ててやる。ベットに横になって」
優しい手つきで白衣を脱ぎ始めた女騎士先生。ま、まさか……今度こそ卒業なのか!?
「女騎士先生……俺初めてなんです」
「大丈夫だ。私に身を委ねなさい。必ずお前を助けてやる」
俺はベットに横たわり、そっと眼を閉じた。
―――ピタ
(?)
首に何やら冷たい感触が触れた。嫌な予感がして目を開けると、そこには簡単に人をぶっ殺せそうな剣を振りかざした女騎士先生が居た。
「生きる苦しみから救ってやる!!!!」
―――ブオン!!
「危ねぇ!!!!」
咄嗟に横に転がりベッドから地面へと落ちた。素早く立ち上がるとベッドは真っ二つになっており、そこに自分の首が有ったかと思うと背筋がゾッとした……。
(女騎士先生も狂っている!)
俺は廊下へ飛び出し当ても無く逃げ出した!
「待て!!」
「待ちなさい!!」
後ろから追い掛けてくる女コマンドー先生と女騎士先生。俺が脱兎の如く校舎を逃げ惑っていると、曲がり角で奴とぶつかった!
「た、助けてくれ!!」
奴の後ろには女賢者先生が決死の形相で立っており、何やら怪しい呪文を唱えている。しかもよく見たら奴は下半身が丸出しだった……。
「もしかしてお前もか!?」
俺の後ろに居る女コマンドー先生と女騎士先生を見た奴は、一瞬にして全てを察した。
「そうなんだ! 女賢者先生に告白したら『卒業させてあげる』って言うから……俺!!」
俺の足に掴まり震える奴。そして俺達は三人の先生に挟み撃ちにされてしまった!
「ダメだ! ここで殺される!!」
俺達は子猫のように震え運命に身を委ねた。しかし三人の先生達は睨み合うだけで動かず、各々の武器を構えたまま固まっている。
(……?)
「女騎士先生……邪魔を為さらないで下さい」
「いやいや女コマンドー先生こそ」
「何だと女賢者先生が一番邪魔だろう?」
三人がそれぞれ啀み合う様にお互いを睨みつけた。何やら先生同士で三角関係が出来ている様だ。
「……三竦みだ!!」
すると奴が俺の脚で声を上げた。
「あの蛙と蛇とナメクジのあれか?」
お互いに手を出せず硬直状態の現場で、俺はこの瞬間を生き抜く手立てを考えた。
―――!!
そして閃いた! 最早四の五の言っている場合では無い!
「おい! ケツを貸せ!!」
「―――え?」
「今この場で卒業するぞ! そうすれば先生達から追われる身では無くなるはずだ!!」
「…………もしかして、俺とお前と……?」
下半身丸出しの奴は慌ててケツを押さえた。
「早くしろ! 時間が無い!!」
「止めてくれ! 初めてがお前だなんて……!!」
往生際の悪い奴を押さえつけ、俺はチャックを下ろした。これも生きるため仕方ないこと……。
「これも生きるためだ! 許せ!!」
「く、くそ……俺も男だ! 一思いにやれ!!」
「待ちなさい!」
後少しで卒業と言うところで、女騎士先生が俺達を止めた。
「君たちはこの先まだまだ長い。そんな事で人生を無茶苦茶にしてはいけない!」
「そうです! そんな事をすれば後が大変なことになりますよ!」
「もうお前たちは立派に卒業している! 私達が言う事は何も無い!」
―――パチパチパチ
「せ、先生…………」
俺は先生達から暖かい拍手を貰い、ゆっくりと学び舎を後にした―――